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勝手に王太子との婚約を決められた自由恋愛主義の私、全力で拒絶したのに「君を惚れさせてみせる」と迫る王太子の溺愛(※行動が重すぎる)が止まりません!

掲載日:2026/06/17

それは、ある日の朝食の席でのこと。実に軽いノリで、父はとんでもない爆弾を落とした。

「クレア、おめでとう。お前と王太子エリオット殿下の婚約が決まったぞ」

青天の霹靂とはこのことだ。

私は持っていたフォークを皿に落とし、間抜けな声をあげた。

「……はい? お父様、今なんとおっしゃいました?」

「だから、王太子殿下から直々に婚姻の申し込みがあったんだ。お前には事前に言うと『絶対に嫌だ』と暴れると思ったからな、私の一存で勝手に承諾しておいた!」

「当たり前でしょ! 私は常々『自由恋愛主義』だって公言していたじゃない! 結婚相手くらい、自分で一目惚れした素敵な人と結ばれたいの!」

「相手は次期国王だぞ!? この意味がわかるか? お前は未来の王妃になるんだ!」

「たとえ世界の主になるとしても、好きでもない男と結婚なんてご免被るわ! 今すぐ王宮に『やっぱりクーリングオフします』って伝えてよ!」

「できるわけないだろ! 頼むクレア、ここは私の顔を立てて、せめて一回だけでもエリオット殿下とお茶会をしてくれ!」

父に涙ながらに懇願され、私はしぶしぶ、王太子エリオットと顔を合わせる羽目になった。

王宮のきらびやかな一室で、私たちは二人きりにされた。

目の前に座る王太子エリオットは、悔しいことに、悔しいことに(二回言う)、信じられないほどの超絶イケメンだった。おっとりとしたマイペースそうな雰囲気が漂っている。

「いやあ、君が婚約を承諾してくれて本当に嬉しいよ、クレア」

「……殿下、この際ですからハッキリ申し上げますわ」

私はにこやかに微笑むイケメンに、容赦なく現実を突きつけることにした。

「私の両親が勝手に婚姻届に判を押しただけで、私は一ミリも乗り気じゃありませんの。王太子が求婚すれば、女が全員泣いて喜ぶと思ったら大間違いです。ですから、私との婚約は今すぐ白紙に戻してくださいな。私より家柄が良くて美しい令嬢なんて、王都を歩けば馬車に当たるくらいいますわ」

さすがにプライドの高い王族だ。ここまで言えば怒るか、興ざめして婚約を破棄してくれるだろう。

しかし、エリオット殿下は怒るどころか、アメジストのような瞳をきらめかせ、嬉しそうに身を乗り出してきた。

「やっぱり君は最高だね! ――いいよ、今は無理やりでも、これから僕に死ぬほど惚れさせてみせるさ」

……この王子、顔は極上なのに、人の話を聞かないタイプだわ。

この日を境に、私の平穏な日常は、王太子の手によって「過剰」に変貌していくことになる。


翌朝。私がいつもの時間に目を覚ますと、部屋の外から何やらシクシクと泣き声が聞こえてきた。

不審に思って部屋の扉を開けると、そこには我が家の使用人たちが一列に並び、感動の涙を流していた。

「な、みんな、どうしたの……?」

「クレアお嬢様! ああ、なんという果報者でいらっしゃるの!」

「エリオット殿下が……エリオット殿下が、今朝の午前三時から我が家の厨房に籠もられ、お嬢様のために朝食を作られたのです……!」

は? 王太子が? 朝三時から?

慌てて食堂へ向かうと、テーブルの上には、朝食という概念を完全に無視した豪華絢爛なフルコース料理が、所狭しと並んでいた。子豚の丸焼き、特大のステーキ、各種パスタに高級ケーキまで、およそ十人前はあろうかという料理の山。

