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悪役令息達の破滅フラグは全てハピエン回収します!  作者: 夏みかん


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9/18

プロローグの終わり

 美術室を飛び出し、静まり返った旧校舎の廊下を走り抜ける。心臓の鼓動が耳元でうるさく鳴り響き、頬にはまだ、彼に浴びせた怒りの熱が残っていた。

(……やってしまった)

廊下の角を曲がり、ようやく足を止めた私は、壁に背を預けて深く息を吐き出した。

落ち着いて考えれば、レオは主人公と同級生、つまりまだ16歳なのだ。他人からの感情と向き合う余裕がなく、自分のことでいっぱいいっぱいなのも仕方がない。27歳であんな風に感情を爆発させる私の方が、よっぽど大人げない。

(自分が愛されない人生を送ってきたから、彼が羨ましかっただけ。…ただの八つ当たりだ)

前世での私は、親に疎まれ、友人もうまく作れなかった。だから、ただ独り乙女ゲームに救いを求めて生きていた。だからこそ、レオが周囲にいる女の子たちから純粋に慈しまれていることが、羨ましくて堪らなかった。そして、それを自分から踏みにじるレオの姿が許せなかったのだ。

(でもレオは、人の愛し方も、愛されたい人への手の伸ばし方も知っていた。だからこそ、色んな人に愛されている。…でも、私はそれを知らない)

『こいヴィラ』をプレイして少し先の出来事を知っているくらいで、なんとかなると思っていた自分が馬鹿みたいだ。せっかくゲーム知識を活かしてレオの気を引くことに成功したのに、感情を制御出来なかったせいで自らチャンスを棒に振ってしまった。


 おそらく、もうレオとの関係を修復するのはほぼ不可能だろう。彼に近づいて黒幕かどうかを探るという当初の目的は、初日にして早くも頓挫してしまった。

しかし、冷静さを取り戻すにつれ、一つの疑問が脳裏をかすめる。

(もし今朝の襲撃者がレオの仕業で、私の固有魔法を奪った犯人なのだとしたら……)

私の「人の動きを操る魔法」があれば、私に押し返されることも、そのまま逃げられることもなかったはずだ。それなのに、彼はただ驚いた顔をして立ち尽くしていた。

(レオは黒幕じゃない…? いや、もしかしたら固有魔法をまだ使いこなせていないだけかもしれないし、これだけで判断するのは早計か…)

私は混乱した思考を抱えたまま、教室へと歩を進めた。


教室に戻ると、ホームルームは既に終わっていた。プロローグ通り、グレイ先生に連れられて医務室に向かう。

「体調はもう大丈夫なのか」

「はい、おかげさまで…」

グレイ先生から本気で心配そうな目を向けられ、初っ端からホームルームをサボってしまった罪悪感が胸を刺す。

(いや、でも今後の人生かかってるんで! あれは必要不可欠な工程!)

そう言って自分を納得させ、グレイ先生に向き直る。

「ご心配をおかけしてすみませんでした」

「いや、大丈夫ならいいんだ。この後の調査協力も、無理だけはするなよ」

その後は、ゲームのプロローグ通りに物事が進んだ。深夜まで警備隊の調査に協力し、何も解決しないまま学生寮へと帰される。


長い1日をようやく終えた私は、寮のベッドに倒れ込んだ。

(転生初日お疲れ様、私…)

どう考えても1日の出来事とは思えない密度の体験をして、私はもうぐったりしていた。

(歳をとると時間が経つのが早くなるって言うけど、逆も然りで、若返ると時の流れが長く感じるのね…初めて知った…)

普通は若返ることなどないので、転生しなければ一生分からなかった感覚だろう。

 それにしても、本当に疲れた。本来ならこういう時はビールを一缶開けたいところだが、残念ながら今の私は未成年。飲酒は法律違反だ。

(…このまま寝たいところだけど、今後のことも考えないと。今はちょうどプロローグが終わったところだから、第1章はもう明日から始まる)

