表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

第六話「レーナ・ヴィアネッタ」



 これは、語ってはならぬ、語られるべき物語の一端。



 火を崇め、火を教義とし、火を愛でる国――ミルゼア教国。


 この国で生まれた子供は、生後まもなく資質を測られる。


 火の能力を持つ者は火徒とされ優遇され――

 能力を持たぬ者は非徒として蔑まれた。


 レーナ・ヴィアネッタもその子のひとり。

 彼女は火徒だった。


 だが、家族はすべて非徒だった。


 お母さんが自分に敬語を使うのが嫌だった。

 妹より良いものを食べるのが嫌だった。

 見ず知らずの誰かが、家族を監視しているのが嫌だった。


 十歳を迎えたころ、レーナは国立寄宿舎に入った。

 そこは火徒だけが住まう、聖域のような場所だった。


 彼女はある先輩の世話係に任じられる。

 身の回りの世話をするだけで給金が出た。


 初めて給金を受け取ったその日、レーナは実家に帰った。

 少しでも楽にしてあげたい――そんな優しさと、わずかな誇りを胸に。


(これで……お米とか、お薬とか……何か、役に立てるかな)


 久しぶりに見る家は、記憶よりも小さく、暗く、そして静かだった。


 そこで彼女は、決して見てはならぬものを見た。


 絶叫が響き、焼けただれる匂いが渦巻き、家は地獄と化した。



 やがてレーナは神殿へ召集された。

 人にあるまじき行為を犯した、その報いを受けるのだと覚悟して。


 しかし、司祭の口から告げられたのは予想外の言葉だった。


「君には、異端観測官の補佐を命ずる」


 異端観測官――ごく少数しか選ばれぬ高位の監察職。

 国に仇なす者を、自己の判断で断罪できる処刑人。


 補佐とはいえ、彼女の年齢を考えれば異例の抜擢だった。


 しかし――


「あの……私は……」

「非徒が数人、事故で死んだことを気にしているのかね?」

「事故……?」

「忘れなさい。そして、君が偉大な火から賜った才能を、誇りなさい」

「……――はい。火から賜った才能を誇ります」


 レーナの瞳から光が消え、歪な炎が宿る。


「火を愛し、称えよう」

「火を愛し、称えます」


(でも、私は殺したのです。私の手で――焼き殺したのです。妹も、お母さんも)


 そしてレーナは静かに笑った。

 五年前のこと、はじめての狂気。





▼次回「講義」

お読みいただきありがとうございました!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