死にたくねえ
ようやく見つけたのは、このごろ陽が照る時間が続いたために見つけることのできたウサギだった。
少しだけ溶けてきた雪の下、山の道わきの斜面が黒い土を見せはじめ、木の根がちょうどひさしのように出っ張った下にあるその穴は、枯葉が、はりつくように重なって、目立たないものだった。
みつけたのは子どもで、それがウサギの穴だとわかって、しばらく口を閉じていた。
女は必死の形相で、むこうの斜面をはいつくばる。
くいもんはどこだ
女のかすれた声がきこえる。
はやくでろ はやく くわねえと でねえと、 もお、
―――― し ぬ
女がこどもを見る。
やせ細った体を地面にこすりつけ、筋張った腕で土をほり、ゆわいた髪もふり乱した様子は、まるで、聞かされていた『オニ』のようだ。
その『オニ』が、こちらをむいて、死にたくねえだろ、と言う。
こどもはただ、こわいとおもったから、うなずいた。
うなずいて、みつけた穴を指さした。
――― さ、はようもどってはよ食お
血を抜き皮をはいだそれを手に女が立ち上がる。
家の近くでやれば、その匂いにつられて妖物が来る。
獲物をしまう革袋にそれをしまい、女が手をさしだした。
――― さ、もどろ
こどもにむける顔からは、すっかり『オニ』がおちていた。