私は、天井を見上げながら状況を整理する。


まずは、黒幕の調査について。これはひとまず、カケルの方にも探りを入れるのが良いだろう。レオとの関係性がこじれてしまった以上ここから仲を進展させるのは難しそうだし。それに今日のレオの行動を見る限り、「人を操る固有魔法」を使えない、もしくはまだ使いこなせていないように見えた。もし彼の方が黒幕だったとしても、今日明日で脅威にはなりえないだろう。それなら、まだ黒幕の可能性が残っているカケルを一旦注視してみる方が賢明な気がする。


次に、固有魔法の奪還方法の模索。カケルとレオのどちらが固有魔法を持っているのかが分かっても、取り返せないのなら意味がない。少なくとも相手サイドには、私の魔法を奪って相手に受け渡す能力者がいるだろうから、その人物を特定して、今朝の襲撃事件の証拠とともに警備隊に差し出せれば1番良い。

(そうすれば、自ずと黒幕の正体も分かるだろうしね。でも、警備隊の調査で見つけられないものを、私が見つけるのは無理だろうな…)

最悪、固有魔法を取り返すのではなく消せれば、今後の悲劇は止めることが出来る。これに関しては、1つ宛てがある。

(…ライッサ・ヴェルホルン。彼女の固有魔法は、「魔力の操作」)

ライッサは、相手の身体に触れることで、触れた相手の魔力を回復したり、逆に減らしたりすることが出来る。ゲーム内でも、魔力不足で魔法が使えなくなった主人公を、自らの固有魔法で助けてくれる局面が多々あった。大商会のご令嬢である彼女は、「商売に役立つような魔法がよかった」と嘆いていたが、この学園入学者に相応しい強力な魔法だと思う。

ゲーム中盤で退場するまでの彼女は、一時的に魔力を増減することまでしか出来なかった。増やした魔力も使えばなくなるし、本人の魔力上限を突破した魔力を与えても、使えば元に戻る。逆も然りで、魔力を減らされてゼロになったとしても、数時間も経てば回復するし、魔力上限が減らされるようなこともない。しかし覚醒すれば、完全に魔力を消滅させることも可能なのではないか、と私は考えている。

(でも、これは本当の本当に最終手段。もうこれしかないって局面で切るカードだ)

完全に魔力を失うということは、一生基礎魔法も固有魔法も使えなくなるということ。そうなれば、この学園からは強制退学。働き口も無いことはないだろうがかなり狭まるし、魔力が無いことで奇異の目を向けられながら生きることになるだろう。そして、私の固有魔法も消えるということは、私もこの学園から去らなければならない。

(ライッサにそんな業を背負わせたくないし…何が何でも、「固有魔法の受け渡し」の能力者を見つけ出さなきゃ)


そして最後に、アベル破滅の阻止――これが1番の急務だ。

ゲームのシナリオ通りなら、明日、入学後初めての魔法実技の授業で、私はアベルとペアを組むことになる。この授業が、彼が私に恋をする最初のきっかけだ。

アベルは、これまでずっと孤独だった。エルフの里で、里長の息子として生まれた彼は、幼い頃から里を治めるために生きてきた。

里の住人は彼を慕っていたが、住人たちにとって彼は崇拝の対象。親しい友人になってくれる者はおらず、常に里を俯瞰して見続け、粛々と使命を果たす日々。

エルフの寿命は約1万年。悠久の時を孤独に生き続ける彼は、だんだん感情が麻痺していった。

エルフの長を継ぐ者として、周囲から「畏怖の対象」としてしか見られてこなかったアベル。クラスでも浮いた存在だった彼は、魔法実技でもペアを作れず1人で課題をこなそうとする。そんな彼の寂しそうな姿を見て、主人公は迷わず声を掛けて、彼の孤独な人生に光を与えてしまう。

(彼は生まれて初めて、自分を「年相応の少年」として見てくれて、対等に扱ってくれる存在に出会い、心を溶かしてしまうのよね……)

