7.パシャリ
「そもそも君はなんで魔法少女に成る事を承諾したんだい?」
今更な質問をされて言葉に詰まる。その場のノリと勢いで深く考えずに決めてしまった部分も大いにあるからだ。
「その、サーシャみたいな美少女に成れるのは良いな〜とか、報酬で今の記憶や経験を引き継いだまま過去に戻れないかな〜とか、そういった事を考えてました」
「なるほど、それならとっておきの特典があるよ」
極悪マスコットのそんな言葉に惹かれて顔を上げる。
「この『パーフェクトコミュニケーション』という特典はね、どういった返答をすれば相手がどんな感情を抱くのか感覚的に分かる物なのさ」
「うっわ、またヤバいの出て来た……」
これ要するに答え付きのギャルゲーの選択肢みたいな能力って事だろ?
これさえあれば相手から惚れられる事も、逆にわざと嫌われる事も、なんなら関心を持たれないように振る舞えるって事だ。
まるでゲームの世界に入ってしまったかのような錯覚を覚えてしまわないか、少しばかり不安になる能力だな。
「これならコミュ障で引きこもりの君も、過去に戻ってやり直した時に失敗はしなくなるだろ?」
「それは……まぁ、そうだね」
――確かに、あの時にこの能力があれば……おれは――
「――大丈夫かい?」
「ッ! ……あ、あぁ、ちょっと考え事をしていた」
思考が深く沈み掛けた直前、極悪マスコットから声を掛けられて我に返る。
「まぁ、そんな訳で前向きに魔法少女やる気になれたかな?」
「……そうだな、ただ借金返済を目的にするよりも過去をやり直す為に俺は頑張るぞ!」
「前向きなのか後ろ向きなのか分からないね」
「やかましい」
確かに気持ち的には前向きになれたが、それでも過去をやり直したいってのは後ろ向きな理由かも知れない。
でも関係ない! 今はやる気があるから!
「――『変身』」
とりあえずきっちりと返済しない事には報酬の特典も得られないという事で、早速今夜も俺は魔法少女として働く事にした。
前回と同じく魔法少女サーシャへと変身し、さて次は何処に行ってどんな魔物をしばけば良いんですかねと、やる気になっていた俺の目にふと鏡が映る。
「……」
やはりサーシャは美しい――俺が時間を掛けてキャラメイクしただけあって、そんじょそこらの芸能人が裸足で逃げ出すレベルだ。
「うわっ、ナルシ……」
極悪マスコットの戯れ言を聞き流しながら、ちょっとした出来心で自撮りをしてみる。
様々な角度で変身した俺こと、魔法少女サーシャの写真を撮り、そしてそれを眺めてニチャッとした笑みが浮かぶ。
「でへっ……」
「良かったね、画面越しの推しと会えて」
「へへっ、本物のサーシャと会えたのには感謝してるよ」
「なんだい? ビックリするくらい素直だけれども」
借金の事とかは一旦さて置き、こんな自分の理想を詰め込んだ超弩級の美少女とリアルで出会えたのだ。
変身もその解除も任意で出来るっぽいし、これはサーシャを自分好みに着せ替えられるという事ではなかろうか。
借金や悍ましい敵との戦いの事ばかり考えるよりも、どうやってサーシャを楽しむかを考えた方がモチベも上がるってなもんよ。
「まぁ、やる気があるなら良いさ。次の魔物に行こうか」
「うっ、やっぱり怖いな……」
それでも働くしか無いんだけども。
「つっかれた……」
「まぁ、初回の時よりかは良かったんじゃないかい?」
マスコットの適当な慰めるを無視して、俺はそのままベッドに倒れ込む。
「寝る前に変身解除しないと、同じ過ちを繰り返すつもりかい?」
「う〜」
んな事を言われても精神的にも疲労が溜まってんだよなぁ……とか思いつつのそのそと起き上がり、そして鏡を見てふと思い付いた事を実行してみる。
@サーシャ
何となく魔法少女のコスプレをしてみました!
でもちょっとだけ恥ずかしいかも()
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魔法少女として働く前に撮った自撮りを何となくSNSにアップしてみたのだ。
もちろん身バレしない為に部屋にある物で個人を特定できそうな物や、窓の外なんかが写らないように配慮したし、顔も隠しつつ、されど美少女である事は分かる塩梅の露出度の物を選んだ。
「うわぁ……」
「ま、まぁ? どうせこんな弱小垢に反応なんてないし? ちょっとした好奇心というか、冒険心だし?」
ただのROM専用のアカウントで、フォロワー数も十二人と少ないのだから反応なんてそこまで期待できない。分かってはいたさ。
「ネカマをするのは勝手だけど、身バレだけは気を付けてよね」
「……うっす」
極悪マスコットからの蔑むような、哀れみの籠った視線から逃げる様にして俺は変身解除と同時に布団に潜り込む――直前でスマホが怒涛の通知音を鳴らす。
「おぉう?!」
なんだなんだと慌ててスマホ見ればSNSアカウントに大量の通知が来ており、そこには『女性の方だったんですか!?』や『えっ、意外!』といった驚きの物から『加工キツイっすよ(^_^;)』などといったイラッと来るものまで、複数のリプライが届いていた。
界隈外からのフォローも二件ほどあり、こんなにも早く自分の自撮りに反応があるとは思わなくてしらず口元がモニョモニョとしだす。
「……」
これが美少女の生きる世界かと、ただ顔の見えない自撮りを上げただけでここまで承認欲求が満たされるものなのかと。
何だか自分が本当に美少女になった気がして、何となく……そう、何となくもう一枚自撮りを撮ってアップしてみる。
@サーシャ
思ってた以上に皆さんが反応してくれるのでオマケです……なんて?
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「お、おぉ……!」
す、凄い……20いいねなんて数字を初めて見た。
最初の自撮りなんかもう80いいねくらいあるぞ。
「僕は知らないからね」
そんな声はスマホのシャッター音に掻き消された。
@サーシャ
こ、こんな写真も載せてみたり?
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太ももをチラっとさせた自撮りを載せる。即座に着くいいねとリプライ。
@ゲレンデメレンゲ
サーシャ、可愛いよサーシャ
@ショタコン梅毒
本当は男なんでしょ? 知ってる
@魔法少女ミカ
うわっ〜! とてもお綺麗ですね!
「――ふへっ」
知らず知らずの内に笑みが溢れてしまってハッとする。
何だか踏み込んではいけない一線を越えてまうような、それ以上先に進んだら戻って来れないような、そんな予感に震え、俺はそっとスマホの電源を切った。
「こ、これ以上はダメだ! 承認欲求モンスターになってしまう!」
「何を一人で盛り上がってるんだか」
不味い、これは非常に不味い! 世間というものがここまで美少女に弱く、甘いなんて知らなかった! 俺だけだと思ってた!
でも、こんなの……こんな手軽に他人から褒められるなんて経験をしてしまったら戻れなくなっちゃう!
「……もう、寝る……なにやってんだろ」
「ご愁傷さま」
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