その中央で、エプロン姿の王太子が爽やかに微笑んでいた。

「おはよう、クレア。君のために真心を込めて作ったよ。さあ、召し上がれ」

「召し上がれじゃないわよ! 朝から胃もたれで死んじゃうわ! ちょっとお父様とお母様も何か言ってよ!」

見れば、私の両親はすでにテーブルにつき、王太子の作った料理を「うまい、うまい」と大絶賛で爆食いしていた。完全に餌付けされている。

「遠慮しないで。君が美味しそうに食べてくれる姿を想像したら、つい手が止まらなくなってね。明日からは二十人前に増やすよ」

「減らしなさいよ!!」

試しに口にしたサラダが気絶するほど美味しかったのが、最高に悔しかった。

しかも、王太子の「重すぎる溺愛」はこれだけにとどまらなかった。

私が学園へ登校しようとすると、当然のようにエリオット殿下が馬車に同乗してきた。

「なぜついてくるの? 殿下と私は学年も校舎も違うはずですけど」

「ああ、それなら問題ないよ。今日から君のクラスの『歴史』と『魔術論』の教授を全員買収……おっと、休暇を出してね。僕が臨時講師として教壇に立つことにしたんだ」

「職権乱用がすぎる!!」

授業中、教壇の上から熱烈な視線を送られ、私のわからないところがあるとスッと近づいてきて耳元で答えを囁いてくる。

おまけに、休み時間になれば、私に近づこうとする男子生徒を「威圧(物理)」で全員消し去り、私専用の移動式ティーセットを抱えて背後霊のように付き従う。

そんなバグった生活が一週間も続いた日の夕方。

学園の帰り道で、私の精神的ストレスはついに限界を迎えた。

「もう、いい加減にしてーーー!!」

私は誰もいない夕暮れの通路で、エリオット殿下に向かってキレ散らかした。

「どうしたんだい、クレア? お腹が空いたのかな? 今日は最高級のタルトを――」

「迷惑だって言ってるのよ! なんで王太子のあなたが、そこまで私に執着するわけ!? もっと大人しくて都合のいい女を選べばいいじゃない!」

私が怒気を孕んで怒鳴ると、エリオット殿下はふっと遠い目をして、切なげに微笑んだ。

「君は、本当に覚えていないんだね。……僕たちがまだ、七歳だった頃の園遊会のことを」

「え……?」

「あの頃の僕は内気で、身体も小さかった。それをいいことに、高位貴族のいじめっ子たちに囲まれて、裏庭でなぶり殺しにされそうなほど殴られていたんだ。されるがままに泣いていた僕の前に、猛然と立ちはだかったのが、君だった」

エリオット殿下は、私の手をそっと包み込む。

「君は小さな身体で、いじめっ子たちをマシンガンのような言葉の暴力で徹底的に論破し、ボコボコにして僕を救ってくれた。僕にとって、君は人生のヒーローだ。だから、君にふさわしい男になるために、僕は血の滲むような努力をして、剣も魔術も国政も、すべてトップにのし上がったんだ。君を守り、君をお嫁さんにするためにね」

「あ……」

言われてみれば、うっすらと思い出してきた。

確かにそんな、意気地なしのモブ男を助けた記憶がある。

「あの時の弱虫が、あなただったのね。……でも、悪いけど私はあの頃から言ってるわ。戦おうともしない、意気地なしの男は大嫌いよ! 今のあなただって、権力を使って私を追い詰めているだけで、本質はあの頃のヘナチョコと変わらないわ! あなたなんて大嫌い!」

私は彼の制止の声を振り切り、その場から走り去った。

彼を傷つけた罪悪感はあった。けれど、押し付けられる愛にこれ以上耐えられなかったのだ。


それから、エリオット殿下はピタリと私の前に姿を現さなくなった。

朝の寝室の外から泣き声がすることもなく、学園の授業も元の教授に戻った。

一週間ぶりの解放感――のはずなのに、なぜか私の心は、ぽっかりと穴が開いたように虚しかった。

そして数日後、学園の主催する大夜会が開催された。

壁際で一人、冷たいジュースを飲んでいた私に、ねっとりとした嫌な声がかけられた。

「おいおい、王太子殿下に捨てられた哀れな負け犬が、一人で何をしているんだ?」

現れたのは、ルミナス伯爵令息のルークだった。学園でも有名な、身分を笠に着た傲慢な男だ。彼は私を値踏みするように見下し、大声で嘲笑った。

「自由恋愛主義などとほざいて、王太子殿下を誘惑して婚約者の座に収まろうとしたふしだらな女め! お前のせいで殿下は心を痛められている。お前のような身の程知らずな女は、今すぐこの場でドレスを剥ぎ取られ、泥水をすすってお似合いの平民にでも抱かれているのがお似合いだ!」

周囲の貴族たちが、クスクスと下品な笑い声を漏らす。

事実無根の冤罪。悔しさに唇を噛み締め、私が言い返そうとした、その瞬間――。

――ピキィィィィン!!!

