第十話「静かな朝に砕けたもの」
農村の小屋は朝を迎えていた――
朽ちかけた窓の隙間から、柔らかな木漏れ日がそっと差し込む。
空気は冷たかったが、どこか穏やかだった。
遠くで鶏が鳴き、薪がはぜる音がした。
「……ここは?」
九重はゆっくりと目を開けた。
毛布の温もりと、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「国境近くの農村です」
振り返ると、レーナが湯を沸かしていた。
疲労の色を帯びてはいたが、声は凛としている。
「家主に小屋を貸してほしいと相談したら、快諾してくれました」
九重は静かに身を起こした。
意識を失う直前の記憶と、今の静けさを照らし合わせる。
どうやら助けられたらしい。
「……そうか」
礼を言おうと腰を浮かせた、その時――
「教授様!」
レーナは手を止め、九重の前に膝をついた。
三つ指を揃え、額を床に伏せる。
「我が身の不明、深くお詫び申し上げます!」
その声は震えていたが、嘘のない響きを持っていた。
「教授様を殴って昏倒させたこと……それに、あの書をあの場に捨てたこと……!」
九重は言葉を失った。
こんな真摯な謝罪を受けたのは、記憶にない。
「……顔を上げてくれたまえ。探求の続きは惜しいが、あの場にとどまれば、私は――」
九重が言いかけた瞬間、外で何かが軋む音がした。
その直後、轟音が小屋を揺るがした。
扉が吹き飛び、破片が宙を舞う。
朝の光が閃光のように差し込み、静寂を切り裂いた。
「ッ……!」
▼次回「復讐するは我にあり」
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