第十一話「復讐するは我にあり」
小屋の扉が轟音とともに吹き飛んだ。
木片が宙を舞い、テーブルは跳ね、紅茶の雫が点のように散る。
「教授様、下がって!」
レーナが叫んで身構えたが、わずかに遅れた。
騎士のモーニングスターが唸りを上げ、彼女の腹を打ち抜く。
「ぐっ……!」
宙を舞ったレーナは壁に叩きつけられ、意識がかすむ。
その隙を狙い、騎士たちが一斉にレーナに迫った。
「貴様はこっちだ」
九重の襟首が乱暴に掴まれ、外へと放り出される。
地面に叩きつけられ、無様に転がった。
「また会ったな、教授殿」
そこに立っていたのはジゼルだった。
兜を外した栗毛の髪が風に揺れ、その瞳は冷ややかに光る。
言うが早いか、九重の腹を軽く蹴り上げた。
「が……っ!」
「どうした? 外法の術で身を守らないのか?」
「――ッ! ……そうしたいのは山々だが。《アル・アジフ》がなければ、どうにもならんのだよ」
「良いことを聞いた。信仰を嗤った報いを――身で償え」
ジゼルの蹴りが容赦なく降り注ぐ。
骨を軋ませ、肉を裂く。
痛覚をひとつずつ踏みにじるように。
地に伏した教授の姿は、無力そのものだった。
*
小屋の中では――
「そこをどきなさい!」
レーナが拳を叩き込む。
炎を纏った体術が炸裂する――が、騎士の鎧はびくともしない。
「この装備は、貴女のために用意した特別なもの。……お控えください。貴女には生きて教国へと戻っていただきます」
レーナは歯を食いしばり、拳にさらに炎を宿す。
だが焦りは炎を乱し、隙を突かれて頬を打ち据えられた。
「――ぐっ!」
続けざまに腹を殴られ、脚がふらつく。
「いい加減にお収めください。……ご自身の腕を切断される姿など、見たくはないでしょう?」
「……ッ!」
「貴女ほどの観測官に、地獄を見せたくはない。教国に戻りましょう。異界の子供など、取るに足らぬ存在です」
「……――は、はは……!」
血の滲む口から、笑い声が漏れる。
「はは……あはは……はははははッ!」
レーナの周囲に熱が弾け、青白い火球が次々と浮かび上がった。
騎士は己の軽口を後悔したが、もう遅い。
それはただの炎ではない。
彼女の狂気が膨れ上がり、極限まで圧縮されたもの。
――かつて家族を焼き尽くした炎。
それは彼女の原点であり、贖えぬ罪――《業火》
ミルゼア教国最強の異端観測官たる所以がここにあった。
紅蓮がレーナの瞳に宿る。
「地獄なら、もう見たわ」
▼次回「死に思う」
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