「今日は少しナイーブに・・・」
「・・・」
「・・・」
今日はいつもと違う酒場で二人きりの私、ユイとお兄ちゃん。離れ離れになってもまだ家族の輪が繋いでいると信じていた。
久し振りに会ったと思えば前よりしおらしく何処か素っ気無い。特に思い出話とかあるわけでもなく一言挨拶して終わり。
こうして二人で端に座りながら二人だけの空間が流れる。
「ユイ」
「ん?」
「よく生きてたな」
「ん」
肉親なのにぎこち無い、別れ方が特殊だったのか・・或いは家族の会話すらよく分かっていないのか。
「俺は金さえあればユイを悠々自適に暮らせると考えていた」
「その結果私は全て失ってただの殺し屋になった」
「妹を買い被っていたかもしれないな」
「そうね、私は失敗作の駄目人間・・・人との会話も苦手、殺す事しか脳が無い」
「なら俺もその同類だな」
「何いってんの?お仲間ごっこしてたクセに?」
お兄ちゃん、私そんな話したくて二人きりになってる訳じゃない、思いはあるのに言葉に出来ない。
「あんなの俺にとって金を沸かせる程度の木偶としか捉えてないさ、俺はユイが一番だ」
「そ、なら私もそこに連れてくれれば良かったのに、そんなに信用出来ない?」
「ああ」
拳を握りつつも私は俯いたまま歯ぎしりを抑えた。
誰も私を必要としてない、私なんかこのまま生きても意味なんか無い。
お兄ちゃんは俯いたまま私の頭を優しく撫でながら乾いた声で笑った。
「俺は育て下手だし妹に愛情なんか与えず殺す事と見定める能力と生き抜く術しか与えていない、不出来な兄妹はこのまま死に絶えるだろうな」
言葉は返さなかった、私は何千回裏切られて殺され掛けて苦しくて辛くて何も見たくない、聴きたくない、誰も触れないで欲しい感情が湧き上がる。
でもそんな時いつもお兄ちゃんは傍にいてくれる。
「ユイ、だがお前は違う・・・今の環境を見ろ、俺達が欲しかったモノがそこかしこに溢れている」
指を差す方向をみると酒場からやってきたいつもの皆、相変わらずユカリちゃんが先頭に立ちてんやわんや騒いでいる。
「俺達みたいな陽を浴びない輩に手を差し伸べてくれる奴がやっと現れた」
「そんなの偶然よ、どうせまた離れる」
私は過去の人生に歯がゆい気持ちと苦みを噛み締めて生きている。
「離れないさ、俺達のリーダーは誰も見捨てないガキの頃に欲しかった優しい人々が照らしてくれる、もう・・・死への恐怖や苦痛に耐えて一日中必死に生きる必要性なんか無い、寒くも無く心地の良いに環境に漸く巡り合わせたんだ」
私は歯ぎしりしながら必死で涙を堪えた、それなのに大粒の雨がスカートを濡らしていく。
「私、もっと皆と仲良くなれる?」
精一杯に我慢して生きて来た、少し暗い我儘でも誰も嫌いにならないよね?
「そうさせてくれる権利も仲間がいる」
「私、もう血を浴びたり飲んだり泥飲んだり四肢切断したりしなくてもいい?」
「温かい飲み物や家族の輪でしか行えないパーティーや温かいモノが包んでくれるさ」
「好きな人とか作って愛しても良い?」
「俺達は自由さ、好きな奴に惚れて余生を過せばいい、あの頃のような生き地獄を掘り返さず蓋をして本当の人生を過ごすぞ」
「うん・・・!・・・お兄ちゃん」
私が本当に話したい言葉、それは別れる前から望んだモノ。
誰にもこの想いを踏み躙らせない。
「私を・・・愛して」
お兄ちゃんはそっと私を抱き締めて頭を強く撫でてくれた。
やっぱり愛し方が下手、でも私は嬉しい・・・やっぱり私のお兄ちゃんは星界一番胸を張って誇れるお兄ちゃんだ。
どんだけ批判されても私はお兄ちゃんが一番格好良い。
「温かい世界に行って来い」
「お兄ちゃんは?」
「俺は・・・ふっ・・・もう眩しいくらいに陽を浴びた、少し休ませてくれ」
私は瞳に雨を降らせながら頷いて子供のように走り大好きな人に抱きついた、物凄く驚いていて私は満面の笑みを見せて抱きしめた。
「ユカリちゃん!大好き!」
私達兄妹が喉から手が出る程尊き夢でしか無かった“平和な日常”と“誰かに愛される”はいつの間にか全部手に入れていた、私は初めて行きてて良かったと思えた。