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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第十四話「助手」



 半壊した小屋の中――


「ッ……! ……もっと優しく出来ないものかね」

「これ以上緩くすれば添え木の意味がなくなります。我慢してください」


 レーナは九重の傷を手当てしていた。

 包帯を巻き、ぬるま湯に浸した布で汚れを拭う。


 最初こそ九重は「自分でやる」と突っぱねたが――


「治癒の知識はおありですか? それとも、その書の呪文で回復できるのですか?」

「あるにはあるが、自然治癒を助ける程度だ。……すでに唱えた」

「でしたら、なおさら私に任せてください」


 結局、もっともな理由に押され、九重はレーナの治療を受け入れるしかなかった。


「ほんとうに……骨が折れていなくてよかった」


 レーナの手は優しく、ひたむきだった。


 九重の唇や頬を布で拭き、何度も撫でるうちに――

 胸の奥に、あたたかな感情が広がっていく。


 その感情が抑えきれず、吐息と共に、ふとこぼれ落ちる。


「……はぁ……――柔らかい……」

「レーナ君?」

「――っ!? な、何でもありません!」


 耳まで真っ赤に染め、ガーゼを取り落とす。

 焦ったレーナは、巻き終えた包帯をさらに強く引き締めてしまった。


「すまないが、それ以上縛ると血流が止まる」

「ごめんなさい!」


 慌てながら深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻す。

 そして誤魔化すように、あるいは思わず、口を開いた。


「その……ジゼルを、始末しなくて良かったのですか?」

「殺し屋のような発言はやめたまえ」

「ですが……こんな目に遭って」

「癇癪を起こした子供の躾には、あれくらいでよかろう」


 レーナは息を呑み、九重を見つめる。

 その器の大きさに、胸がざわめいた。


「どうかしたのかね?」

「――……いいえ。つまらない質問でした」

「そうか」


 九重は小さく息を吐き、目を伏せる。

 しばし思案し、顔を上げて問いかけた。


「質問がある」

「……はい」

「なぜ私を助け、傍にいようとするのかね?」


 レーナは一瞬俯き――やがて顔を上げる。

 その瞳には、迷いのない決意があった。


「それは――……そう、したいからです」

「……そうか」

「はい」

「では、私の助手になるかね? キミが支えてくれると心強い」


 レーナは目を見開き、胸に手を当てる。

 頬に紅が差し、熱を帯びた声が零れた。


「――はい! 必ず、支えてみせます!」




▼次回「波紋は少女たちの元へ」

お読みいただきありがとうございました!

毎週水曜・土曜に更新します!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

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