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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第十三話「決着」



「さて――ジゼル君」


 九重の静かな声に、ジゼルは反射的に身をかがめ、斬りかかろうとした。

 だが、その動きを九重の言葉が遮る。


「やめたまえ。キミの剣が届くより早く、唱え終わる」

「……っ!」


 ジゼルは歯噛みし、悔しげに舌打ちした。

 その刹那――背後で爆音が轟く。


 小屋の壁が吹き飛び、騎士たちが次々と弾き飛ばされた。

 鎧は融け、破壊され、呻き声もなく地に伏す。


「教授様!」


 血の気の引いた顔でレーナが駆け寄った。


「……あぁ、あぁ……こんな……!」


 満身創痍の教授を前に、レーナの瞳は怒りに燃え上がった。

 振り返った視線が、鋭くジゼルを貫く。


「お前が……やったのか?」


 彼女の周囲に、青白い火球がふたたび浮かぶ。

 その熱はジゼルを焼き尽くさんと膨れ上がった。


「死――!」


 だが、その瞬間。


「やめたまえ」


 九重の声が、静かに火を鎮めた。


「――教授様?」


 レーナの手が止まり、火球の輝きが揺らぐ。

 従いながらも、その瞳には迷いが浮かんでいた。


 九重は歩を進め、ジゼルを真っ直ぐに見据える。


「先ほどの続きだが……ジゼル君。悪いがキミの意見に興味はない。だが、夜ごと襲撃されるのは困る」


 そして淡々と告げた。


「だから――キミには、私を忘れてもらうことにした。異議はあるかね?」


 ジゼルは震える唇から声を絞り出す。


「興味はない……か……実に貴様らしい。私は――貴様の――そういうところが、どうしようもなく憎いのだ!」


 怒りに染まる瞳が、涙のようにきらめいた。


「忘れるだと!? 火を、教義を、信仰を侮辱した貴様をか! 忘れるものか! 異端のペテン師など、必ず火に焼かれて朽ち果てる!」

「ふむ、そうか」


 九重はそれだけを呟き、気にも留めない様子で呪文を紡いだ。


「Offusca cor Gisellae, falsa somnia insculpe, et veritatem tacere iube」

≪ジゼルの心を曇らせよ、偽りの夢を刻み、真実を沈黙させよ≫


 ジゼルの目が大きく見開かれ――やがて力なく閉じる。

 その表情には、憎悪も誇りも、何ひとつ残ってはいなかった。


 それを見下ろすレーナの瞳は、氷のように冷ややかだった。




▼次回「助手」

お読みいただきありがとうございました!

毎週水曜・土曜に更新します!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

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