【短編版】元悪役令嬢は、辺境でのんびり温泉に浸る~婚約破棄されたわたし、年上の辺境領主さまのもとに嫁ぐ。優しくて病弱な彼のために、【土地神】スキルで温泉を着くってあげたら、なぜか領地が大繁盛してました
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「セントリア・ドロ! おまえとの婚約を破棄する!」
「せんとりあ……? 」
……目の前の金髪イケメンが、わたしに向かって、唐突にそんなことを言ってきたのだ。
一体この人はだれ?
セントリアって……もしかしてわたしのこと?
困惑するわたしは、突如として、激しい頭痛に見舞われた。
そして、わたしは思い出す。
(ああ! ここ、大人気乙女ゲーム【喜びにみちる世界】……通称【びにちる】の世界で、わたしは主人公の恋を邪魔する悪女、セントリア・ドロとして転生したんだった!)
……ここは、ゲータ・ニィガ王国の王立学園。
その卒業パーティの場。
わたしに婚約破棄を言い渡してきたのは、【テンラク=フォン=ゲータ・ニィガ】。
この国の第一王子だ。
「セントリア……おまえは、【聖女コビゥル】へ度重なる嫌がらせを行った!」
聖女コビゥルというのは、このびにちるの主人公。庶民の出身だけど、実は聖女の力を持った凄い女の子であることが、後になってわかる。
編入してきた聖女コビゥルに、テンラク王子は一目惚れする……というのがびにちるの序盤のストーリーだ。
……テンラク王子には、元々婚約者がいた。
それが、わたし。ドロ伯爵家の長女、セントリア・ドロ。
「嫌がらせ……ね」
「そうですぅ」
王子に抱きついて、体をくねらせているのが、ゲーム主人公の聖女コビゥル。
桃色の髪の毛、豊満なボディ。そして、大きな瞳に、小さな顔。
……男子に受けが良さそうな外見をしてる。
コビゥルはがっつりと、テンラクにくっついて、そして無駄に大きな胸をこすりつけていう。
「あたしぃ、セントリアさんに、顔面に泥を投げつけられましたぁ。しかも、飲み物に毒を混ぜられてぇ、あやうく死ぬところだったんですぅ~。くすん」
……確かに、原作のセントリアは、そんなことを、コビゥルにしていた。
わたしにも、コビゥルに対して、そんなことをした記憶がある……。
けど、なぁ……。
それをやったのはゲームの悪役キャラ、セントリアであって、この【わたし】ではない。
【わたし】は、日本でOLをしていた。
アラサー。趣味はゲーム。カレシはない。結婚の予定もなし……
……たしか【わたし】は、仕事を終えて家に帰って、新作狩猟ゲームをしてた、はず。
そして寝落ちした……と思ったら、気づいたらここにいたのだ。
で、わたしの置かれている状況を整理すると……。
(乙女ゲーム【びにちる】のラスト直前の、断罪シーンまっただなか……ってところだよね)
セントリアは卒業パーティで、その罪を白日の下にさらされる。
セントリアが行ってきた悪行のせいで、周りは彼女のことを、だれも助けようとしない。
まあ、しょうがない。
セントリアは、いまコビゥルが言ったとおり、人の顔に泥を投げつけたり、髪の毛をひっぱったり、階段から突き飛ばしたり……と。
そういうことを、平気で行うのだ。
自分が貴族で、選ばれた人間だから、他人にそういうことをしてもいいと。特に平民への当たりはキツかったから。
貴族、平民、学校関係者、だれも……わたしを擁護してくれない。
(しょっぱなから詰んでる件……。しかも、確かこの後の展開って……)
「聖女を虐めた罪は重い。貴様には、相応の罰を受けてもらう。その内容は……ケミスト辺境伯の、後妻となってもらう!」
……やっぱりか。
ケミスト辺境伯。
ここ、ゲータ・ニィガ王国の東に広がる、【ケミスト】領の領主様だ。
辺境伯なので、かなりお偉いさんである。そこに嫁ぐことが、なぜ罰になるのか。
簡単だ。
