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悪役令息達の破滅フラグは全てハピエン回収します!  作者: 夏みかん


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4/18

教室にて

 レオと別れた後、すぐに予鈴が鳴ったので急いで来た道を引き返す。飛び込むように教室の中に入ると、既にほとんどの生徒は着席しており、まるで吸い寄せられるように私に視線が集まる。誰かが息をのむ音がした。

おそらく、私の美貌に見とれているのだろう。これは自惚れじゃない。主人公補正で、私の容姿はかなり可愛い部類に入る容姿をしているのだ。

(前世では平凡な人間だったから、こういう視線慣れないな~…。美人はいつもこんな重圧を感じていたのか…)

もっと堂々としていようと思ったが、想定外の緊張感に委縮し、若干縮こまりながら自分の席を見つけ、着席する。カケルが鞄を置いてくれていたので、場所は割とすぐに分かった。カケルの方を向いて「ありがとう~」と手を合わせると、ニッコリと笑ってくれる。


「あっ、入学式の時にいなかった子だよね? 体調不良って聞いたけどもう大丈夫なの?」

前の席に座っていた少女が、オレンジのポニーテールを揺らしながらこちらを振り返る。

ライッサ・ヴェルホルン。国内トップのヴェルホルン大商会のご令嬢で、主人公の親友ポジションのキャラクター。誰とでも仲良くできる明るさと、友達想いの優しさを兼ね備えるめちゃくちゃ良い子。主人公が落ち込んでいたら全力で励まし、悩んでいたらずっと親身に相談にのってくれる天使。ゲーム内では、操作や進行に詰まった時にサポートしてくれたり、学園や世界設定の説明役を担ってくれたりと、お助けキャラ的な存在でもある。

だが、彼女は物語の中盤で退場するので、後半はゲームの難易度がグッと上がってしまう。彼女の退場を阻止するルートはゲーム内では存在しない。


「お嬢様、あまりご自分から平民と親しくしないでください」

「ちょっとユーリ! ごめんね、この子私の執事なんだけど、変なとこで神経質で…気にしないでね」

ライッサが退場するその原因は、私を睨みつけるこの男子生徒だ。

ユーリ・エトワール。彼の家系は元々、遠方の国の名門貴族だったが、結婚詐欺師である育ての母のせいで没落し、現在はヴェルホルン家に仕えている。この学園にはエトワール家と親交がある貴族がほぼいないので、「エトワール家はヴェルホルン家に代々仕える執事家系」という設定で通しているらしい。

彼の実母は身体が弱く、彼を出産した直後に亡くなっている。そんな彼の母親代わりになった女は、結婚詐欺師だった。ユーリが幼い頃、彼の父の財産を根こそぎ奪っていったその女は、今も行方をくらましている。元々名のある貴族だったエトワール家は一気に没落し、ユーリと父親は路頭に迷う寸前だったが、そんな彼等に手を差し伸べる存在がいた。それがエトワール家と古くから親交があったヴェルホルン大商会長――ライッサの父だ。エトワール家は、ヴェルホルン大商会が軌道に乗る前から資金を援助していたため、「ようやく恩返しできる時が来た」と、会長は喜んで2人を迎え入れたのだという。そこからは親子共々ヴェルホルン大商会専属の執事として働いている。ユーリは主にライッサの執事兼護衛を任されており、この学園に入学したのも、何かと危なっかしいライッサを守るためだ。

――そして彼は、ライッサを含む名家のご令嬢を次々と騙して金を巻き上げる結婚詐欺師の悪役〈ヴィラン〉だ。ライッサは今この瞬間も、「16歳になったら結婚しよう」というユーリの嘘に騙されているはずだ。そして実際に彼は16歳になる瞬間、一斉に婚約破棄をして大金を持ち逃げしようとする。主人公がそれに気づいてなんとか阻止するものの、ライッサは愛する人から嘘をつかれ続けていたことに対するショックで心身ともに衰弱し、長期間の休学ののち、退学してしまう。

 ユーリが何故、自分や家族を助けてくれた恩人であるヴェルホルン家までも裏切るようなことをしたのかは、物語の中では明かされぬまま終わっている。


 「ううん、主に近づく平民がいたら、警戒するのは当たり前だと思うし…私も、立場はちゃんと弁えてるから大丈夫」

ユーリがライッサにしたことや、いきなり失礼な態度をとってきたことにはカチンときたけれど、一旦怒りを鎮めてゲームの主人公の台詞をなぞる。

(めちゃくちゃ腹立つし、思いっきり爆発魔法をお見舞いしてやりたいけど…ここはゲームのシナリオ通りに進めてライッサと仲良くならなきゃ)

