1/3 「盗賊」
華やかな飯の塔「カメイル」に住むニンゲンを眺めるだけのドルフ達。ドルフの兄妹、ツキとタイヨウは、お腹を空かせて暮らしている。とうとう残飯も手に入らなくなり、途方に暮れてたツキはある青年に声をかけられる…
今日も遠くの光が眩しい
赤色青色黄色に緑、華やかな光が街を照らしている。
夜になれば尚更眩しい。あんな光は目が痛くなる。
飯の塔「カイメル」は、下街を今日も淡く照らしていた。あそこに住むニンゲンという種族は、欲が強く、種族間での争いも絶えない不思議な種族だ。
そんなに仲が悪いなら、同じ塔で暮らさなきゃ良い。
下街にはドルフという種族が住んでいた。ニンゲンより寿命が長く、体力もある。だが、肌の半分が灰色になっている。ニンゲンとは、それだけで差別してくる種族らしく、10年の戦争の末ニンゲンが勝利した。それでこの有様である。カイメルに住むニンゲンの残飯を下街ですするハメになってしまった。
下街に一軒のボロボロな小屋がある。その中には1組の
兄妹がいた。
姉が「ツキ」と言い、弟が『タイヨウ』と言う。
『姉ちゃん』
「どうしたの?」
『ご飯ないの?』
「ご飯無いの。ごめんね」
『そっか…』
無言の中で腹の音が部屋の8隅に染み込んでいく
タイヨウは寝てしまった。外の風で窓がカタカタ揺れている。ツキは自分の持ってる上着を、2枚タイヨウに被せた。残った1枚を羽織って、外に出た。
ツキは食べ物を取りに外へ出た。外は寒く凍え死にそうになる。冷たい風が体全体をすり抜けていく。
食べ物は無かった。分かりきっていたが、残飯の残りすら塵1つなかった。
タイヨウに合わせる顔が無い。タイヨウはお腹を空かしているのに、自分は何もしてやれない。
涙が出そうになる。
帰ろう
ここに居てもしょうがない。明日朝早くいけば、残飯が残ってるかもしれない、と淡い期待を無理矢理し、寒い道を引き返してった。
[おーい、こんな時間に何してるの?]
若い男の声が聞こえた。声の方を向くと、肌が半分灰色の青年が、ぼろ家の窓から顔を出していた。
食べ物があるかもしれない。
そう思い、助けを求めてぼろ家の中に入った。
中は想像がつくようなボロボロさで、唯一意外だったのは、暖炉があったことだ。そして青年から「焼き魚」を2本貰った。ツキは食べることなく2本とも懐にしまった。
[どうして食べないの?]
「弟がお腹をすかしてるの」
[そっか…弟がいるんだね]
青年は木のコップをツキに差し出した。
[せめて水くらい飲んでいきなよ]
「うん…じゃあ頂いていくね」
ツキは水を飲んだ。冷たさが喉をぬるぬる通り抜けて落ちていく。
[まだ名乗ってなかったね。僕はウッドって言うんだ!]
「ウッド…良い名前ね」
[でしょ!僕も気にいってるんだ!]
暖炉のパチパチなる音が部屋に響く。
[弟居るのって大変じゃないの?]
「大変じゃないよ。私の生きる理由だもん」
[そっか。ドルフはホントに大変だもんね]
「一回だけでもカメイル行ってみたいもんだよ」
[ホントだよな。あいつら良い飯食べてんだろうな]
暖炉の火が小さくなる
「貴方はどうやって暮らしてるの?」
[んーとねー]
ウッドが水が入ったコップを持って立ち上がる
[基本は残飯拾ってくる生活かな]
ウッドが暖炉の前で立ち止まる
[でもそれだけじゃー生活苦しくてね]
「……」眠い…なぜか分からないが眠い
ウッドはコップを逆さまにし、暖炉の火を消した。
[最近はドルフを売って暮らしてるんだよね]
さて、間抜けな女が寝た。どー考えたって怪しかっただろうに。なのにまんまと罠にかかりやがった。
手足を縛り、袋に入れて抱えて運ぶ。風が強いが、夜じゃないきゃこの仕事はできない。
【お、来た来た】
[今日は女のドルフが釣れたよ]
【女かー。まー適当なジジィにでも売るかなー】
[女のドルフは3万ゴールドでしたよね?]
【はいはい、分かってるよ。ほらよ】
3万ゴールドの入った袋と、女のドルフが入った袋を交換した。女の袋がトラックの荷台に放り込まれる。
【あーそういえばさー】
[?]
【この女なんか食べ物とか持ってなかった?】
[なんも持ってなかったですよ]
【ちっ…そーですかー】
俺を残し飯の街へトラックは走っていく。取引相手の乗ったトラックはもう見えない。まぁこんなもんだろ。今日も稼いだ。仕事をした。寝よう。
朝日がタイヨウの目に差し込む。起きろと言わんばかりの光に目が覚める。
「…? 姉ちゃん?」
いつも当たり前に側にいたツキが居ない。ただ、横には焼き魚が2つ並んで置かれてるばかりだった。
1/3話をお読み頂きありがとうございました。電子レンジの温め待ちとかの時間に読んでくれたりしたら幸いです。後、僕の名前覚えてますか?「んんんん」です。忘れてるかなって思ったんので、書いときますね。