きびしい寒さ
――山――
襲い掛かるような風に吹きつけられた雪が、下から舞うようだった。
小さく細かいその粒は、ほんらい天から舞ってくるもので、見上げれば、かすかに上からも降ってきている。
長くのびた鼻先で冷たい粒が消えるのを見届けた、巨大なトカゲのような生き物が、黒いうろこで覆われたからだを震わせ、あいかわらず殺風景なもんじゃ、と鼻息を吹く。
その背から降り立った壱の宮の大臣サモンは、整った顔に薄くわらいをのせ、あたりをみまわす。
自分がまだ人間で、この地の将軍の息子であった昔から、この景色は変わらない。
「・・・北は、寒くきびしい土地でもあるのだ。―― だがなあ・・」
たしかに一年中、他の土地よりはひどく冷えこむであろう。
冬という季節がくれば、すべてが眠ったように動かず、景色は白一色の雪となる。
だが、この下界では、春もとうに訪れているというのに、少しもとけずに地面を覆うこの深い雪と、冷え込みのきびしさはどうだ?
「言っておくがな。わしではないぞ」
雲と風の僕であるアラシは、喉をゴロゴロと鳴らし、サモンもわらう。
「わかっている。天はいつもと変わらぬほどの雪を落としたまでだ」
問題は、天ではない。