表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

第2章1話:新たな年度、新たな部長

桜の花びらが舞い散る季節。安中榛名高校吹奏楽部は、県大会ゴールド金賞、そして関東 大会シルバー銀賞という輝かしい実績を胸に、新たな年度を迎えた。

部室のホワイトボード には、「めざせ、全国大会出場!」という力強い目標が掲げられ、部員たちの士気は例年にな く高まっていた。


新入生歓迎会での吹奏楽部の演奏は、大きな反響を呼んだ。

特に、昨年関東大会で披露し た『鳳凰の舞』の演奏は、新入生たちの心を強く掴んだようだ。昨年度の部員数 60 名から、卒業生 20 名が引退。これにより、新 3 年生は 23 名、新 2 年生は 17 名となった。そこに、中 学での吹奏楽経験者である 2 年生が新たに 10 名入部し、さらに今年は一挙に 32 名の新入部 員を迎え、総勢 82 名という大所帯となった。部室は活気に満ち溢れ、これまで以上に賑やか な声が響き渡るようになった。


そんな活気あふれる部活を、新年度から率いることになったのは、2 年生になったばかり の鳴瀬友理(なるせ ゆり)だった。部長の大橋拓真(おおはし たくま)と副部長の緑川紗(みどりかわ) (さき)が引退する際、顧問の佐々木梓(ささき あずさ)先生と共に、次期 部長の最有力候補として友理の名前が挙がったのだ。


「鳴瀬さん、部長になってくれないかしら」

梓先生の言葉に、友理は耳を疑った。


「私が、ですか......?」

友理は戸惑った。確かにホルンの演奏には自信があったが、部全体をまとめる部長という大役は、想像もしていなかったからだ。

拓真は友理の肩を叩き、力強く言った。


「鳴瀬の実力と、音楽に対する情熱は、俺たちみんなが知ってる。そして、お前は部を全国に連れて行ける唯一の存在だ。部長は、部の演奏面を引っ張っていくことが一番重要なんだ」


紗希も優しく微笑んだ。


「それに、困った時は、私たちも、いつでも相談に乗るわ。一人で抱え込まなくていい。鳴瀬には、高峰と音羽もいるじゃない」


友理は、不安と期待が入り混じった複雑な気持ちを抱えながらも、最終的に部長の大役を引き受けることを決意した。全国大会という目標を最も強く見据えているのは自分だ。ならば、その先頭に立つのは、自分の役割だと感じたのだ。


新年度最初のミーティングで、梓先生から友理が新部長に任命されたことが発表された時、 部員たちの間には驚きの声が上がった。しかし、すぐに納得と期待の空気が広がる。友理の 圧倒的な実力と、真摯な音楽への向き合い方を、部員たちは皆、知っていたからだ。


「不安も多いけど、みんなで力を合わせて、全国大会金賞を目指して頑張りたいです。応援よろしくお願いします!」


友理は、少し緊張した面持ちで、しかし強い決意を込めて挨拶した。

その隣には、副部長 に就任した 2 年生の高峰春菜(たかみね はるな)。そして、もう一人の副部長として、三年 生の三枝勇吉(さえぐさ ゆうきち)が任命された。


三枝勇吉は、クラリネットパートのパートリーダーも務める、眼鏡をかけたクールな雰囲 気の男子部員だ。その古風な名前と、感情を表に出さない冷静な性格から、一部の部員から は「勇者さま」「サムライ」などと揶揄われることもあったが、彼の的確な判断力と、困難な 状況でも決して動じない精神力は、部の信頼を集めていた。

会計係には、引き続き音羽杏菜 (おとわ あんな)が就任。かくして、2 年生になったばかりの友理を中心に、ベテランの 3年生と頼れる同級生が脇を固める、新たな執行部が発足したのだ。


新たな年度の部活が始まり、友理は早速、部長としての職務に奮闘した。

合奏練習では、これまで以上に全体を見渡し、各パートに的確な指示を出す。時には、自分の演奏技術を惜しみなく披露し、部員たちの模範となる。勇吉は、友理の指揮を冷静にサポートし、春菜は持ち前の明るさで部全体のムードを盛り上げた。


そんな友理を慕って、安中榛名高校に入学してきた新入生がいた。


彼女の名前は、木村(きむら) (かえで)。友理が中学校時代に所属していた吹奏楽部の、 一つ下の後輩だった。楓は、友理のホルンの音色に深く感銘を受け、高校でも友理のいる安 中榛名高校で吹奏楽を続けたいと強く願っていた。


彼女は、全国大会常連校として知られる強豪中学の出身で、クラリネットの技術はピカイチだった。しかし、その強豪校ゆえに培われた音色は、時に硬質で、技術偏重になりがちだった。音楽的な表現や、情感豊かな演奏が不得意な点が、彼女自身の課題でもあった。実家を離れ、親戚を頼って安中榛名地域に引っ越してきたのだ。


「鳴瀬先輩!私、木村楓です!クラリネット希望です!先輩とご一緒できるなんて、夢みたいです!」

楓は、目をキラキラさせて友理に挨拶した。


友理は、楓の顔に少し驚いたが、すぐに状況を理解した。自分を慕って、遠くから来てくれた後輩の姿に、友理の胸は熱くなった。


「楓ちゃん、ようこそ。安中榛名高校吹奏楽部へ」

友理は、優しく微笑みかけた。


杏菜も、新たなクラリネットの後輩ができたことに喜び、楓に声をかけた。

「木村さん、私、音羽杏菜です!クラリネットパートだよ!よろしくね!」


楓は、杏菜の明るさに、すぐに打ち解けた。クラリネットパートには、他にも数名の新入 部員が入ったが、楓は特に熱心で、すぐに杏菜と仲良くなった。楓の存在は、杏菜にとって、 先輩として教える立場になる喜びと、共に成長できる仲間がいることの心強さをもたらした。


部長としての重圧、そして関東大会で全国に届かなかった悔しさ。


友理の 2 年目は、決し て楽な道のりではないだろう。しかし、彼女の周りには、春菜、杏菜、そして新入部員の楓。 さらに、頼れる副部長の勇吉、そして部員全員と、温かく見守る梓先生がいる。安中榛名高 校吹奏楽部の、全国大会への新たな挑戦が、今、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