8.同業者
『†深き深淵の漆黒†さんと他99人にフォローされました』
『魔法少女ミカさんと他24人が投稿を共有しました』
『魔法少女ミカさんと他99人が投稿にいいねしました』
「……」
寝起きな事もあってか頭が働かない。
ビックリするくらいの反響があって、驚き過ぎて声も出せない。
自撮りを投稿する前は僅か12人だったフォロワーは、今ではもう100人の大台を突破している。
「なるほどねぇ」
「うおっ!? ビビった!」
いつの間にか俺の顔のすぐ側まで近寄り、画面を覗き込んでいたマスコットの存在に心臓が跳ね上がる。
てかコイツ、なにナチュラルに人のスマホの画面を覗き込んでんだよ。プライバシーの概念はどこいった。
「昔と違って魔法少女は人々からの応援を受けられなくなったんだけど、これなら……」
「? どういう事だよ?」
人々からの応援ってあれか? 幼女から必死の『がんばえー!』を頂戴するやつか?
「いやなに、魔法少女にはGPによる引き換えや魔物を取り込む以外に、人々から応援される事で力を増す仕様もあったんだよ」
「あった? 過去形? 今はないの?」
「無いっていうか、難しくなったというか」
この極悪マスコット曰く、昔の、というより情報化社会になる前の魔法少女達は積極的に人々の前に現れては魔物という脅威を倒し、救われた人々が魔法少女に感謝を捧げ、また次の戦いの武運を祈って応援する。
それによって魔法少女は僅かながらに力を得る。この時に得る力はGPで交換した神様由来の物でも、魔物を取り込んで得た魔力ではなく、正真正銘の魔法少女自身が獲得した力となるらしい。
然しながら時代が進むにつれ情報の取り扱いが重要な物となり、敵サイドが魔法少女を情報戦で圧倒する様になった。
要するに冤罪を吹っ掛けたり、魔法少女となる本体の女の子達の個人情報をバラ撒いてみたり、あの手この手で魔法少女を追い詰める。
こうなってしまっては仕方ないと、魔法少女達は自らの正体を隠し、そして人知れず魔物を倒す存在となったと。
「だけれども君は元男だから正体を探ろうと君が現れた近辺の少女達を虱潰しに調べても絶対に見付からないだろうし、逆に情報媒体を利用して人々から多数の感謝と応援を受け取っている様だね」
そりゃ、まさか魔法少女が男だなんて思わな――いや、最近だと男の魔法少女も増えてるし、分からないんじゃないか? 現実の魔法少女の世界では知らんけど。現実の魔法少女の世界ってなんだろ。
「ほほう、いきなり三桁の人数からの応援かぁ……昔の魔法少女達でもそこまでの力を得るのに大分苦労してたよ」
ま、まぁ? 承認欲求が満たされる上に借金せずに強くなれるっていうのなら否はないが?
それに普通に応援を集めるよりも凄いことみたいだし? なんか知らず知らずのうちにファインプレーだったみたいだし?
それに借金もせず自分を強く出来るっていうのは純粋に有り難い。
「もしかしたら今夜の仕事は楽に終わるかもね」
「よっしゃあ! やる気が出て来たぜぇ!」
今の俺には百人分の力があるんだ! どんな魔物だっていくらでも掛かって来いやぁ!
それにさっさと借金を返済しなきゃだしな! この調子でガンガン行くぜぇ!
「おや、先客が先に片付けたみたいだね」
「そして出鼻をくじかれるという」
こっそりと路地裏を覗けば、その視線の先には光の粒子となって徐々に貌を失い、消滅していく魔物と思わしきシンバルを持った猿の人形と魔法少女らしき人影があった。
魔法少女の方にも傷や汚れが目立つが、それでも俺と違って普通に戦って倒せているところを見ると何とも言えない敗北感が湧き上がってくる。
「――誰っ!?」
やっべ、気付かれた――……けど、よく考えたら別に隠れて盗み見る必要はなくね? 普通に同業者だし、そのまま出れば良いじゃん。
いや待てよ、でもただ出て行くのも詰まらないんじゃないか?
「そこに居るのは分かっているのよ!」
今の俺の姿は理想を詰め込んだサーシャな訳だが、そのサーシャの中身が俺のままで良いのか?
「どうして出て来ないの?! 何かやましい事でもあるの?!」
いや、それは良くないだろう。答えは否だ。
理想を詰め込んだ美少女の外見を得たのなら、その次は理想を詰め込んだ美少女の中身が必要だろう。
あれだよ、健全なる精神は健全なる肉体に宿るってやつだよ。ここに健全どころかパーフェクトボディな肉体があるのだから、肉体に合った精神が宿るべきだと思わないか?
「……もしかして、私の勘違い?」
特にオンラインゲームをプレイ中はサーシャのアバターを使いながらロールプレイをしていたのだから、ここで理想を崩すのは勿体ない。
それに第一印象は大事だ。ただでさえ人付き合いが苦手なのに、初っ端からニートの本質を見破られて舐められてしまっては堪らないだろう。
今後の魔法少女業務にも差し支える。
「ほ、本当に居ないの……? もしかして一人で空間に話し掛ける痛い子……?」
ならばここは吸血鬼の姫君サーシャとして、威風堂々と同業者との初邂逅を迎えるべきだろう。
「もしも〜し、本当に居ないんですかぁ〜……?」
そうと決まれば話は早いと、ポケットの中に入れていた小銭を対価にこけおどしの魔法を発動する。
「――妾の存在に気付くなんてやるじゃない」
「っ!?」
ちょっと俺の周囲を全体的に赤くするだけの魔法――流石に月を紅く染めるのが無理過ぎたので、なら周囲をちょっと赤っぽくして誤魔化してしまえというゴリ押し。
ただそうした甲斐もあってか、急に世界の色調が変わると同時に現れた俺ことサーシャに目の前の魔法少女は驚きに目を見開いている。
黒髪ポニーテールに巫女風の魔法少女という、何ともまぁ大きなお友達に人気の出そうな彼女はハッとしたように俺へと木刀を向けて来た。
「……な、何者なの?」
「あらぁ? 妾の事がそんなに知りたいのかしら?」
やっべ、なんだか楽しくなって来たぞ……自分の演技力にはあまり自信は無かったんだが、今のところニートの大根役者とはバレてなさそうだ。
「妾はこの夜の世界を統べる銀月の姫君」
一歩一歩大仰に踏み出せば、それに合わせて彼女も後退る。
「全ての吸血族の祖にして、闇の女王」
よし、ここが決め所だ! 何度もゲームでやっていた定番の挨拶!
月に代わってお仕置きするポーズのオマージュをビシッとキメてやる!
「吸血姫ブラッディ☪︎サーシャとは妾のこと――」
「――貴方が黒幕! 全ての魔法少女の敵なのね!?」
……………………ん?
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