会場のすべてのガラスが震えるほどの、圧倒的な、命の危機を感じるほどの「冷徹な覇気」が、広間全体を包み込んだ。

「……僕の許可なく、僕のヒーロー(婚約者)の髪の毛一本でも傷つけようとする虫ケラは、どこのどいつだ?」

地獄の底から響くような声とともに現れたのは、いつもはおっとり微笑んでいた、エリオット殿下だった。

しかし、今の彼の瞳にいつもの優しさはない。冷酷無比な絶対王者の瞳だ。

「で、殿下……っ!? なぜ、このような女を庇うのですか! この女は殿下を愚弄し――」

「黙れ、ルーク・ルミナス」

エリオット殿下が軽く指を弾くと、ルークの足元から瞬時に漆黒の魔術の檻がせり上がり、彼を拘束した。

「ルミナス伯爵家が国家予算を横領し、闇組織と繋がっていた証拠は、すべて僕の裏工作……ゲホン、僕の調査で掴んでいる。本日をもって、ルミナス家は取り潰しだ。我が国で一番重い罪を与える。僕の大切なクレアを侮辱した罪も、たっぷり上乗せしてね」

「ひ、ひえええええっ! 助けてくれええ!」

一瞬にして、ルークは駆けつけた近衛騎士団に引きずられていった。

あまりにも完璧で圧倒的な「ざまぁ」劇に、会場全体が静まり返る。

私は、呆然とエリオット殿下を見つめていた。

(な、なにあれ……。めちゃくちゃカッコいいじゃない……)

私の前ではいつも、10人前の朝食を作ったり、トイレの前までついてきたりするヘナチョコ(ストーカー)だったのに。私のために、国を一つ動かすほどの力で、本気で怒ってくれた。その圧倒的な強さと、普段のヘタレな姿とのギャップに、私の心臓がドクンと大きく跳ね上がる。

ルークを片付けたエリオット殿下は、私の方を振り返ると、途端にいつものおっとりした「ヘタレ王子」の顔に戻って、しょんぼりと肩を落とした。

「ごめんね、クレア。僕のせいで嫌な思いをさせた。君の言う通り、僕は君の気持ちを無視して、権力で君を縛り付けようとしていた。君には自由恋愛をする権利がある。……もう、君の前に姿は現さないよ。今まで本当に、ありがとう」

切なく微笑み、背を向けて去ろうとするエリオット殿下。

その背中を見て、私の胸の中に、あの幼少期の「ヒーロー」の魂が蘇った。

気がつけば、私は大衆の面前であることも忘れて、彼の背中に向かって叫んでいた。

「ちょっと待ちやがれ、エリオット!!!」

殿下がびくりと肩を揺らし、きょとんとして振り返る。

「……クレア?」

「な、なによそれ! ちょっと怒られたくらいで、そんな簡単に諦める男だったわけ!? 男なら、フラれても、嫌がられても、不屈の精神で這い上がってきなさいよ! 諦めることを知らない執念こそが、私の心を動かすんじゃないの!?」

顔を真っ赤にして叫ぶ私を見て、エリオット殿下は一瞬、呆然と目を見開いた。

けれど、次の瞬間には、世界中の誰よりも嬉しそうに、実に見事に破顔した。

「――そうだね。これくらいで諦めたら、君の男は務まらないよね!」

エリオット殿下は私の元へ大股で歩み寄ると、大衆の前であることも気にせず、私の腰を抱き寄せて力強く引き寄せた。

「覚悟してね、クレア。明日からは朝食を『三十人前』にして、君のベッドの横で待っているから」

「それは本当に勘弁してって言ってるでしょ!!」

私たちは顔を見合わせて、会場中の貴族を置き去りにしたまま、大声で笑い合った。

自由恋愛主義の私が、まさかこんな「重すぎる不屈の男」に一目惚れさせられるなんて、人生本当に、何が起こるかわからないものである。

(終)

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