 問題は、その一週間後に起こる事件だ。学園の裏森で行われる野外演習中、主人公が魔物に襲われ、命を落としかける「事故」が起きる。これも、今思えば黒幕が仕組んだものだろう。

(その事件の後、アベルは『君が死ぬのが怖い』と泣きながら私に依存するようになる。そして、エルフの悠久の時を生きる自分に対し、数十年の寿命しかない私……その差に絶望した彼は、禁忌の魔法に手を染める。他の生徒たちの寿命を吸い取って、私の寿命を無理やり引き延ばすという最悪の手段に)

…主人公は、自分の存在という光を与えたことによって、それを失う恐怖という影が彼の中に生まれてしまったのだ。

 彼が破滅するのは、禁忌魔法を使って多くの生徒を亡き者にした罪で処刑されるからだ。 それを止めるには、彼を絶望させないことが不可欠。そして彼を絶望させないためには……。

(……アベルが私に、恋をしなければいいんだ)

 私が彼にとって「特別な、守らなければならない唯一の光」にならなければ、彼は禁忌を犯してまで私の寿命を延ばそうとはしないはずだ。 仲良くなるのを避け、むしろ彼に嫌われるように振る舞えば、彼の破滅フラグは折れる。

(…というか、他の攻略対象に関しても、そうするのが1番良いのでは)

先程のレオとの関わりも踏まえて、冷静になった今なら分かる。私は、ゲーム知識を生かしても尚、たったひとりの男子高校生の心すら救えなかった。10人もの運命を変えて幸せに導くなんて大層なこと出来る気がしない。

(前世の“あの時”と同じ…私なんかが出しゃばったところで、何も出来やしない。むしろ、私が余計なことをして、相手をさらに不幸にする可能性だってある)

 それならば、「相手の幸せのために何かする」なんて殊勝なこと考えずに、自分の身だけ守って何もしない方が良いのではないか。

(とにかく明日の授業は、アベルに関わらないように……大丈夫、それなら私にもできる)

 私は、自分にそう言い聞かせて、ようやく眠りについた。

 

 翌朝。 やかましい烏の囀りと、窓から差し込む眩しい日差しで目を覚ました。  寮の入り口まで行くと、そこには昨日約束した通り、カケルが待っていた。

「おはよう、レイナ。顔色が良さそうで安心したよ」

 爽やかに微笑む彼に、「おはよう、カケル君」と笑顔で返す。

……中身は人生の酸いも甘いも経験したアラサーの私でも、澄み渡る空のような爽やか美少年の笑顔には毒気が抜かれそうになる。

けれど今の私にとって、彼は「黒幕」の最有力候補。油断してはいけない。


 彼と談笑しながら登校し、教室に入る。アベルと距離をとって接するシミュレーションを脳内でしながら自分の席に着こうとした、その時。


「お、丁度よかった。おはよ、レイナちゃん」

「……やっと見つけた」


 教室の後方から聞こえてきた2つの声に、私は固まった。

1つは、昨日美術室で決別したはずの、レオの声。

そしてもう1つは、昨日、廊下の曲がり角でぶつかった推し、ショウだった。

「……え、レオさん? ショ…昨日の人まで、どうしてここに……?」

2人は他クラスの生徒にも関わらず、無遠慮にズカズカと教室に入って私の元へと歩いて来る。

「レイナちゃんに会いに来たんだ」

「…ずっと、待ってた」

同時に話されて聞き取りづらかったが、どうやら2人とも私目当てにここまで来たらしい。

隣では、カケルがこれまでにないほど冷ややかな、けれど完璧な「笑顔」を浮かべて二人の前に立ちふさがる。

「……部外者達が、僕のクラスメイトに、何か用かな?」

カケルは、「部外者」という言葉をかなり強調して2人に問いかける。向き合った3人から、バチバチと火花が散るような視線の応酬を感じた。

(なんだ、これ…)

 アベルのことでいっぱいいっぱいな私に、更なる面倒ごとが降りかかる予感がした。

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