2.わからせ
「おお、やる気になってくれたかい」
「……とは言ってみたものの、自分男なんすけど本当に魔法少女なんかに成れるんですかね?」
それにいきなり普通の女装を飛び越えて魔法少女のコスプレは流石にキツいっす。
これが筋肉ムキムキなマッチョメンがやるならまだ笑える。しかし半端に肩幅が広いだけの美形でもない男がやるにはレベルが高すぎる。
童顔な方ではあるが、生半可な化粧で誤魔化せるほど女装コスプレは甘くない。
「そうだねぇ、太っている訳でもないのに脱げば運動していない事が丸わかりの締りのないだらしない身体に、手入れもされていないガサガサの肌、髪はボサボサだし、眉を整えるなんて発想すらなさそうな君を魔法少女にしたところで見苦しいだけだろうねぇ」
「お前ホントに正義の側か?」
なんで急にボコられたんだ? マスコットに人の心が無いにしても限度があるだろ。やっぱコイツ悪役だわ。
「あ、これなんて良いんじゃない?」
「無視しやがって……どれだよ」
ヤツが意識を向ける先を見てみるも、そこにはゲーム画面を起動しっぱなしになっている自作のゲーミングPCがあるだけだ。
他にある物なんて同じ机に置かれたスマホやラノベ、飲みかけのペットボトル飲料にマイクヘッドホンくらいしかない。
「これだよ、このキャラになろう」
「はぁ?」
指し示された場所はゲーム画面で、そこに映っていたのは――俺の自キャラのステータス画面だった。
「魔法少女と言えば変身だろ? だったらもう別人になっちゃいなよ」
「なるほど」
別人になるのであれば見苦しい見た目にならないだろうし、アニメと違って現実だとちょっと髪の色やファッションが変わったくらいじゃ簡単に身バレしてしまうが、これならそのリスクも無くす事ができる。
何よりも自キャラのサーシャはキャラメイクに拘って制作に何日も掛けただけあって素晴らしい出来に仕上がってるし、何ならクオリティが高すぎてちょくちょくレシピを聞かれるくらいだ。価値が下がるので絶対に教えなかったけど。
「本当に俺が、あのサーシャに……?」
「もちろんさ」
改めて自らが作り出したキャラを眺める。サーシャは遥か古代の亡国の吸血姫であり、時を経て現代に目覚めたという設定のキャラだ。
夜風に晒されて靡く白銀混じりのバイオレットの長髪に、自らの奥底を覗き見られているかの様な切れ長の真紅に彩られた瞳の力強さ。
日焼けもしておらず、シミ一つない白い柔肌は遠目から見ても滑らかで、淡いピンクに色付く頬と小さな唇が彼女がただの死体ではないという事を知らせる。
まだ成人もしていない幼さを残す発展途上の肉体は、だからこそ不安定なバランスで艶やかさを放っていた。
「モノローグが気持ち悪い」
「勝手に心を読むな」
んんっ! ……とりあえずサーシャに成れるのであれば俺に異存はない。
「よし! これで頼む!」
「了解だよ。それじゃあ変身させるから頭に浮かんだ呪文を唱えるんだ」
頭に浮かんだ呪文……ほう、これの事か。
「――『変身』」
そう叫んだ瞬間――視界が真っ赤な光に覆われ、続いて身体中が燃えるように熱くなる
けれど不思議は事に不快感や痛みなどは一切なく、眩い光の中で平然と目を開けていられるし、むしろ全身を焼く熱が心地良い。
そんな自らに起きた変化に戸惑っている時間は1秒にも満たないのに、気が付けば俺の変身は終わっていた。
「――おわぁ」
光の収まった視界に入って来るのは鏡に写った絶世の美少女で、確かにゲーム内のサーシャを現実に持って来たらこんな感じだろうなという想像そのままだった。
思わず漏れ出た声も自分の物とは思えない程に高く澄み渡った綺麗なもので、この声だけでアイドル声優やVtuberとして食っていけるんじゃないかと思えてしまう。
鏡の中の彼女が俺の動きに合わせて同じ動作をしてくれるのを見て、本当に自分があのサーシャになったのだと実感が湧いて来た。
「す、すげぇ! 完璧じゃないか!」
「気に入って貰えたようだね」
ぶっちゃけ報酬目当てでもよく分からない戦いに身を投じる事に対して尻込みしていたが、自分がこんな魅力的な見た目になれるとなればモチベーションが上がってくる。
「――ん? 待てよ?」
「どうしたんだい?」
「今の俺はゲームで使っていたサーシャなんだよな?」
「そうだよ」
キャラメイクから拘った最愛の自キャラを強くする為に俺が妥協する訳がなく、毎日不健康な生活で廃人プレイをしていた俺が育てたアバターがサーシャな訳で。
もちろんレベルやスキルはカンストしてるし、装備だって生産職のトッププレイヤーに依頼したオーダーメイド品。
エンドコンテンツである装飾品――強化ステータスがランダムで、装備品強化した際の上がる種類も上がり幅も完全ランダムという沼――も全プレイヤーの中で上位1%以内の物を揃えていて、さらに更新する為に今も掘り続けているという状態だ。
という事はだ、今の俺はロールプレイ目的でネタビルドに片足を突っ込んでおきながらガチビルドのガチ勢にも張り合える強さを手に入れている訳で、それはつまり――
「――今ならこのマスコットに勝てるぜぇ!!」
殴って良いのは殴られる覚悟がある奴だけなんだよォ!!
物理と精神の両面でよくもまぁ、ボコボコにしてくれたなァ?!
魔法少女として活動する前にまずお前を殴らなきゃ気が済まないんだよこのクソマスコットがァ!!
「あのさ、その力は元は僕のモノなんだけど?」
「――!?」
ヤツに向けて拳を振りかぶった体勢のままピタッと全身が固まり、どれだけ頑張っても指の一本も動かせなくなってしまう。
「あ、あれぇ〜?」
お、おかしいなぁ? こんなハズでは……いや、でも少し考えれば分かる事だったか。
「やれやれ、痛みだけでは理解できない様だね……無様ガニ股蹲踞全裸腰振りダンスでもしてみるかい?」
「こ、コイツ尊厳破壊まで完備して――?!」
「もちろんやる時は男の君だよ」
「人の心――!!」
てかなんだよ無様ガニ股蹲踞全裸腰振りダンスって加減ってモノを知らねぇのか?! 怖すぎるだろ!!
「上下関係は理解できたかな?」
「えぇ、それはもう……何なら足でも舐めましょうか?」
「気が向いた時に舐めさせるから今はいいよ」
「えっえっ、あっ、えっ、あ、え……」
「じゃあとりあえず最初の実戦に行こうか」




