なめちゃいたい
<プロフィール>
商業では粟生慧で執筆しています。
おもに電子書籍ではBL中心です。
商業の内容はほぼエロです
大学の講義も終わり、小腹がすいたので、嵯峨は学食の片隅でポッキーをつまみながら、一面のテラスから外を眺めていた。暖房のきいた食堂の中、テラスから差し込む日差しはポカポカと暖かく、どこか眠気を誘うものがある。
半分うとうとしかけて、唇にチョコが溶けてき始めているのも気にせず、脳の活動をフリーズさせたまま、気持ちのいい半覚醒状態を楽しんでいた。
ふと気付くと、テラスの向こう側。芝生をはさんだ小道で、大きく両手を振っている人物がいる。何だろうとまじまじと見ると、幼馴染で腐れ縁の市原だった。
とび跳ねたり、大手を振ったり、うざいほど自己アピールをしながら駆け寄ってきて、テラスの窓にぶち当たったまま、口を大きくあけると、何かくれという仕草をし始めた。
市原は変人だった。とかく物事目立たずに生きていきたい嵯峨に比べ、お祭り大好き、目立つの大好きな人間なのだ。
「学食に入ってくればいいのに……」
当たり前のことを当たり前にできない。そういう市原を嵯峨はある意味疎ましかった。しきりにテラスの鍵を指差しているところをみると、学食の入口に回るよりも、直接テラスから入りたいらしい。
嵯峨が何となく周囲に注意を向けると、皆、不審そうに嵯峨と市原を見ている。
市原は頭を抱え、ため息をついた。仕方ないのか。昔から、市原はマイペースで、嵯峨はそれに巻き込まれて、面倒くさい思いをしてきた。
思えば、小学生一年のころ、ひときわ体が小さく女の子のようだった市原を嵯峨がいじめっ子からかばったのがきっかけだった。子どもの頃は家が近くだというだけで仲良くなれた。その頃は市原もまだ大人しく、今のように目立つような行動はなかった気がする。中学に入ったころから、おとなしかった市原が変わった。突拍子のない言動が増え、少し浮いた存在になった。反対に嵯峨はガキ大将を気取っていた小学生のころと変わり、行動を慎み、できるだけ目立たない生き方に変化していた。
おとなしくなった理由はある。目立たないほうがいいと思い知った原因でもある。市原がそれを知っているから、嵯峨は市原を邪険にできなかった。
少し弱みを握られたまま、市原と腐れ縁は続き、なぜか公立高校まで一緒に進学することになり、こうして大学も一緒だということになると、一抹の疑念を抱かざるを得ない。
市原は自分に対して、何か一物持っている。
だから、嵯峨は市原をうざいうっとうしいと思っても、突き放せずにここまで行動をともにしてきたのだった。
今回も、早く周囲の注意を払しょくしたくて、素直にテラスの鍵を開けてやった。
「じゃじゃーん! 市原ちゃんでーすっ!」
「わかってるよ」
嵯峨はため息をついて、席に着く。
「何食べてんの?」
「ポッキー」
「もらっちゃうよ」
と言いつつ、すでに市原はポッキーをつかんで口に放り込んでいた。
「さて、ポッキーは太いのと、細いの、どっちが好きですか!」
「なんだよ、いきなり」
「僕は太いのが好きです」
といって、ポッキーを唇に咥え、ゆっくりとストロークし始める。チョコが溶けて、唇を茶色くしていく。わざとしているのか、茶色に染まった舌先で、ポッキーの芯をなぞってなめ出した。
「汚いよ。早く食えよ」
嵯峨はうんざりしたように言った。
「嵯峨は太いの好き?」
「食えればそれでいい」
「なめるのは?」
「なめてんのはお前だろうが」
「僕はなめるのも咥えるのも好きでーす!」
そう言って、割にかわいい顔をにっこりさせる。ふざけてなかったら、きっと女子にもてるだろうに、と嵯峨は市原を見て思った。
「嵯峨のもなめていい?」
市原がポッキーに歯を立てて、カリッといわせながら食べた。
「ほしいならやるよ」
「ほんとになめちゃうよ?」
市原がにかっと笑い、嵯峨の唇に指を添えた。その唇についたチョコをぬぐい取ると、人差し指を口に含む。
「嵯峨のこと、なめちゃいたいくらい好きだよん」
「あほか」
嵯峨はそうぼやいて、動揺を隠すように眼鏡のフレームに触れた。
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なお商業収録作品は除外しております。
「キミイロ、オレイロ」
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関連作品のみ。