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悪役令息達の破滅フラグは全てハピエン回収します!  作者: 夏みかん


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プロローグ

朝霧に沈む石畳の広場。

大勢の群衆が見上げた先にあるのは、囚人服を着た美麗な青年と――断頭台。

その青年は、私がかつて愛した人。将来を添い遂げようとすら考えた人。

だが、彼は今この瞬間、私の目の前で大罪を犯した悪人として処刑される。実際、彼は死を以てしても償いきれない罪を犯した。だから、これは仕方のないこと。

そして私は――その罪ごと、彼を愛することができなかった。

首枷に伏せる直前、青年は一度だけ振り返った。群衆の中から、まるで示し合わせていたように私を見つけ、その目に捉えた。

彼の乾いた唇が、わずかに動く。

「愛してる」

その声は、音にならなかった。それでも私の胸には、重く、深く、大きく響いた。きっと、一生忘れられない呪いになるのだろう。

兵士が合図し、刃が落ちる。目を閉じる間もなく、すべてが終わった。

広場にざわめきが戻り、人々が散っていく。私だけが、時間が止まったようにそこに留まっていた。彼の最後の言葉だけが、今も耳元で生きている。

~第八章 FIN~


「っはぁ~、今回のエンドも辛かった…」

ゲーム機を置いた私は、傍らに置いていたビールを煽りながら、良質なシナリオの余韻に浸る。

山吹れいな 27歳 OL 独身。

生きがいは、仕事終わりに深夜まで乙女ゲームをやること。

今しがたプレイしていたのは現在大流行中の乙女ゲーム『恋する乙女は悪役〈ヴィラン〉がお好き〜9つの大罪と唯一の純愛〜』。

通称『こいヴィラ』。

舞台は、西洋風ファンタジー世界のエリート魔法学園。良家の御子息やご令嬢、貴族等が多く通う学園に、主人公は一般人ながら特別な魔法の才能を見出されて入学した。入学して早々、10人のスパダリ男子生徒から猛烈アプローチされるが、そのうち9人は違法薬物の売人だったり、結婚詐欺師だったり、超ヤンデレで主人公の周囲の人間を殺そうとしたり…とにかく訳ありで、結ばれたらバッドエンド一直線な男。その中から、真実の愛を育めるたった1人の運命の人を見つ出そう!

という内容のゲームだ。

個性豊かで魅力的な10人のスパダリ男子に溺愛される逆ハーレム恋愛は最高だし、バッドエンドを避けるために「悪役〈ヴィラン〉」を見破って振らなければいけない謎解きミッションもあるのがスリリングで面白い。

ただ…

(悪役〈ヴィラン〉達にもそれぞれ辛い過去とか、主人公を騙さなければいけない事情があるから、サヨナラするのは毎回かなり辛いのよね…)

そう、彼等も好きで悪党になったわけではない。違法薬物の売人になったカナタは、病気の妹を治す薬が合法のものの中にはないから違法薬物の売人になることで治療薬を見つけようとした。

結婚詐欺師のユーリは、母親も結婚詐欺師で、嘘で相手を縛る愛し方しか知らず、お金を受け取ることでしか愛情を確かめられなかったという背景がある。

そして悪役〈ヴィラン〉たちは全員、主人公の真っすぐな優しさを受けて本気で恋をし、主人公を利用しようとしたことを激しく後悔するし、振られる時は本当に悲しむ――そして、最終的には主人公のことを想いながら破滅する。

(あー、これまで振ってきた悪役〈ヴィラン〉たちを思い出したら涙出てきた…)

熱いものがこみ上げ、私は目頭を押さえて天を仰ぐ。


ちなみに私の推しは、先ほどクリアした第八章で処刑されたショウ。彼は、過去に愛する人を目の前で殺されている。そして、愛する人と瓜二つの主人公を代わりに愛することで心の穴を埋めようとした。常に「主人公から目を離したら、また誰かに殺されてしまうかもしれない」という恐怖に駆られているため、主人公をロックオンしてからはずっと使い魔や盗聴できる魔道具を使って言動を監視する。だからこそ、ピンチに陥った時は毎回誰よりも早く駆け付けるし、身を挺して守ってくれる。本性が明かされるまではめちゃくちゃ有能なヒーローポジションで、きっと多くのプレイヤーが運命の人の最有力候補だと予想したキャラだろう。

しかしそんな彼は、主人公への愛が大きくなればなるほど周囲への疑心暗鬼が強まり、主人公と仲良くしようとする男子生徒や教師を危険因子とみなして彼らに次々と危害を加えていくようになる。そんなある日、学園の理事長の息子を殺害しようとしてしまい、即刻死刑になってしまった。

主人公は最後の瞬間までショウに寄り添おうと思ったが、主人公と引き裂かれ孤独な囚人生活を送るショウはだんだん狂っていき、「このままだと主人公が殺される」と呪文のようにつぶやき続ける廃人になってしまう。そして面会でショウが「僕が脱獄するから一緒に逃げよう」と言った時も、主人公は首を横に振って立ち去る。次に彼と再会するのは、処刑場だ。ちなみにここは分岐点で、彼とともに逃亡することも選択できるが、そうしてしまったら最後、逃走援助罪で逮捕されるバッドエンドが待っている。

 もう第八章まで進んで8人が退場したので、残るは2人。

女たらしの問題児だけど根は優しい理事長の息子・レオと、主人公と同じく一般家庭出身の入学者で、苦労人ながらも努力を怠らず全科目首席の優等生・カケル。

どちらかが悪役〈ヴィラン〉で、どちらが運命の人ということになる。

個人的には、カケルがいいかな。普段はしっかり者だけどたまに無理して弱み見せてくれるところとか、養護教諭の姉・カレンと話す時だけちょっと弟っぽく幼い感じになるのが可愛いし。