というかこの状況でこの返しができる主人公、高校生なのに人格者過ぎるな。私も見習わなければ。

「少しは話が分かるみたいだな」

「いや、先に話しかけたの私だし! ただユーリが失礼だっただけなんだから、もっと怒ってもいいんだよ!」

「怒られるようなことは何もしていませんが。むしろ、お嬢様はもっと警戒心を持って、関わる人を選んでください。いつもそうやって誰にでも優しくして――」

「ユーリ、黙って。本当ごめんね。私はライッサ! しばらく席前後だと思うから、仲良くしてね!」

「レイナです、よろしく」

ライッサは握手しようと手を伸ばしてくれたが、ここで握手なんてしようものならユーリの手刀が炸裂しそうなので、その手はスルーしてお辞儀する。ライッサは少し寂しそうだったが、ユーリの視線を見て納得したのか、そっと手を引いた。

その切ない表情に少し胸が痛んだが、この後仲良くなるチャンスが山ほどあることも知っているので、今は仕方ないと割り切ることが出来た。


 「はい、皆さん席ついて~…ってもう全員座ってるな。やっぱアストラルムは違うな」

担任のグレイ先生が入ってくる。気だるげな雰囲気をまとった初老の男性教師。光のない目と左頬を切り裂く大きな傷跡、190センチ以上の大柄な体格。その容姿から最初は生徒に怖がられるが、その実かなり生徒思いで涙もろく、行事で生徒が頑張っている姿を見ると泣いたりする一面が徐々に広がり、次第に最も生徒に懐かれる教師となる。残念ながら攻略対象ではないのだが、何かと主人公のピンチを救ってくれる重要キャラクターだ。

ざわつく生徒たちの怪訝な目を特に気にする様子もなく、グレイ先生は教壇に立つ。

「これから皆さんの担任になるグレイ・シグルドだ。本日付で赴任したから、中等部上がりの奴らも含めて全員初めましてだな。1年間よろしく」

彼の前職は警備隊の特殊捜査班。顔の傷も、凶悪犯と対峙した時についた名誉の負傷だ。殺伐とした業務内容やワークライフバランスの悪さに嫌気がさし、平和でホワイトで給料も良いアストラルム魔法学園の教師に転職したのである。まあ、この後学園では殺伐とした事件が山ほど起きるし、それによる対応で残業続きの日々を送ることになるので、あまり状況は変わらないのだが。

「じゃあホームルームを始めます。まずは自己紹介か…先生早く帰りたいからなるべく巻き頼む。まずはアベルくんからね」

グレイ先生は窓際の1番前の生徒に目をやる。突っ伏して寝ているせいで、絹のような美しい金髪が机いっぱいに広がり、窓から差し込む日差しにきらきらと輝いている。

「ったく、めんどくせーなぁ」

先生は手に持っていた生徒名簿で軽くアベルの頭を叩く。男性にしては華奢な肩を軽く跳ねさせて、アベルくんは起床した。中性的な整った顔を崩して欠伸をしつつ、アベル君は周囲を見回す。まだ状況を把握できてないようだった。エルフ特有の尖った長い耳が、ぴくぴくと動いていて可愛い。

「自己紹介。てめえの番だ、とっとと喋れ」

「はぁい」

アベル君は立ち上がって窓に背を向ける。その幻想的なまでの美しい容姿に、男女問わず感嘆の声が聞こえてくる。アベル君は一旦口を開きかけたけれど、迷うように閉じ、グレイ先生を見上げる。エルフ族は長寿だから時の流れが遅いのだろう、その仕草は全体的にかなりゆっくりだ。

「…何言えばいいの?」

「ああ、そういや決めてなかったな。名前と出身地方、得意な基礎魔法とかか? あとは自分が言いたいこと言えばいい。だが、短めにな」

「…分かった」

アベル君は改めてクラスメイト達に向き直ると、ゆったりとした口調で話し出す。

「…アベル。エルフの里。土と水、木属性の魔法。よろしく、です」

彼が緩慢な仕草でお辞儀をすると、控えめに拍手が起こる。アベル君は満足げに着席すると、また寝ようとしてグレイ先生に怒られていた。


アベルは、第一章で破滅する悪役〈ヴィラン〉だ。

(彼と関わる事件は割と早めに起こるから、早急に対処法を考えないと)

最優先は、黒幕を明らかにして、最短ルートで今後起きる事件を阻止すること。

しかし、ゲームのシナリオ通りであれば、入学式翌日の授業で私とアベルはペアになって親しくなり、1週間後には彼を破滅させるきっかけとなる事件が起きる。たった1週間ですべてをどうにかすることはほぼ不可能だろうから、とりあえずシナリオ通りに起こるであろう事件の対処も並行して進めなきゃいけない。

(でも、私の推測通りにレオが黒幕だったとしたら、さっき接触を早められたことはかなり大きな収穫…今日の放課後の行動次第で、物語の流れを大きく変えられるかもしれない)


 アベルを見ると、眠そうに目をこすりながらも、頷いたり時折うっすらと微笑んだりしながら一生懸命皆の自己紹介を聞いている。

アベルは孤独で、弱くて、ちょっと不器用で…でも、とても優しい少年だ。

アストラルム魔法学園での生活は、彼にとって初めての、孤独を感じない幸せな日々。

彼の学園生活を守り抜くと誓い、私は机の下で拳を強く握りしめた。

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