魔法実技の授業
校庭に到着すると同時に始業のベルが鳴り、グレイ先生が号令をかける。
滑り込むようにやってきた私、ライッサ、ユーリ、カケルを見て、グレイ先生は少し驚いた顔をしていた。私以外の3人は、中等部からずっと優等生で通ってきた人たちだ。こんな風にギリギリでやってくるのが珍しいのだろう。
他の生徒たちも、「あの編入生が何かやらかしたのか…?」とでも考えているのだろう、私に対してやや辛辣な視線を向けられる。実際、こうなった原因を作ったのは私なので気まずい思いを抱えながら、出席番号順に並んでいる列に合流する。
なんとなく周囲の雰囲気を察したのか、ライッサが「レイナちゃんのせいじゃないよ」とフォローしてくれた。本当に優しい子だ。
1限目の魔法実技は、基礎魔法全般の能力向上を図ったペアワークだ。その内容は、2人1組のペアごとにチューリップの球根が配られ、基礎魔法を駆使して花を咲かせるといったもの。花を咲かせるためには、基礎魔法の火・水・木・風・土・雷の6つの属性のうち、雷以外を使う。出来るだけ自分の苦手分野を補い合える相手と組み、協力しながら挑むのがこの授業の攻略法だ。
ペアワークの内容について説明が終わると、クラスメイトたちは思い思いにペアを作り始める。
(ゲームでは、余り者同士で組まされる形で、私とアベルはペアを組んだ。だから、先に私と組んでくれそうな誰かに声をかけなきゃだけど…もう、1人しか選択肢がいないのよね)
やや気が進まないが、私はその人に声をかける。現時点で、私が声をかけられる選択肢はたった1人。
「カケル、一緒に組まない?」
――この、黒幕の最有力候補しかいないのだ。
「えっ、僕?」
まさか、先ほどの件で少し気まずい空気になった私に声をかけられると思わなかったのだろう。彼は驚いて素っ頓狂な声をあげたが、すぐに嬉しそうなはにかみ笑顔を浮かべて頷いてくれる。
「レイナがよければ、僕も組みたいと思ってたんだ…ありがとう」
彼の初々しいリアクションに、こちらまで照れてしまいそうになる。
(本当はライッサと組みたかったけど、ユーリが許すわけないからな…)
案の定、彼女はユーリとペアになっている。私がカケルと組んだのを見て、ライッサは驚き、ユーリは「さっきまで痴話喧嘩してたくせによくやるよ…」とでも言いたげな呆れた視線をこちらに向けていた。
カケルに声をかけようとしていた、3人グループで余ってしまったらしい男子生徒――おそらく、ゲーム内ではカケルとペアを組んでいた生徒なのだろう――は、仕方なしにアベルの方に声をかけている。
(…よかった。これで、あの男子生徒の方とアベルが仲良くなれば、きっと未来は変わるはず――)
チューリップを育てる授業は、毎日の1限の時間を使って、1週間かけて行われる。これは、生徒たちの身体の負担を減らすための配慮だ。本来、チューリップは球根を植えてから開花まで半年ほどかかる。それを、魔法を用いて短期間で開花させようとしているので、相当な魔力が必要になるのだ。2人がかりとはいえ、もし1回の授業で終わらせようとすると、魔力の使い過ぎで体調を崩す生徒も出てきてしまうのだろう。
(今日だけじゃ厳しいかもしれないけど、何回も話す機会があれば、流石のアベルでもあの男の子と仲良くなるでしょ…)
彼の破滅の最も大きな要因は、「主人公への執着」だ。主人公以外ともコミュニケーションをとる機会を作って、大事に想える人が増えれば、全てが解決する…そう思っていた。
しかし、私の考えは甘かった。
私は、侮っていたのだ――アベルの、コミュニケーション能力の低さを。




