9.誤解
「え?」
「くっ、戦闘後に私が疲弊しているところを狙って現れるなんて!」
待って? 待って待って? われ同業よ? 断じて魔法少女の敵ではないよ?
「新人潰しって事ね!」
「ククク、そんなつもりはない」
本当にそんなつもりはない。だからどうか落ち着いて欲しい。
「くっ、魔法少女になって一週間で七体の魔物を倒した将来有望で優秀な芽を今のうちに摘んでおこうって魂胆ね!」
「ほう? 自ら優秀と名乗るとはな」
「しまった!」
待って、サーシャの語彙が少な過ぎる。ロールプレイしながら誤解を解くの至難の業だこれ。
あと相手の魔法少女の子もなんかアホっぽいっていうか、思い込みが激しいというか、自分から優秀だって言ってるし。
「だが安心せよ、妾は敵ではない」
本当に敵ではない。だから安心して欲しい。
「そんな分かり切った嘘を信じるとでも!」
「信じる信じないは其方の自由よ」
「このっ……!」
自由ではない。ちょっとこの口に一旦黙ってて欲しい。
しかし、今さらロールプレイを辞めるなんて情けない限りこの上ないし……いや、背に腹はかえられぬと言うし、ここはもうゲロっちゃうか。
なんかちょっと驚かせ過ぎたようで、本当にごめんね。
「あ〜、実はちょっと驚かせようと思っただけで、本当は――」
「覚悟なさい! 人の世を陰から脅かす悪党め! 例え万全の状態でなくとも、この私――魔法巫女カンナが貴女の悪行を許さないわ!」
「えっ、ちょっ! 待っ――うおぅ?!」
ちょっ! この子急に木刀で殴り掛かって来たんですけど!
「ま、待って、誤解だから――」
「問答無用!」
脳天直撃コースの打ち下ろしを半身になって躱し、続けて振るわれる逆袈裟の薙ぎ払いを一歩後退る事で回避する。
全てを紙一重で躱しきった俺に対してアホの子が驚愕の表情を浮かべる様子がスローモーションの様によく分かるが、驚いているのは俺も同じだった。
魔法を身体強化に使用していないのにも関わらず、初戦闘の時よりもよく視え、よく動くのだ。
なるほど、これが魔法少女への応援の力とやらの正体なのだろう。そしてその力を得た肉体を動かすのは借金をしてまで獲得した戦闘技能である訳で……いたいけな少女を殴る訳でもない、ただ自分への攻撃を避けるだけならここまで鮮やかに自分は動けるのか。
他者を攻撃するとなればへっぴり腰になるし、魔物が相手だとビビってしまって身体が固くなってしまうが……見た目は可愛らしい女の子からの攻撃を避けるだけなら問題ないらしい。
「い、今の動きは……」
ハッ! そうだ! 考え込んでる場合じゃなくて誤解を解かないと!
「あのね、自分は別に魔法少女の敵という訳では――」
「『我が願いの代価は――」
「そぉい!」
「へぶぅ!」
魔法を行使される直前に魔法少女――魔法巫女カンナとやらの頬っぺを両側からバチンと挟み込む。
「ひゃにふるのよ〜! はらしなゃらいよ〜!」
「何言ってるか分からないわ」
俺の手を離そうと必死にしがみつき、潰れてひょっとこみたいになった口をモニョモニョと動かして必死に抗議する姿が可愛らしい。
「あら可愛い」
「――ッ」
おっと、声に出てた。
「っ、馬鹿にして!」
やべっと口を抑えた隙を突き、拘束から抜け出したカンナが飛び跳ねる。
「こんな辱めを受けたのは初めてだわ! ブラッディ☪︎サーシャ! 名前と顔は覚えたわよ! いつか必ず貴女を倒してみせるんだから!」
うわぁーん! なんて大声で泣きながら凄い勢いで逃げていく彼女を見送り、数秒ほど立ち尽くした後――俺は頭を抱えてその場に蹲った。
「完全にやらかした……調子に乗り過ぎた……」
「見事なまでのすれ違いだったね」
「お前今まで何処に! お前が現れて説明してくれたらこんなに拗れなかっただろうが!」
「だって面白そうだったから」
「そうだよ、お前はそういう奴だったよ」
面白そうなんていう理由で人を急な詠唱でビビらせる愉快犯だったわコイツ。極悪マスコットなの忘れてた。
「で? あの子も新人な訳? 魔法巫女ってなに? 魔法少女と何が違うの?」
「彼女は君の数日先輩に当たる魔法少女さ、魔法巫女っていうのは何か分からないけど、多分彼女が勝手に名乗ってるだけだね」
「なんだろう、そこはかとなく残念臭がする」
思い込みが激しく、人の話も聞かず、そして魔法少女ならぬ魔法巫女と勝手に名乗っちゃってるあたり凄くこう……弄り甲斐がありそうな感じがする。
「大丈夫だよ、ニートの君よりも残念な人間なんてそうそう居ないから」
「言うと思った」
ホントにコイツは信頼を裏切らねぇな。
「で、どうする? 今日はもう帰る?」
「そうだねぇ……この様子だとちょっとキツめの仕事を振っても良さそうかな」
「え?」
は? コイツはいきなり何を言っているんだ?
「今ちょうど複数人の魔法少女達が手間取ってる案件があってね」
「ごめん待って」
「まぁ、彼女達も新人ばかりなんだけど、それでも人手が足りないんだよねぇ」
「流石にキツイって」
「これ以上新人を送っても意味は無いし、ベテランはさらに難しい案件に走り回ってて忙しいからね。新人でありながらそこそこの戦力として期待できそうになった君は、今この瞬間に最適な人材となった」
「話を聞いてよ!」
あまりの理不尽にわっ! と泣き出してしまう。
いくら借金という弱みがあるとはいえ、流石にこの扱いは酷いんじゃなかろうか。
「そんなに嫌かい?」
「嫌だよ! ハードが良くなってもソフトウェアはポンコツなままだって知ってるだろ!」
「でもさっきはちゃんと動けてたし、ニートだから他人と会話するのもダメかなって思ってたけど、割と平気そうだし」
「それはっ……そうかも知んないけど……」
「じゃあ決まりだね」
「ちくしょう」
ぐぅ、おのれぇ……魔法少女業務も割とブラックみたいです。
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