第十九話「闇、そして少年」
グールたちの瞳から濁りが消え――
その瞳に、わずかな理性の光が戻る。
ズルズルと音を立て、全員が一斉に膝を折り、九重へ頭を垂れた。
異形が従い、ひれ伏すその光景に、レーナは言葉を失った。
「……グ――……わ――……我々は――墓所を守るもの」
「ふむ……パーシーレイク教授のレポート通りか。派閥こそあれ、グールは死者の安息を守る存在だったな」
「だが……闇に……侵された。抗えず……生者を喰らった……」
「なんだと?」
その時――
「きゃああああああっ!!」
遠くから悲鳴が響いた。
若い少女の声――しかも二つ。交差するように重なった。
「教授様!」
「行きたまえ。私は彼らの検証を続ける」
「はい!」
レーナは声の方へ駆け出した。
その間も、傍らに残ったグールが言葉を紡ぐ。
「……貴方の呪文で……闇が払われた……恩に報いたい……」
「礼はいらぬ。それより、その闇とは何かね?」
「……わから……ない」
「ふむ、つまり――」
九重が問いを重ねようとした、その時。
鋭く甲高い声が割り込んだ。
「そこの貴様! 怪物と共に何を企むつもりだ!」
九重は短く溜息をつき、不機嫌そうに振り返る。
「我が名はバスレ・オーン! エルメナス公国の異端観測官である!」
深緑のローブを纏った少年が、高らかに名乗りを上げた。
腰まで届く淡い金髪は夕日を浴びてきらめき、翡翠の瞳は無邪気なほど自信に満ちていた。
鼻筋には幼さを残したそばかすが散り、背丈は九重とほとんど変わらない。
まだ声変わりも遠い年頃のせいか、中性的な印象すら漂っていた。
「この僕が来たからには、好き勝手はさせないぞ!」
「……なんだねキミは」
▼次回「そよ風の少年」
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