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つくづく自分はダメ人間だなぁ…と、思いました。
血にまみれた真っ赤な世界で、黒い髪の少女がこちらに向かって両腕を広げ、必死に何かを叫んでいた。
『…!?―ッ!!―ぁ―!!』
しかし、彼には聞こえない…届かない。
徐に彼の右腕が振り上げられる。
彼の視界の隅に、恐ろしい大鎌のような鉤爪が生え、白く煌めく鱗に覆われた手が見えた。
その鉤爪も鱗も、たった今引き裂き、握りつぶし、引きちぎったモノの体液で赤く染まっている。
少女は相変わらずこちらに何か叫び、まるで何かを抱き留めようとしているように、両腕を広げている。
―そして
彼の右腕が、付着物を撒き散らしつつ彼女に向かって振り下ろされた。
最後の一瞬、腕を振り下ろした彼の目にキラリと光るモノが映った。
それは彼女の右腕にはめられた銀の腕輪。
その凛とした輝きを目にした彼は正気を取り戻したが ―
― 既に遅かった
グシャリ と、右手の鉤爪と、怪力が人体を破壊した感触と音が、右手と耳朶に伝わってくる。
『グッ…ゴオオォォォォォオ』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―ォォォォォぉぉおッ!!………がっ…ハァハァ…ッ!?」
真堂朝輝は自らの声で目が覚めた。
「朝輝さま」
いつの間にか白雪が朝輝の大きなベッドの上に乗り出し、朝輝の手をその白くて細い手指で包み込むように握っていた。
ひんやりとした白雪の手が心地いい。
「黒江さん…びっくりしたでしょ?」
「………」
「なにせそっくりだからね…」
朝輝があれから2年間、強力な精神安定用の魔術薬を飲んでいるにも関わらず、特に今年4月からほぼ毎夜のようにうなされている理由が、今日白雪にもわかった。
「だから…ですか。あんなに必死に彼女を助けようとしたのは」
白雪は気付いていた。
彼女と対面する朝輝が怯えていることに。
朝輝が戸惑っていることに。
朝輝の中で激しいものが渦巻いていることに。
ティーカップを持つ手も震えていた。
彼女に何度も謝っていた。
「4月に同じクラスになって初めて彼女と会った時…僕は夢を見てるのかと思った」
額にじっとりと汗をかき、白雪に手を握られたまま朝輝は呟くように続ける。
「でも現実だった…彼女が生き返ったのかとも思った…でも…彼女は…彼女は………!!」
ベッドに横たわったまま、朝輝は涙を流していた。
「朝輝さま」
制止するように、白雪が朝輝の手を更に強く握りしめる。
「あれからまだ2年です。心の傷を癒やすには短すぎる」
ベッドに身を乗り出し、朝輝の手を握っていた白雪が、片方の手を離して、その手を朝輝の頬に優しく当てた。
あれだけのことがあったのだ。
気が狂っていないだけいい。
「いや…」
頬に当てられた白雪の手に朝輝が片手を重ねた。
朝輝の手はいつも熱い。
「もう2年…だよ」
真夏の昼下がりの太陽光が、白いレースのカーテンを通して程よく室内を照らしていた。
時刻は午後3時30分過ぎ。
あの儀式の直後に朝輝は気絶したらしい。
今もどうしようもない倦怠感に体が支配されていた。
何せ根こそぎ魔力を持って行かれたのだから仕方がないか。
ふぅ、と息を吐いて、朝輝がベッドから上体を起こした。
「もう、平気ですか?」
白雪が無表情だが心配そうな様子で聞いてくる。
「あぁ、大丈夫」
それより、と朝輝はまだ涙の名残がある顔で、白雪に少し笑って見せた。
「今日から忙しくなるよ」
「承知」
これより、力を失った少年と、力を手に入れた少女の闘いが始まる。
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