「確か、今の当主は、御年60でございましたね」
「そ、そうだ……セントリア。よく知ってるな」
ええ、よく、ご存知ですよ。
なにせ、びにちるは何度もやりこんだゲームなので。
そう……婚約破棄された悪役令嬢、セントリア・ドロは、ケミスト辺境伯(60)歳の、後妻として、無理矢理結婚させられるのである。
……そして、この後どうなるかも、わたしは知ってる。
婚約破棄後、憎しみにとらわれたセントリアは、最終的に悪魔と契約。
辺境の森の魔物達を率いて、主人公たちに復讐を果たそうとするのだ。
……まあ、コビゥルの聖なるパワーによって、悪魔となったわたしは滅ぼされてしまうのだけど。
で、その際に、ケミスト領は、復讐劇に巻き込まれて滅んでしまうのだ……。
(まあ、無理もない。うら若き乙女が、60のおじさんと無理矢理結婚させられたら、恨みを抱くよね)
セントリアは特に、プライドの高い女だった。
「セントリア様……おかわいそう(くすくす)」「60のおじいさんと結婚させられるなんて(くすくす)」「まあ、自業自得だけど(笑)」
……↑周りから、こんな風に思われる(言われる)のが、相当、嫌だったんだろう。
こうなるきっかけを与えた、主人公コビゥル、およびヒーロー・テンラクに復讐したくなる気持ちも、まあわからなくもない。
(わたしはまあ、別にどうでもいいけど。他人からどう思われようともね。……さて、問題は、これからどうする、だ)
セントリア(わたし)の、ケミスト領行きは覆せない。
なぜなら、王命だからだ。
びにちるは、中世(風)ファンタジー世界を舞台にしてる。
王の命令に逆らうことができない時代なのだ。
(となると、ケミスト領へ行かざるを得ない……か。このままだと破滅一直線だけど、まあでも、大丈夫か)
セントリアは、悪魔と契約し、その憎しみを暴走させた結果、主人公達に殺される。
裏を返せば、悪魔と契約さえしなければ破滅することは、ない。
「わかりました。王の命令に従い、わたしはケミスト辺境伯の後妻となります」
そんなわたしのことを、なぜか主人公であるコビゥルは、「……あれ? 原作とリアクションが違うような……?」と何かをつぶやいて、首をかしげていたのだった。
☆
パーティの後、わたしは荷物をまとめて、ケミスト領へと向かった。
ここはゲータ・ニィガ王国の東の端に位置する。
その隣には、【奈落の森】とよばれる、魔物がうろつくヤバい森が広がっている。
ケミスト辺境伯は、その魔物が王国に入ってこないように、守護し続けているのだ。
辺境伯さまのお名前は【ルシウム・ケミスト】さまという。
御年、60歳。
ここは、現代日本ではない。中世ヨーロッパ(風)の世界だ。
人の命が、現代よりも軽い世界で、60歳はもうお爺ちゃんなのだ。
15で成人するような世界だしね。
そんなお爺さんである、ルシウムさまには、奥様が居た。
けれど、だいぶ早くに亡くなられてしまったようである。
ルシウムさまには一人娘が居る。
けれど、この世界、女児では家を継げないのだ。
結果、ルシウム様は今日までお一人で、60になった今も、領地と領民、そしてこの国の民を守ってるのである。
……うん。普通に、立派な人だ。
それが、今のこの【わたし】がルシウムさまに抱いてる印象である。
……でも原作セントリアは、そうは思わなかったんだろうなぁ。
まあ、わからなくもない。貴族のきらびやかな世界から一点、ど田舎の、見知らぬおじいちゃんと結婚しろ、だなんて命令されちゃあね……。
☆
「お初にお目に掛かります。セントリア・ドロと申します。これから、どうぞよろしくお願いします」
ケミスト領の、領主の古城。領主の執務室。
わたしの目の前には、白髪の、優しそうなお爺さんがいた。
確かに、顔にはシワが刻まれてる。けれど、髪はふさふさ。身長も高い。
まあ、さすがに加齢の影響か、腰は曲がってるけれども。
