第十二話「死に思う」
小屋の外では――
「……言え」
暴力をひとしきり終えると、ジゼルは低く絞り出すように言った。
「貴様の外法のせいで、あの場にいた者の多くが正気を失った。神が顕現した、などという噂が、国中に広まりつつある」
血に濡れた拳が、だらりと下がる。
九重の血が、指先から地面へ滴った。
「わかるか? 貴様の罪の重さが……言え! すべてはペテンだと! 幻だと! 貴様の小細工だったと!」
「……質問――は……隔週の木曜日……レポートを添えて、提出したまえ」
「そうか」
ジゼルは静かに剣を掲げ――振り下ろした。
(ふむ、死ぬか)
《アル・アジフ》を使用した者の魂の行方には諸説あれど、確証はない。
さて、これはどちらに転ぶだろう。
九重は小さく笑い、目を閉じた。
胸の奥に、奇妙な高揚があった。
「実に、興味深い」
……だが、いつまで経っても何も起きなかった。
不思議に思い目を開けると――そこには、寸分違わぬ風景があった。
ジゼルが剣を振り下ろしている。だが、その動きは異様に遅い。
(走馬灯か? ……いや――)
九重はゆっくりと身を起こす。
やはり、周囲だけが異常に遅くなっていた。
音や風すらも、耳鳴りのように鈍く甲高い。
九重が眉をしかめると同時に――
「愛しい人」
背後から声。
振り返れば、あの少女が立っていた。
「キミは……まったく、背後から這いより、声をかけるのが趣味なのかね?」
少女は《アル・アジフ》を抱えていた。
「この捻じ曲げられた時間、キミの所作かね?」
「こんなところで死なないで」
少女は両手で、そっと書を差し出す。
「こんなところか……いったいキミの目的は何かね? 私に何を求めている?」
少女は何も答えない。
「……やれやれ」
九重が書を受け取った瞬間――少女の姿は霧のように消え、時間が跳ねた。
ジゼルの剣が振り下ろされたが、そこにはもう教授の姿はなかった。
「――!? な……!」
混乱に目を見開くジゼルの横に、ふいに影が現れる。
九重は、いつの間にか彼女の死角に立っていた。
その掌では、古の書が静かに開かれている。
「……さて――ジゼル君」
▼次回「決着」
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