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オニができたか
とたん。
吹き上がる雪を割るほどの速さで、なにかが引きさがる気配。
おう、と首をふるわせそれを見送ったアラシが、山をみあげた。
「 こりゃまた・・・どうするよ。サモン、―― 」
雪の上に、男の刃が斬りおとしたものが残った。
ひくひくとまだ動く、細長い枯れ枝のような先についているのは、獣のように固くとがった爪だ。
「―― 指、か」
よく見れば、獣のような爪をつけたそれには、曲げるための節がある。
認めたくはないが、それはたしかに『指』だった。
めずらしく、男の口が、悲しみではない、うめきをもらす。
「――― ・・・・・『オニ』が・・・。できたか・・・・」
まだ動くそれの切り口からこぼれたものが、雪を赤くする。
そっとしゃがみこんだサモンが、つまみあげようとしたとき、弾かれたかのようにそれがとびかかった。
「っサモン!」
わきを飛び去ろうとした『指』に喰いつき、アラシはそれを飲み込んだ。
顔をおさえた男の指のすきまから落ちた血が、
―――― 雪を赤く染めた。
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