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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第四話「地下牢での出会い」



「……ん……?」

「目が覚めたか、教授殿」


 見上げると、女騎士ジゼルがいた。


 兜を外した顔は若く整っているが、その眼差しは剣のように鋭い。

 短く揃えた栗毛が軍人らしさを際立たせ、飾り気のなさが気迫を強めていた。


「ここはミルゼア教国――首都エルデンフィアの地下牢だ」


 九重はゆっくりと起き上がり、石壁に囲まれた空間を見渡した。

 夥しい松明が燃え、炎の揺らめきが壁に影を落としている。


「……どうやら、そのようだ」

「貴様には、これより火の選別が課される。覚悟しておけ。どれほど嘆こうとも、決して逃れられん」


 ジゼルの声は冷え切っていた。

 死の宣告のように、重く静かだった。


 だが、九重は首をかしげる。


「こんな密室に松明を並べて大丈夫なのかね?」

「――ッ! 貴様……!」

「選別とは、なかなか興味深い。しかしその前に、ひとつ教えてくれぬか?」

「……この国の火には意志がある。我らを照らし、守ってくださる。害することなどない」

「ほう」


 不意に、低い鐘の音が空気を震わせた。

 鈍く長く、まるで地の底から響くような音だった。


「時間だ……立て! 選別の場へ連れていく」


 鐘の余韻が消えていく。

 その静まりを裂くように、ジゼルの背後から別の気配が近づいた。

 靴音が石畳を打ち、空気をわずかに揺らす。


 そして、少女の声が降りてきた。


「教授様、立てますか?」


 九重は思わず顔を上げる。


 銀糸を束ねたような赤髪が、松明の光を受けて輝いた。

 深紅の瞳は感情を映さず、ただまっすぐに前を見つめていた。


「キミは?」

「教国中枢機関、異端観測官レーナ・ヴィアネッタ。貴方を監視する者です」

「……よくわからんが、大層な肩書きを持つ少女が監視役とは、劇的だな」

「単独で処刑する権限が与えられているだけのこと。くれぐれも、逃走を図らぬよう」


 冷たい声音。

 だがその奥に、わずかな諦めが滲んでいた。


「……ふむ」


 九重はただ首を傾げ、その真意を追うことはしなかった。




▼次回「火の選別」

お読みいただきありがとうございました!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

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