10.インプレッションゾンビ
@サーシャ
深夜のお散歩です――なんちゃって!
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「ほう、更なる応援の力を求めたのかい?」
「難しい任務に挑む前に少しでもと……」
応援の力とやらが魔法少女を強化する上でとても重要な物で、そしてフィードバックされるまでが早いのは経験済みだ。
ならば新人ばかりとはいえ、複数人の魔法少女でも難しい任務をこなす為には更なる戦力向上を狙っても良いだろう。
最悪の場合、この他の魔法少女と比べて優れた身体能力と技術を使って、まだ見ぬ同業者を囮に自分だけでも助かってやる。
「なるほど、良い心掛けだと思うよ」
「お前に褒められてもあんま嬉しくないな」
「グー、チョキ、パーのどれか良い?」
「ごめんなさい」
調子に乗りました。許して下さい。
「ほら着いたよ、ここさ」
そんなやり取りをしていると、どうやら目的地に着いたらしい。
ふと顔を上げると、そこには自分にとって忌まわしい記憶のある建物が鎮座していた。
「……学校じゃん」
「この校舎にはね、出るのさ――」
「何がだよ」
思わず顔を顰めながら気怠げに呟いた俺には目をもくれず、極悪マスコットはまるで秘密を共有するかのように囁いた。
「――ゾンビだよ」
「は?」
深夜の学校という場所はどうしてこうも薄気味悪いのだろうか。
常に人の往来や話し声が聞こえる賑やかな昼間と違い、それら人の気配がガラッと無くなるそのギャップが人々に不安を抱かせるのかも知れない。
階段の踊り場でふと振り返ってみれば、何故か「どちらに逃げれば良いのか分からない」という気持ちを抱く。
廊下を歩いている時も「後ろを振り返ってはならない」「部屋の中を無闇に確認してはならない」「前だけを見て歩かなければならない」という強迫観念じみた思考に支配される。
「そんな和ホラー定番の場所で洋風ゾンビパニックってマジ?」
個人的には全然似合わない。断固として抗議したい。
「マジだよ。あと西洋にも学校はあるんだから洋モノが出ても良いだろう」
「でも全然ゾンビの影も形も見当たらないんだけど……あと洋モノ言うな」
周囲を見渡してみても何の気配もなく、俺とコイツの話し声以外は物音が全くしない静寂に包まれている。
「大丈夫だよ、心配しなくてもそのうち――……」
極悪マスコットの声が途中で聞こえなくなる。
「そのうちなんだよ、何でそんな中途半端なところで区切るんだよ」
コイツはまた俺を揶揄ってのかと振り返ってみれば何故かそこには誰も居らず、薄暗い廊下が延々と続いていた。
「……おい? 極悪マスコット? 何処に行った?」
周囲に声を掛けてみるも返ってくるのは反響した自分の声だけ。
「おーいー、そういうのマジでいいって」
洋風ゾンビパニックだって言ったのそっちだろうが! なんで今さら和ホラーに方針転換しようとしてんだよ!
「俺をビビらせて笑いものにしたいのは分かったから、せめて説明を途中で放棄するな――」
口から出ていた文句が途中で止まる。何故なら背後から、それも吐息が掛かるような至近距離に何かの存在を感じたからだ。
「……お、おい? 極悪マスコットなんだろ? そうなんだろ? 俺を脅かそうとして変な気配を出してるだけなんだろ?」
問い掛けに対する返事はなく、首筋に感じる腐敗臭のする吐息だけが返ってくる。
「――……」
意を決してゆっくりと後ろを振り返り――目と鼻の距離にビッシリと敷き詰められた無数のゾンビで出来た壁の存在に絶句する。
直前まで影も形も無かったのに、廊下を天井まで埋め尽くすほどのゾンビ群れ。
なぜ、いつから、どうやって……そんな疑問を押し退けて口から出たのは意味不明な叫びだけだった。
「ほげぴょーーッ!!」
悲鳴を上げると同時に反対の方向に駆け出す。
「ぎゃあああ!!!!」
やっぱり追って来やがった! しかもコイツら最近流行りの走るタイプのゾンビやんけ!
「やばっ、早っ! コーナーで差をつけろ!」
中学以来の全力疾走でゾンビの群れから必死で逃げる。
それにも関わらず後ろ目で確認する奴らとの距離は変わらず、その上たまに列の後方からぶん投げられて飛んで来る個体も居て指が背中を掠る時がある。
マジで怖い。なんでアイツらあんなに早いんだよ、てか飛んで来るのは反則だろうがよ。
「うおおおおぉ!!!!」
「あの子ったらなんで急に居なくなるのよ――」
階段を飛び降り、曲がり角を急カーブした先で見知らぬ魔法少女と目が合う。
「あら? 知らない顔だけど、貴女も魔法少女な――」
「逃げろおおおぉ!!!!」
ここで味方が増えるのは嬉しいが、そんな呑気な事を言ってる場合じゃねぇんだよ!
「は? 急になに――」
俺に続いて曲がり角からドバっと溢れたゾンビの群れが見えたのだろう、見知らぬ魔法少女の顔が困惑から驚き、そして恐怖を経て焦るものへと凄まじい速度で塗り変わる。
人間って短時間であんなに表情がコロコロ変わるんだなと、そんなどうでもいい思考が頭を過ぎった。
「なによこれぇええええ!!!!」
「ゾンビパニックだッ!!!!」
「はぁ!?」
「いいから逃げろ! あの数に捕まったら終わりだぞ!」
自己紹介も済ませぬまま二人仲良く並んで脱兎の如く走り出す。
「もう、何処に行ったの――」
そしてすぐに第二村人を発見する。
「「逃げ――あっ」」
お隣さんと全く同じタイミングで全く同じ言葉を吐き出す。
俺たちの忠告はほんの数瞬だけ間に合わず、別の方向から来たゾンビに見知らぬ魔法少女が噛まれて悲鳴を上げる。
「くっ、間に合わなかった!」
「挟み撃ちになる! こっちよ!」
お隣さんに急かされるままに渡り廊下へと走る。
後ろをチラ見すれば、先ほどの第二村人がゾンビとなって俺たちを追い掛ける列の先頭に加わっているのが確認できた。
「何なのよあのゾンビはぁ!」
「いや! あれはただのゾンビじゃねぇ!」
「はぁ?」
「アイツらの声をよく聞いてみろ!」
後ろから猛烈な勢いで迫り来るゾンビ共だが、アイツらは先ほどから言葉を発しているのだ。
『彼女はなにを言っていますか』
『great』
『私もそう思います』
『うわー、それは予想以上にクレイジーでした』
『非常に衝撃的なニュースです』
『はい、それはとても素晴らしいです』
コイツらはゾンビでもただのゾンビじゃねぇ――
「――アイツらはインプレッションゾンビだッ!!」
「インプレッションゾンビってなに!?」
普段は誰もがいがみ合ってる地獄のSNSで諸勢力の意見が一致するほど忌み嫌われている怪物だ!
「見ろ! 第二村人にまで感染してやがる!」
「このようなコンテンツは私を笑顔で満たす」
可哀想に……中身が無いだけでなく、下手で違和感のある日本語を呟かされるだなんて。
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