三つ巴
カケルは完璧な「笑顔」を崩さないまま、レオとショウから庇うように私の前に立ちふさがった。その声は穏やかだが、底冷えするような冷たさを孕んでいる。
「部外者? 同じ学び舎で過ごす同級生に対して酷い言い様だな、カケル」
レオはカケルを小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「…お前は一体、彼女の何なんだ。恋人ならまだしも、ただのクラスメイトの分際で彼女の交友関係を制限するのは、自分本位過ぎるんじゃないのか」
ショウも、カケルの圧に怖気づくことなく、レオに加勢する。
カケルはレオの発言に関しては歯牙にもかけない様子だったが、ショウの言葉に少し考えさせられるところがあったのか、遠慮がちにこちらを振り返る。
「…この2人は、中等部時代から有名な問題児だ。関わったら、今後君に悪影響が――」
「心配してくれてありがとう、カケル。気持ちは嬉しいけど、私は2人と話したいな」
授業をサボって爛れた生活を送る女たらしと、成績は良いが使い魔としかコミュニケーションをとらず浮いた存在のショウ。そんな2人が入学2日目の私を訪ねていきなり教室に押しかけて来ているこの状況は確かに心配するのも分かるが、ここで追い返すのも気が引けた。
「…分かった。何かあったら、すぐ大声を出すんだよ」
「お前、マジで俺のことなんだと思ってんだよ」
「…失礼な奴だな」
渋々といった様子で引き下がり、自分の席に向かったカケルに、2人は心底呆れたような顔をしている。カケルが去り、ようやく2人とゆっくり話せる…と思ったが、
「……おい、そこ。もうチャイム鳴るぞ。他クラスの奴らは早く教室戻れ」
教室の入り口から、グレイ先生の声が飛ぶ。その鋭い眼光がレオとショウを射抜くと、教室内の温度が数度下がったような錯覚に陥る。グレイ先生の鶴の一声で、談笑していたクラスメイト達が各々の席に散っていき、レオとショウも教室の外へ歩を進める。
去り際、レオはどこか気まずそうに、けれど真っ直ぐに私を見つめてきた。
「レイナちゃん、昨日のことちゃんと謝らせてほしい。昼休み、また来るから」
レオの瞳には、昨日とは打って変わって確かな熱が宿っていた。
「…レオが昼休みなら、俺は放課後に時間が欲しい。後で迎えに来る」
ショウもレオに倣って約束を取り付けてから去っていく。私はまだ状況を整理できないまま、「あ、はい…」と2人に返事をしていた。
(ショウは、最愛の人と瓜二つな私に出会ってしまったから会いに来るのは分かる。でも、レオはなんで…?)
昨日の今日で、何か心変わりでもあったのだろうか。とにかく、後で話してみないと分からない。その後行われた朝のホームルームも上の空で、何も内容が入ってこなかった。
(1限目は、さっそく件の魔法実技の授業…切り替えて、集中しなくちゃ)
とにかく、アベルと関わらないようにすればいい。関わりそうになれば、嫌われる行動をする。そうすれば、彼は私に恋をすることなく、破滅から逃れられるはずだ。
(それでいい。私なんかが誰かを助けて運命を変えようだなんて、傲慢だったんだ)
転生したてで、全員を幸せに導くと息巻いていた昨日の自分を、懐かしく感じる。
人を動かす力のない、私のような凡人は、身の丈に合ったこと以外はしてはいけない。前世で散々学んだことだ。自分のことを過信して行動すれば、身を滅ぼすし、周囲も不幸にする。
気付いたらホームルームが終わっていたので、魔法実技の授業を行う校庭に移動すべく立ち上がる――と、
「レイナ」
顔を上げたすぐそこに、カケルの顔があった。いつもの爽やかな笑顔とは違う、張り付けたような微笑みに背筋が凍る。
「昨日、何かあったの? 詳しく教えて欲しいな」
私を覗き込む彼の瞳には、独占欲に似た暗い色が混じっている。
「……はい」
そう答えるのが精一杯だった。




