第十五話「波紋は少女たちの元へ」
農村での戦いから三日――
ミルゼア教国内の診療所。
ジゼルは肘掛け椅子に深く沈み込み、窓の外をぼんやりと眺めていた。
午後のやわらかな陽光が差し込むなか、その瞳は虚ろに揺れていた。
「……姉様」
傍らに立ち、静かに呼びかけたのは――リア・アル=グラード。
国立寄宿舎の二年生にして、ジゼルの妹。
姉と同じ栗色の髪を肩で揃え、大きなくりくりとした瞳を揺らす少女。
小さな胸の奥には、姉譲りの誇りと不屈の焔が脈打っていた。
「あの日……何があったのですか? 姉様が追っていた、あの教授が……姉様を、こうしたのですか?」
「……教授……? ……教授……?」
ジゼルの中では、いまも残響がせめぎ合っていた。
九重の放った呪文と、それに抗おうとした怒りが渦を巻き――
理性を混濁させていた。
リアは声を殺して震え、ついに涙がこぼれた。
「……どうして……こんなことに」
そのつぶやきのあと、彼女は小さく拳を握りしめる。
胸の奥で、か細い決意が燃え始めていた。
「待ってて、姉様……わたしがきっと助けるから」
*
国立寄宿舎――
「お願い! わたしと一緒に、あの教授とかいうのを捕まえに行こう!」
リアは駆け戻るなり、息を弾ませながら友人に詰め寄った。
「パス」
素っ気なく言い放ったのは――ミカ・クーザン。
腰まで流れる黒髪を一房だけ赤いリボンで結い、すらりとした立ち姿。
切れ長の瞳がわずかに細められると、途端に大人びた気配を纏う少女だった。
「そんな!」
「バカねぇ……その教授って、あの神様召喚事件の主犯でしょ? 火の審判を跳ね退けたっていう、ヤバいやつ」
「そうだよ! そいつが姉様を……!」
ミカはじっとリアの目を見据え――
「いいかい? リア」
▼次回「明日への灯」
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