でも、うわさの悪女が、ここへ来ても、全然嫌な顔をしてこなかった。
むしろ、笑顔で「初めまして、お嬢さん。遠くまで来てくれて、ありがとう」と言ってきてくれた。
いいお爺ちゃんである。
「…………」
そんなルシウムさまは、わたしが頭を下げると、目を丸くしていらした。
「あら、どうなさったのですか、ルシウムさま?」
「ああ、これは失敬。私は、てっきり貴女は、ここに来るのが不服だと思っていたのでね」
なるほど……。
原作のセントリアなら、ここで「別に来たくてきたわけじゃあない」だの、「こんなじじいがわたくしの旦那ですって!? 最悪」だのと、ルシウムさまを罵っていただろう。
だから、実物を見て、予想に反したリアクションだったから、驚いてるようだ。
「不服なんてとんでもありませんわ。自然がたくさんで、いいところですね」
うん、ほんとのどかで良いところなのだ。ケミスト領。
隣に、奈落の森なんていう、物騒な場所があるから、てっきりもっと殺伐とした雰囲気をしてるのかと思ったのだけど。
でも、領民達はみな笑顔で、会う人会う人、「こんにちはー」と挨拶をしてくるのだ。
「ルシウムさまたちが、日々領民たちのために、働いておられるおかげでしょうね」
「…………」
ルシウムさまは目を大きくむいて、けれど、嬉しそうに笑う。
「ありがとう、お嬢さん。それと……本当に申し訳ないね。こんなお爺ちゃんと、結婚する羽目になって」
「いえいえ」
「安心しておくれ。君に、妻としての仕事をしてもらいたいとは思っていないから」
「あら、そうなんです?」
「ああ。私はもう歳だ。まもなく死ぬ。そうすれば、この地には新しい領主が来るだろう」
……話しぶりから察するに、今からわたしと子供を作って、育て、領主に据える、という気はないようだ。
「確か、お孫さまがいらっしゃるとうかがっていたのですが」
ルシウムさまには、その一人娘が産んだ子供……。
つまり、孫がいるのだ。しかも、男の子。
その子に家を継がせればいい。
「【トリム】は、いま、自分のやりたいことをしているんだ」
トリムっていうのが、ルシウムさまのお孫さまのお名前らしい。
びにちるで、その名前を聞いたことないな。
「トリムは今、帝国で宮廷魔導士をしている。昔から、宮廷で働きたいといっていたからね。その夢がやっと叶ったというのに、田舎に連れ戻すわけにはいかないよ」
「なるほど……」
孫はいるけど、孫に申し訳ないから、継がせるつもりはないということか。
「もうしばらく、我慢して欲しい。まもなく私は死ぬ。私が死ねば、君は自由だ。ここを出て、新しい人生を送るといい。私の遺産を使ってね」
「…………」
どうしよう……。普通に、いい人だ。
こんないい人が、もうすぐ死ぬなんて……。
「侍女に部屋を案内させよう。悪いが、私は動けなくてね」
「足が悪いんですか?」
「というより、腰、かな。最近腰を悪くしてね。医者が言うには、そのうち体が完全に動かなくなってしまうだろうと」
ヘルニア的なものを、抱えてるのだろう。
……可哀想に。
お爺ちゃんは、私に優しくしてくれる。
生きてる間も自由にしてくれていいというし、死んだ後も自由にしていいという。
……60まで頑張って働いてる、働き者で、優しいお爺ちゃんが。
このままヘルニアで、動けなくなって、死ぬ。そんな姿を……横でぼけっと見てるのは、なんだか嫌だ。
……私はお爺ちゃんおばあちゃん子だったりする。
両親が共働きで、いつも祖父母の家に預けられていたのだ。
だからだろう、お年寄りには、優しくしてあげたいのである。
☆
ゲームだと、セントリア・ドロは、【土地神の加護】を持っている。
このびにちる世界では、生まれたとき、女神さまから特別な力……加護をもらうのだ。
剣神の加護を得ると、剣の達人になる。
火の加護を得ると、自由に火を操れるようになる。
セントリアの加護、【土地神の加護】は、文字通り土や地に関する力。
