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悪役令息達の破滅フラグは全てハピエン回収します!  作者: 夏みかん


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3/18

黒幕

『こいヴィラ』の最終章は、私がこの手で作り出す!

…と意気込んでみたはいいものの。

(未解決の謎が多すぎて、どうすれば結末を変えられるのか全然思いつかない…)

今朝の主人公襲撃事件だけでなく、『こいヴィラ』では多くの謎が残され、伏線が張り巡らされている。私は最終章の手前までプレイしていたが、多くの謎や伏線はまだ真相が分からないままだ。

(最終章までプレイしてたら、私も漫画の主人公みたいに、この先起こる出来事すべての真相も黒幕もお見通し!とっとと黒幕やっつけて即解決!ってできたのに…)

ネタバレを全力で回避していたことが、こんなところで仇になるとは思わなかった。

(『こいヴィラ』の世界に転生することが事前に分かっていたら、ネタバレ読んでおいて無双できたのに…)

無論、そんなことは不可能である。後悔しても後の祭りだ。


「レイナ、大丈夫? また具合悪くなっちゃったかな」

どうやら悩んでいることが顔に出てしまっていたらしい。カイトが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。流石に考え込んでいた本当の内容を言うわけにはいかず、適当に誤魔化す。

「あ~…ちょっと、後から教室入るのって緊張するなと思って…。入学式とか昼休みのうちに、ある程度仲良しグループ出来ちゃってるだろうし…」

「高等部から入る子は余計そうなるよね、でも大丈夫」

私の表情が体調不良によるものではないと分かってほっとしたのか、カケルの表情が柔らかくなった。

「皆優しい人たちばかりだよ。平民上がりの僕にも、差別しないで接してくれるし…もし馴染めなかったとしても、僕と一緒にいればいいよ」

この学園の生徒の大半は貴族や権力者のご子息で、一般家庭の平民はごく僅かしかいない。中には「平民ごときが、自分たちと同じ水準の教育を受けるのは生意気だ」と考える生徒もいるが、多くの生徒は特に身分の差を気にすることなく交友関係を築いている。

だが、それはここ数年の間の話。カケルが中等部に入学した当初は平民いじめが頻発しており、彼も被害を受けていた。

(そんな状況を自らの手で変えたのが、カケルなんだよね)

平民がこのアストラルム学園に入学するためには、相当魔法の才能が秀でていなければならない。高等部から入学するのもかなり狭き門だが、中等部から入学するのはさらに難易度が高いのだ。そして、高額な学費を免除される代わりに、優秀な成績を収めることが出来なかった場合、容赦なく退学させられる。そのため、中等部から入学し、ここまで通い続けているカケルは抜きんでて才能に溢れた生徒なのだ。

彼は理解者が少ない孤独な環境の中、周囲の生徒からどんなに邪魔されても屈せず努力し、首席まで上り詰めて実力で相手を黙らせた。そして、自分以外の平民がいじめを受けていれば臆せず止めに入り、時には加害者の生徒が困っている時も進んで手を差し伸べて救ってきた。

そういったカケルの行動の積み重ねで、学園全体の平民差別はなくなっていったのだ。彼は「周りが優しいから」と言ったが、決してそんなことはなく、全てカケルが努力して積み重ねた人望と実績の賜物だ。


(…本当に、良い人だな)

もしも、彼が悪役〈ヴィラン〉で、私との恋が叶わず悲しみ、破滅する未来が待っているのだとしたら。どんな手を使ってでも阻止したいと思ってしまう。

(でも、カケルが悪役〈ヴィラン〉だとは思えない。こんなに優しくて真っすぐな人が、悪事に手を染めて、私を利用しようとするなんて考えられない――だから)


「おい、ま~た新しいプリンセスたらしこんでんのかよ、オウジサマ?」

背後から声をかけられる。胸の奥に直接落ちてくるような、落ち着いた響きの声。それでいて口調は軽薄で、若干吐息混じりになっているのが色っぽい。

振り返ると、そこに立っていたのは高校生とは思えない色気を纏った男子生徒だった。

褐色の肌に切れ長の目、第三ボタンまで開いたシャツから覗く胸元には、カシオペア座のタトゥーが彫られている。

レオ・アストラルム

アストラルム魔法学園理事長の1人息子。

(…最後の悪役〈ヴィラン〉はきっと、こっちだ)

「女性関係がだらしないのは君の方だろ、レオ」

私と話していた時とは打って変わって、カケルの声と表情が固くなる。レオから守るように私の前に立ち、若干怒気を含んだ彼の様子は、27歳の私ですら怯んでしまいそうなくらい怖い。でもレオは全く意に介さず、飄々とした態度のまま私の顔を覗き込む。

「へぇ、結構可愛い子じゃん。君、絵のモデルとか興味ない?」

「レイナ、こいつはこんな風にすぐ気に入った女の子を美術室に連れ込んで、爛れた生活を送ってるクズだよ。話す価値もない。行こう」

「レイナちゃんっていうんだ。レイナちゃん、また邪魔な奴がいない時にゆっくり話そ」

「あっ…え、えっと…」

「そんな時は一生こないよ。レイナ、早く行かないと昼休み終わっちゃうよ」

カケルが私の腕を掴んで、そのまま教室の方向に引っ張る。レオはそれ以上迫ってくることはせず、「またね~」と呑気に私たちを見送った。


代々アストラルム家で守ってきたこの学園の後継者として生まれたレオは、これまで厳しい家庭環境の中で育てられた。そして、中等部の時に絵描きになる夢を完全否定され、それをきっかけに全てを縛られながら生き続ける日々がバカバカしく感じるようになり、自由を求めて生きるようになった。まぁ要するにグレた。

人物画が好きな彼は、自分好みの可愛い女の子を見つけては、デッサンモデルとして美術室に誘う。もはや彼専用と化した旧校舎の美術室に毎日のように可愛い女の子を連れ込み、特にお気に入りの子にはヌードモデルをお願いして、そのまま召し上がっているらしい。このゲームが全年齢だから、主人公とはそんなことしないけど。


ちなみに、これは物語のだいぶ終盤――第七章あたりでわかることだが、彼が女の子にヌードモデルを依頼する理由は、「特徴的なホクロ」が身体にある初恋の女の子を探しているかららしい。ここまで言ったら、大体の人は想像つくだろうが――

(そう、それは勿論主人公である私!)