「次が最終章だし、このまま続けて全クリしちゃいたいけど…推しが死んだ直後に他の男と結ばれて喜べるほど鋼メンタルじゃないから、今日は一旦寝よう…」

明日も仕事だし、と自分に言い聞かせて、のそのそとベッドに潜り込む。社会人たるもの、自己管理も仕事の内だ。

目を閉じれば本日の労働で蓄積された疲労を実感し、どっと眠気が押し寄せる。沈みゆく意識の中で、ふと「自分が『こいヴィラ』の主人公だったら」などと、あり得ない妄想を巡らせる。ゲームの仕様上、主人公の行動には限られた選択肢しかないけれど、もし自由に言葉を発することが出来て、自分が思うように動けたら…

(たった1人の運命の人以外は切り捨てるんじゃなくて、全員幸せにする道を選べないのかな…)

なんて、とんだ脳内お花畑かもしれないけれど、どうしても考えてしまう。

(今の私みたいな普通の人間には何も出来ないけど、主人公みたいに特別な才能があるなら…きっと、今までのことも)

ふいに、ゲームではなく現実の苦い過去を思い出して、胸が苦しくなる。

(ダメだ、推しが死んでナーバスになってるんかな…もう寝よう)

今度こそ、私は意識を手放した。


翌朝。

(やっっっばい、今日に限ってアラームかけ忘れて寝てた…!)

起床した時には、もう始業時刻の9時を過ぎたところだった。遅刻はもうしょうがないとして、10時から大事な打ち合わせが控えている。

(あと1時間足らず…間に合うか?)

考えている時間なんてない。とにかく高速で身体を動かして最低限の準備をして、ジャケットを羽織る。飛び出すように家を出発し、髪を束ねながら歩きだす。

(今からダッシュで電車乗って、メイクは電車移動中にすれば、なんとか…)

そう考えていた、矢先だった。

視界の端に、白い巨体――トラックだ、と認識した瞬間には、私は宙に浮いていた。

『信号無視のトラックに轢かれ、20代女性 死亡』――この後のニュースで、そんな風に報道されるのかな。

いや、まだこれ助かる? 意外とこんなんじゃ人って死なないのかな…まあでも、別に死んでもいいか。友達もそんなにいないし、親は私のこと嫌いだし。

ああ、でも…『こいヴィラ』の最終章の結末は知りたかったな…どうせ遅刻して死ぬんだったら、オールして最後までプレイすればよかった…

生前最後にしては味気ない独白で、私の人生は幕を閉じた。


 消毒液の独特な匂いが、つんと鼻の奥を刺激する。

顔に当たる温かい光が眩しくて目を開けると、そこには白い天井があった。

(生きてる…? あの後、病院に運ばれたのかな…)

職場への連絡とか、休みの申請とか、色々面倒くさいなあ…入院もするだろうから、保険の担当者さんにも連絡して入院一時金の貰い方とか聞かないと…。

思考を巡らせているうちに、ふと違和感に気づく。

(身体がまったく痛くない…)

トラックに撥ねられた後、私の身体は地面に叩きつけられてそれはもう悲惨な怪我を負ったはずだ。それなのに、身体のどこもまったく痛みを感じない。

試しに身体を起こしてみたら、普通に起き上がれた。…それに。

(ここ、病院じゃない…学校の保健室? っぽいけど、それもちょっと違うような…)

仕切られたカーテンの隙間から、体重計と視力検査の表のようなものが見える。傍にある棚には見たことない生物がホルマリン漬けにされたガラス瓶や色とりどりの植物が立ち並び、窓の外を見ればグラウンド。

病院の病室では、ありえない光景が目の前に広がっている。

(どういうこと…? 一体何が起きて…)


私が状況を理解するより先に、事態は進展する。

「さっき倒れた女の子、大丈夫そうですか? 荷物を渡しそびれて…」

少年らしい、優しい響きのテノールが遠くから聞こえる。その問いに大人の女性の声が返答する。

「敬語、気持ち悪いからやめてくんない? …多分ただの貧血ね」

貧血じゃなくて、トラックに轢かれたんですが⁉ と心の中で盛大に突っ込みながら動けずにいると、2人の足音が近づいてくる。

「さっき私が治癒魔法で応急処置したからもう大丈夫。もし起きてたら、荷物渡すついでに挨拶していったら?」

「姉さん、別に僕そんなつもりじゃ…それに、寝起きの姿見られるのは嫌なんじゃないかな…」

「なに日和ってんのよ、あんた好みの可愛い子だったじゃん。恩売るついでに連絡先聞いときなさいよ。ここで接点持っとかないと、あっという間に他のハイスぺ男子どもの彼女になっちゃうかもよ?」

「すぐそうやって恋バナに繋げんのやめてホント…」

治癒“魔法”、養護教諭と生徒の姉弟、聞き覚えのある会話――まさか。

「お、起きてんじゃん。もう具合大丈夫そう? あなたを運んでくれた男の子が、荷物届けるついでに話したいって言ってんだけど、いいかな?」

仕切りのカーテンが開けられる。両耳に複数のピアスを開け、派手な化粧をした美人が気だるげに立っている。その隣には、彼女と揃いの青髪と碧眼を持つ少年が困った顔で右往左往していた。

「カケル…?」

「あれ、あんた達もう知り合い?」

「いや、今日が初対面のはず…君、なんで僕の名前知ってるの?」


間違いない、彼は『こいヴィラ』の登場人物の1人、運命の人の最終候補・カケル。

私は――どうやら、乙女ゲーム『恋する乙女は悪役〈ヴィラン〉がお好き〜9つの大罪と唯一の純愛〜』の主人公に転生したみたいだ。

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