たとえば、地面を隆起させて、土の壁をつくったり、地質を変化させたり。
とにかく、大地に関する力を持っているのだ。まあまあチートなキャラ……なんだけど。
彼女は、自分の加護については、あまり好ましく思っていなかった。
『地味すぎて高貴なわたしに釣り合いませんわ!』だってさ。
でも……わたしは知っている。
びにちるの攻略本、設定資料集を読んだことのあるわたしは、セントリアのもつ加護が、ひっじょーにチートかつレアな加護だってことがね。
で。
わたしがケミスト領に来て数日後。
領主の古城の裏庭に、ルシウムさまを連れてきた。
「これは……なんだろうか。お嬢さん」
「見ての通り、温泉ですわ、ルシウムさま」
立派な露天風呂が、目の前には広がっているのだ。
ちゃーんと、石造りの床に、湯船まで作っている。
「お、おんせん……? そんなもの、ケミスト領には無かったような……?」
「ええ。ですので、わたくしが作りました」
「作った!? 温泉を……? 君がかい……?」
「はい。加護の能力の1つ、【土地鑑定】を行ったところ、ケミスト領は温泉適正がSSSだということが判明したのです」
土地鑑定。
その土地の、秘めたる情報を見ることのできる力だ。
「どうやらこの領地には、非常に良質な温泉が眠っていることがわかりました。ので、わたしが作ったのです」
「ど、どうやってだい……?」
「まず、土地鑑定で温泉の湧き出るスポットを調べ、【地面採掘】で温泉を掘り当てたのです」
あとは、【建物作成】で、ぱぱっと露天風呂を完成させたのだ。
土地神の加護は、土を隆起させたり、ドロを作ったりする以外にも、建物や温泉といった、その【土地】に関するものを作ったり、その【土地】に住む人たちが住みやすくしたりできる力を、持っているのだ。
原作登場人物(セントリア含む)や、ライトユーザーからは、土いじりしかできない外れ加護だと馬鹿にされていたけど……。
でも、土地神の加護は、公式が認めるチート加護なのだ。
「さ、ルシウムさま。わたしの作った【痛みに効く温泉】を、ご堪能ください」
「…………お嬢さん。もしかして、私のために……?」
「ええ。リウマチも治りますよ! 元気になったら一緒にこの領地を、案内してしてくださいませ」
「………………ありがとう、お嬢さん」
わたしは彼の着替えを手伝ってあげる。
「ごめんね」と謝る彼に、私は「いえ、これも妻の役目ですので」といって、服を脱がせてあげる。
そして、ルシウムさまを湯船に入れる。
「はあ………………。生き返るようだよ…………こんな素敵な温泉を、ありがとう」
そのときだった。
ぱぁ……! とルシウムさまの体が、光り出したのだ。
「え? えええっ?」
なんと、彼の体が、徐々に……若返りだしたのである。
うっそ……え? ええ?
「こ、これは……信じられない」
そこにいたのは、どう見ても20歳くらいの、青い髪をした、イケメンだった。
「【土地鑑定】!」
~~~~~~
・温泉(S+)
→効能:『体の痛みがなくなる』※
※若返り効果あり
~~~~~~
いや。確かに、若返ったら、体の痛みはなくなるけどさっ。
「……すごい。これは、まさに神の力。お嬢さん……あなたは、本当に凄い人だ」
☆
後に、このケミスト領には、私の温泉を求めて、数多くのマダムたち、女性達がやってくることになる。
入ればぴちぴちの玉子肌になる温泉なんて、入りたいに決まってる。
……まあその中には、わたしが追放されるきっかけとなった、あのコビゥルもいたのだけど、もちろん追い返した。
さらに、この温泉に毎日入ったことで、わたしはさらに美人になり、その噂を聞いた元婚約者であるテンラクがやってくるなんてこともあるんだけど……。
それは、また別の話。
【☆★おしらせ★☆】
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