私の背中の真ん中あたりには星型のホクロが5つあり、奇跡的にカシオペア座のような形に並んでいる。

そしてレオは、夜空を見上げながら

「俺、あの星座1番好き」と意味ありげに言うシーンがある。めちゃくちゃ作画に力の入ったスチル付きで。

これで私じゃなかったら何かがおかしい。これが普通の乙女ゲームなら、「一旦付き合え」と思うところだが、これは「攻略対象10人のうち9人が悪者の乙女ゲーム」なのだ。慎重に事を進めなければならない。


 それにもし、レオが最後の悪役〈ヴィラン〉だとしたら――

(彼が、これまでの悪役〈ヴィラン〉達8人を破滅に追い込んだ元凶…そして、私を陥れようとしている全ての黒幕である可能性が高い)

この物語には、黒幕がいる。それは、ゲームを進めていくうちに明らかになった事実だった。

一般家庭出身の主人公に、まるで引き寄せられるように10人のスパダリ男子がアプローチしてきたこと。そして、主人公の周囲でやたらと事件やトラブルが起きること。これらの原因は、どうやら主人公を陥れたい黒幕が、悪役〈ヴィラン〉と主人公を引き合わせるために裏で糸を引いていたかららしい。

(プレイヤーからしたら、スパダリ男子達が寄ってくるのは主人公補正として特に疑問を持っていなかったけど、お金や人脈目当ての悪役〈ヴィラン〉まで私に寄ってくるのは、確かに何かおかしいよね)

この事実は、ゲーム内で路上占い師――実は正体を隠しながら趣味で占い師をしている予知魔法を司る大魔導士――から「貴方に近付く男性の中に、諸悪の根源がいる」と告げられる。占い師の正体を知らない主人公は、占い師の言葉を全く真に受けていないのだが、その予言が真実なのは間違いない。


申し訳ないけれど、私はカケルよりレオの方が黒幕の可能性が高いと踏んでいる。なにせ、一連の出来事の引き金を引いているのがその黒幕なのだ。相当な人脈と、人を動かせるだけの権力ないし財力が必要だろう。一般家庭出身のカケルに、それらがあるとは考えにくい。


 (これから起こる悲劇の連鎖を止めるためには、早めに黒幕に近づく必要がある)

ゲームのシナリオ通りに進めば、私はこのままカケルに腕を引かれて教室に向かう。レオと再び接点を持つのは、既に何人かの破滅を見届けた後だ。

「…カケル、私お手洗い行ってから教室に行こうかな。待っててもらうのもちょっと恥ずかしいから、先に教室に行ってくれる?」

レオと別れて少ししてから、通りすがったトイレの前で私は立ち止まる。

「分かった、教室はここを真っすぐ進んだところにあるよ。鞄は君も机の上に置いておくね」

カケルは「また後で」と言って、そのまま歩いて行った。カケルとの距離が離れたのを確認してから、私は教室と逆方向、今さっき通ってきた道へと駆け出した。


 全速力で引き返してきたので、レオに追いつくのはすぐだった。

「あのっ」

「えっレイナちゃん?」

私に声をかけられたレオはかなりびっくりしたのか、若干声が裏返っていた。けれどすぐ先ほどの飄々とした様子に戻り、走って乱れた私の髪を整えてくれる。

「なに、絵のモデルの話、受けてくれんの」

私はかなり高い位置にあるレオの顔を見上げながら、なるべく人好きのする笑顔を意識して微笑む。

「いえ、絵のモデルはちょっと…もう少し考えさせてほしいんですけど、レオさんの描く絵を見てみたいな~と思って」

「…絵が好きなの?」

「はい、人物画がすごく好きで…中でもバロック絵画は魅力的だなと思っています」

レオは私の髪を撫でる手を止め、嬉しそうに目を細めるとその手を私の顎に持ってくる。中世ヨーロッパをベースにしたこのゲームの世界では、古典的で静かな雰囲気を持つルネサンスが、絵の流派として最も主流である。でも彼は、一瞬の感情や情熱の表現を追求するバロックを特に好み、得意としていた。

「じゃあ、このまま美術室行こうか」

あ~カッコいい~~~そして面が良い~~~このまま連れ込まれてえ~~~

妖艶な美青年からの誘惑に心が揺らぐが、ぐっと留まる。

落ち着け、今の私はゲームのプレイヤーじゃなく、この世界の住人として生きる主人公だ。私がしくじったら、9人の人生が終わる。ここまで無策で彼との関係を進展させてしまったので、一旦計画を練ってから出直さないと。

「あ、それはちょっと…入学初日にサボる勇気はないので…」

「それもそうか。そしたら放課後とか、好きな時においで。今日はなんも予定ないから、いつでも来ていーよ。ずっと待ってる」

最後の方は、かなり優しい響きを持った声だった。レオは、優れた容姿や家柄に興味を持たれることは日常茶飯事だったが、彼の絵の才能に興味を持つ者はほとんどいなかった。だから、自分の描く絵に興味を持たれたことが本当に嬉しいのだろう。

「はい…また後で」


ここからは、シナリオから外れた私だけの物語――いや、人生のスタートだ。

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