第六話「レーナ・ヴィアネッタ」
これは、語ってはならぬ、語られるべき物語の一端。
*
火を崇め、火を教義とし、火を愛でる国――ミルゼア教国。
この国で生まれた子供は、生後まもなく資質を測られる。
火の能力を持つ者は火徒とされ優遇され――
能力を持たぬ者は非徒として蔑まれた。
レーナ・ヴィアネッタもその子のひとり。
彼女は火徒だった。
だが、家族はすべて非徒だった。
お母さんが自分に敬語を使うのが嫌だった。
妹より良いものを食べるのが嫌だった。
見ず知らずの誰かが、家族を監視しているのが嫌だった。
十歳を迎えたころ、レーナは国立寄宿舎に入った。
そこは火徒だけが住まう、聖域のような場所だった。
彼女はある先輩の世話係に任じられる。
身の回りの世話をするだけで給金が出た。
初めて給金を受け取ったその日、レーナは実家に帰った。
少しでも楽にしてあげたい――そんな優しさと、わずかな誇りを胸に。
(これで……お米とか、お薬とか……何か、役に立てるかな)
久しぶりに見る家は、記憶よりも小さく、暗く、そして静かだった。
そこで彼女は、決して見てはならぬものを見た。
絶叫が響き、焼けただれる匂いが渦巻き、家は地獄と化した。
*
やがてレーナは神殿へ召集された。
人にあるまじき行為を犯した、その報いを受けるのだと覚悟して。
しかし、司祭の口から告げられたのは予想外の言葉だった。
「君には、異端観測官の補佐を命ずる」
異端観測官――ごく少数しか選ばれぬ高位の監察職。
国に仇なす者を、自己の判断で断罪できる処刑人。
補佐とはいえ、彼女の年齢を考えれば異例の抜擢だった。
しかし――
「あの……私は……」
「非徒が数人、事故で死んだことを気にしているのかね?」
「事故……?」
「忘れなさい。そして、君が偉大な火から賜った才能を、誇りなさい」
「……――はい。火から賜った才能を誇ります」
レーナの瞳から光が消え、歪な炎が宿る。
「火を愛し、称えよう」
「火を愛し、称えます」
(でも、私は殺したのです。私の手で――焼き殺したのです。妹も、お母さんも)
そしてレーナは静かに笑った。
五年前のこと、はじめての狂気。
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▼次回「講義」
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