1.出逢い
新作投下!
「――魔法少女に興味はあるかい?!」
「……」
時刻は日付けが変わって少し過ぎた頃――寝起き眼でぼんやりと半ば義務と化しているSNSのTL巡回をして、程々に各方面にクソリプを飛ばした所でベッドから起き上がり、面倒な寝起き最初の歯磨きを液体洗浄で済ませて日課のオンラインゲームを立ち上げたところで奇怪な幻覚と幻聴が俺を襲う。
薄暗い部屋でモニターの明かりに照らされたそれは全長30cm程のぬいぐるみの様な見た目をしており、何処かのプリティでキュアキュアな戦士の傍に侍るマスコットもかくやといったそれが目の前に浮いて冒頭の言葉を発したのだ。
「……ニチアサ路線なら」
「君は何を言っているんだい?」
「うわっ、この幻覚会話が成り立つ……」
なんだっけ、壁や床にブツブツと話し掛けるのはまだ正常だけど、その壁や床が返事をして来たら直ぐに精神科に行くべきなんだっけ……ヤバいな、返事どころか会話が成り立つレベルなんだけど。
「僕は幻覚でもなければ、ちゃんとここに存在しているよ」
「マジっすか」
「ひっぱたいてあげようか?」
「あ、じゃあお願いしま――ぶべらッ?!」
お願いします――と、言い終わるよりも先に俺はもう吹き飛ばされていた。
唐突に回転する視界、負荷が掛かり異音が鳴り響く首……親父のビンタよりも強烈なそれは、俺に初めて『視界で火花が散る』という経験を齎した。
ちゃんと腰が入り、捻りすらも加えられた強烈な拳が俺の頬へと突き刺さったのだ。
「……痛い」
「信じて貰えたかな?」
「……はい」
物理的な痛みによって解らせられた俺は素直に話を聞く体勢に入る。
今ので俺と奴の力の差はハッキリと理解した――コイツ見た目に似合わずヤバい怪力だと。
殴り返してやろうにもこんな浮遊してる小さい的を正確に打ち抜く技術なんて俺は持ってないし、喧嘩になったら確実に負けてしまうだろう。
「とりあえず急に魔法少女になってとか言われても困るだろうから説明するよ?」
「……はい、お願いします」
何はともあれ情報だ、判断材料がない事には始まらない。
ここは大人しく話を聞こうじゃないか、決して拳が怖いとかではなく。
「魔法少女の適正は無垢な十代の子ども達にしかないんだ」
「ほぉ、まぁ定番っすね」
「しかしながら十代の子ども達には学業がある」
「……まぁ、大体はそうすっね」
「そのため夜に活発化する悪の怪人にはどうしても後手に回る」
「なるほどそれは大変だ」
「そこでニートで昼夜逆転している君に白羽の矢が立ったのさ」
「馬鹿にしやがってマスコット風情が……舐めてると泣くぞ」
馬鹿にしやがって、舐めんなよマスコット風情が……こちとらいい歳して義弟と義妹に罵られて涙目敗走する程度の豆腐メンタルやぞ。
「おや? この国では仕事をしている訳でも学業に励んでいる訳でもなく、健康状態にも問題がないのにただ怠惰に時間と家の財産を食い潰す存在をニートと呼称すると聞いたんだがね」
「あーあー、聞こえませーん! もっとコッチに分かりやすい言語で喋って下さーい! ワタシニホンゴワカリマセーン!」
口喧嘩で最強の禁じ手の一つである耳を塞ぐという行為を実行する。
これで相手のどんな口撃や正論パンチだろうがノーダメって寸法よ――
「『【「『【「『【●】』」】』」】』」
「――ぎゃああああ???!!!」
死ぬ死ぬ死ぬぅ!! 頭が割れるうぅ?!?!
「テメェ! 何をしやがったァ?!」
「何っ、て……言語チャンネルを神聖言語に変えて直接脳内に流し込んだのさ」
「死ぬかと思ったわ!」
なんだよ神聖言語って?! それ人類に使っちゃいけないやつだろ?! 情報圧縮量が凄すぎて頭が破裂するかと思ったわッ!!
「1D10/1D100=75」
「うるせぇッ!!」
なに勝手にSAN値チェックしてんだッ?! 舐めんなよッ?!
「僕はね、天界から裏切り者を追ってきた正義の使者なんだよ」
「話進めんな!」
「やれやれ、君が分かるような言語をと求めたんだがね……グーでいいかい?」
「続きをどうぞ」
爽やかや笑顔で揉み手をしながら話の続きを促し、背筋を真っ直ぐに伸ばして固いフローリングの床に正座をする。
「話を続けるよ? その裏切り者はとても悪い奴でね? この世界に災厄を振り撒いては暴れているのさ」
「なんでまたそんな事を?」
よく分からんが、何故そんな事をする必要があるんですかね? てか災厄ってなにさ、災厄って。
「さぁね? 分かるのは裏切り者が無作為に人間達へ力を貸し与える事で、本来なら地上で振るえない筈のそれを間接的に行使しているって事さ」
「災厄とは?」
「まぁ、君たちに分かりやすく伝えるならモンスターとかだね」
「へぇ」
モンスター、モンスターねぇ……ぶっちゃけどのくらいヤバい存在なのか分からないから怖いな。災厄って言うくらいだし。
どれだけピンチに陥ろうがキャッキャッウフフな友情パワーで必ず倒せる日曜の朝レベルならまだマシだが、これが深夜アニメになると途端に死人が出る。
「あぁ、災厄と言っても今はまだそこまででもないから大丈夫だよ、君や他の魔法少女達が頑張ってくれれば簡単な内に事態を収束できる」
「なるほど……ちなみに協力する利点は?」
やはりコチラ側にメリットが無いと始まらない……どれだけリスクが低かろうが、自分の知らないところで現実世界が危機に陥ろうが痛いのは嫌だ。
軟弱な引きこもりに痛い目を見ても良いってくらいのメリットが無いと到底引き受けられないし、無理やりやらされてもモチベーションは保てない。
「当然だね、大変な仕事をして貰う見返りは勿論相応の物を用意してあるよ」
「ほほう、してそれは?」
「それは――GPさ」
「おっと、いきなり胡散臭くなってきたゾ」
「ちなみに歩合制出来高払いさ」
「めちゃくちゃ働かせる気満々じゃねぇか」
なんだよゴッデスポイントって、昨今無駄に乱立してるナントカペイの亜種か? しかも歩合制出来高払いって、お前……ブラックの匂いがプンプンしてくんぞ。
「ちなみにそのポイントで何が出来るの?」
「簡単に言えば自身の強化、現世での特典、そして来世の幸福の約束だね」
「自身の強化とかいう沼は置いておいて、後ろの二つは具体的に?」
「そうだねぇ……現世での特典は若返りや寿命の伸長、無病息災カッコガチだね」
「無病息災カッコガチはヤバすぎる……」
「そして来世の幸福は君にわかり易く言うと転生チートだね。好きだろ? こういうのが」
「勝手に人の本棚を漁らないで貰えますかね」
にしてもなるほど、どのくらいのポイントを要求されるのかは分からないが、これが本当に手に入るのならば報酬としては破格なんじゃなかろうか?
逆説的にこのくらいの報酬が無いと釣り合わないくらい大変だって事かもしれないが、それにしたってあまりにも魅力的過ぎる。
「……やる」
「お?」
「俺は――魔法少女になるッ!!」
俺は魔法少女になる!




