第十七話「怪物と旅立ち」
夜明けが、旅立ちを告げていた。
「……冷えますね」
レーナはひとり、白い吐息を吐きながら村はずれに立っていた。
やがて村の男が現れると、彼女は耳飾りをそっと差し出す。
「どうかこれを。皆様の支援で、教授様は救われました」
「申し訳ありませんが、観測官から受け取るわけにはいきません」
この村に来てから、レーナは食料や毛布を村人に頼った。
非徒である彼らは、火徒に逆らえない。
まして異端観測官の命令は絶対だった。
レーナは後ろめたく思いながらも、教授のためにと、その立場を利用していた。
「いいえ、私はもう異端観測官ではありません。これは個人の礼です。ここを旅立つ前に……どうか」
レーナの真剣な眼差しに、男はしばし黙し――やがて口を開く。
「そこまで仰るならば、受け取る代わりに……頼みを聞いていただけませんか」
「頼み、ですか」
「この先の街道を越えれば、エルメナス公国に行けます。私たちはあちらと細々と交易をしていました。薬や塩を……」
言葉を濁しつつも、その表情には切実な色が滲んでいた。
「問題は、その道中の集落に現れた怪物です」
「怪物?」
「命からがら逃げた者が、その存在を我々に知らせると……ほどなくして発狂し、自ら果てました」
冷たい悪寒が、レーナの背筋を這い上がった。
どんな存在か分からずとも、常ならぬ危険を予感させた。
「どのような怪物かは分かりません。……ですが、退治してほしいのです」
「……教授様に、相談してみます」
*
「怪物か……興味深い。旅立ちの日に目的地が決まるとは、喜ばしいことだ」
「そうおっしゃると思っていました……」
レーナは小さくため息をついた。
▼次回「死食鬼」
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