第2章6話:夏の激闘、全国への扉
由那学園の圧倒的な演奏を肌で感じ、全国への明確な目標を抱いた安中榛名高校吹奏楽部は、来る夏のコンクールに向けて、一層の猛練習に励んだ。
部長の鳴瀬友理は、部員たちの士気を高めながら、自らのホルンの音色を磨き続けた。副 部長の高峰春菜と三枝勇吉は、それぞれ持ち場を固め、友理を支えた。そして、音羽杏菜や 新入りの木村 楓も、それぞれの課題と向き合い、日ごとに成長を遂げていった。部員数 82 名の大所帯は、真夏の太陽の下、一つになって全国の舞台を目指した。
県大会の日。会場の群馬音楽センターは、熱気で満ち溢れていた。安中榛名高校吹奏楽部の演奏は、由那学園の「音」を意識しつつも、彼ららしい伸びやかで温かみのある響きを失っていなかった。
指揮台に立ったのは、もちろん顧問の佐々木梓先生だ。彼女の指揮は、部員たちの可能性を最大限に引き出し、友理のホルン、春菜のトランペット、そして杏菜や楓を含むクラリネットパートの音が、一体となって会場に響き渡る。結果は、見事ゴールド金賞。そして、群馬県代表として、二年連続の関東大会出場を決めた。
歓喜に沸く部員たち。しかし、彼らの目標は、もう関東大会出場だけではなかった。その視線は、すでに全国の舞台に向けられていた。
関東大会前夜:それぞれの決意関東大会を数日後に控えた体育館での合奏練習。
顧問の佐々木梓先生のタクトが静かに振り下ろされ、壮大な『希望の架け橋』が始まった。一つ一つの音に、部員たちのこれまでの努力と、全国への強い想いが込められている。
フルートパートリーダーの田中優奈は、柔らかくも芯のある音色でメロディーを紡いだ。
「この一年、みんなでどれだけ頑張ってきたか。去年の悔しさをバネに、ここまで来たんだ。私の音で、みんなを、そして聴いてくれる人たちの心を優しく包み込みたい」
彼女のフルートは、まるで希望の光のように、体育館に響き渡る。
クラリネットパートリーダーの三枝勇吉は、梓先生の指揮に集中しながら、パート全体を リードした。
「由那学園のクラリネットは確かに完璧だった。でも、俺たちの音には、俺たちにしか出せ ない響きがある。安中榛名らしい、温かくて、それでいて力強い音を、全国に響かせるんだ」
彼の音は、安定感と深みを増していた。
テナーサックスのパートリーダー、鮎原響は、力強いソロパートを吹き上げた。
「去年は、ただただ全国に行きたいと漠然と思っていた。でも、今年は違う。由那学園の音を聞いて、具体的な目標ができた。俺のサックスで、この曲に、安中榛名にしか出せない魂を吹き込む!」
彼の演奏には、確固たる決意が漲っている。
ユーフォニアムパートリーダーの鈴木恪は、低音パートの土台を支えながら、静かに、しかし熱い思いを抱いていた。
「中低音は、バンドの根幹だ。俺たちの音が安定してこそ、高音パートが輝く。目立たないかもしれないが、この音で、安中榛名を全国に押し上げる」
彼のユーフォニアムは、重厚な響きで合奏を支える。
弦バスパートリーダーの近藤朗は、弓を弦に滑らせながら、決意を新たにした。
「去年、関東大会までしか行けなかった悔しさは、絶対に忘れない。今年は、全国の舞台で、俺たちの低音を轟かせる。一音一音に、安中榛名吹奏楽部の歴史を刻むんだ」
彼のコントラバスは、曲に深みと安定感を与える。
パーカッションパートリーダーの松本武史は、ティンパニーのマレットを握りしめ、魂を込めて叩き込んだ。
「俺たちのリズムが、バンドの心臓だ。どんなに苦しい練習も乗り越えてきた。このティンパニーの音で、みんなを、そして会場全体を熱くする!全国で、安中榛名高校吹奏楽部の魂を打ち鳴らす!」
彼の打楽器は、曲に生命力を与える。
チューバパートリーダーの源田力は、身体の奥底から響くようなチューバの音を奏でた。
「チューバは、吹奏楽の要。俺たちの音が、バンド全体の響きを支え、包み込む。由那学園のような完璧さだけでなく、安中榛名高校吹奏楽部ならではの温かい響きを、全国の舞台で存分に出し切るんだ」
彼のチューバは、揺るぎない音で全体を支える。
トロンボーンパートリーダーの水野美麻は、スライドを滑らかに動かし、 ハーモニーを奏でた。
「トロンボーンのハーモニーは、バンドの色彩を豊かにする。去年は、音を合わせるのに苦労したけれど、今年は違う。みんなで力を合わせれば、どんな壁だって乗り越えられる。私たちの音で、感動を届けたい」
彼女のトロンボーンは、温かく伸びやかな音で溶け合う。
トランペットパートリーダーの藤本美音は、ひときわ高く輝かしい音を響かせた。
「春菜のソロは、誰にも真似できない。でも、私もパートリーダーとして、この安中榛名 高校のトランペットパートを、全国レベルに引き上げる。私たちの音が、希望の光となって、 全国の舞台を照らすんだ!」
彼女のトランペットは、力強くも美しい音色で空気を震わせる。
そして、部長でありホルンパートリーダーの鳴瀬友理。彼女のホルンは、感情豊かに、そして力強く響き渡った。由那学園の早乙女凛の完璧な音を思い出しながらも、友理は自分自身の「生き生きとした音」への信念を貫いた。
「全国へ行く。そして、安中榛名高校吹奏楽部が、地方の高校でも、どんな音が出せるのかを、全国の人たちに示したい。私たちの音楽は、きっと誰かの心に響く。私は、この仲間たちと、最高の音楽を奏でるんだ」
友理のホルンは、部員たちの心を一つにまとめ、全国への強い意思を放っていた。
梓先生の指揮の下、部員たちは、それぞれの楽器に、これまでの苦労と、全国への熱い想いを乗せた。体育館に響く彼らの音は、ただの練習の音ではない。それは、安中榛名高校吹奏楽部が、今まさに全国への扉を開こうとしている、決意の音だった。




