表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第五話「火の選別」



 選別の場へと続く回廊――


 九重は二人に導かれ、暗がりを進む。

 歩を進めるたび、壁の松明がひとりでに燃え上がり、道を照らした。


「ふむ……興味深い」


 その呟きに呼応するように《アル・アジフ》が淡く光り、頁がひとりでに開いた。


「ありがとう旧き友よ。だが、もう把握した」


 やがて辿り着いたのは、観衆に囲まれた巨大な円形の空間だった。


 天井は高く、壁はすり鉢状にせり上がり、その縁という縁に人影が並んでいる。

 踏み固められた土の床の中央には、赤黒く焼けただれた石盤が据えられていた。


 その周囲を囲むのは、竜とも獅子ともつかぬ異形の彫像。

 大きく開いた口は、すべて石盤へと向けられている。


「選別を受ける者は、石盤の上に立て」


 壇上の司祭が高らかに告げる。


 九重は歩を進めたが、小さな少年の身体では段差に少し苦労する。

 そのとき、レーナが自然に手を差し伸べて支えてくれた。


「火は、真に人である者だけを見逃す。燃えぬ者は人、燃える者は獣以下の異端――それが選別だ」


 司祭の声が響く。レーナの瞳に翳りが差した。


 九重が石盤の中心に立つと、周囲の彫像が低く唸り始める。

 その口から赤黒い火の粉が舞い、灼熱の気配が押し寄せてきた。


 仕掛けを見て、九重は目を細める。


「なるほど……彫像の口から炎を吐き、石盤に立つ対象を焼き尽くす。これが火の選別とやらの正体か……なんとも残念だ」

「……では、私はこれで」


 レーナはそう言い残し、石盤から離れる。


 再び鐘が鳴り響き、司祭が両手を掲げる。

 観衆も、ジゼルも、レーナも、それに倣った。


 九重はその光景に肩をすくめる。

 小芝居めいた儀式が、むしろ滑稽に思えた。


(何が火の選別か――体裁を繕った、見世物処刑にすぎん)


「まぁ……これもいい機会だ。諸君らの愛する火を、私が正しく選別しよう」


 静寂が一瞬、神殿を覆う。

 九重は《アル・アジフ》を抱き、息を吸い込んだ。


「始めよ!」


 司祭の叫びとともに、彫像の口が轟音を吐いた。

 大地を揺るがすほどの炎の奔流が、九重を飲み込もうと迫る。


 その刹那――九重の唇が動く。

 空中に円環が浮かび、幾何学の神秘が刻まれていった。


「Sanguisugam igneam subiice, hic liber est auctoritas linguae ardentis!」

≪炎の吸血鬼を従属せよ、この書こそ燃え上がる舌の権威!≫


 呪文が世界に囁かれる。


 《アル・アジフ》から洩れた影が炎の奔流を包み込み、軌道をねじ曲げた。


 炎は九重を避けるように渦を描き――

 竜巻のごとく踊り、唸り、轟きながら――


 やがて上空へ弾け、掻き消えた。


「――さて諸君」




▼次回「レーナ・ヴィアネッタ」

お読みいただきありがとうございました!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