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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第十一話「復讐するは我にあり」



 小屋の扉が轟音とともに吹き飛んだ。

 木片が宙を舞い、テーブルは跳ね、紅茶の雫が点のように散る。


「教授様、下がって!」


 レーナが叫んで身構えたが、わずかに遅れた。

 騎士のモーニングスターが唸りを上げ、彼女の腹を打ち抜く。


「ぐっ……!」


 宙を舞ったレーナは壁に叩きつけられ、意識がかすむ。

 その隙を狙い、騎士たちが一斉にレーナに迫った。


「貴様はこっちだ」


 九重の襟首が乱暴に掴まれ、外へと放り出される。

 地面に叩きつけられ、無様に転がった。


「また会ったな、教授殿」


 そこに立っていたのはジゼルだった。

 兜を外した栗毛の髪が風に揺れ、その瞳は冷ややかに光る。


 言うが早いか、九重の腹を軽く蹴り上げた。


「が……っ!」

「どうした? 外法の術で身を守らないのか?」

「――ッ! ……そうしたいのは山々だが。《アル・アジフ》がなければ、どうにもならんのだよ」

「良いことを聞いた。信仰を嗤った報いを――身で償え」


 ジゼルの蹴りが容赦なく降り注ぐ。


 骨を軋ませ、肉を裂く。

 痛覚をひとつずつ踏みにじるように。


 地に伏した教授の姿は、無力そのものだった。



 小屋の中では――


「そこをどきなさい!」


 レーナが拳を叩き込む。

 炎を纏った体術が炸裂する――が、騎士の鎧はびくともしない。


「この装備は、貴女のために用意した特別なもの。……お控えください。貴女には生きて教国へと戻っていただきます」


 レーナは歯を食いしばり、拳にさらに炎を宿す。

 だが焦りは炎を乱し、隙を突かれて頬を打ち据えられた。


「――ぐっ!」


 続けざまに腹を殴られ、脚がふらつく。


「いい加減にお収めください。……ご自身の腕を切断される姿など、見たくはないでしょう?」

「……ッ!」

「貴女ほどの観測官に、地獄を見せたくはない。教国に戻りましょう。異界の子供など、取るに足らぬ存在です」

「……――は、はは……!」


 血の滲む口から、笑い声が漏れる。


「はは……あはは……はははははッ!」


 レーナの周囲に熱が弾け、青白い火球が次々と浮かび上がった。


 騎士は己の軽口を後悔したが、もう遅い。


 それはただの炎ではない。

 彼女の狂気が膨れ上がり、極限まで圧縮されたもの。


 ――かつて家族を焼き尽くした炎。

 それは彼女の原点であり、贖えぬ罪――《業火》


 ミルゼア教国最強の異端観測官たる所以がここにあった。


 紅蓮がレーナの瞳に宿る。


「地獄なら、もう見たわ」




▼次回「死に思う」

お読みいただきありがとうございました!

毎週水曜・土曜に更新します!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

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