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このお話しはここから始まりみたいなもんです。
世間話の続きを楽しんでいる時であった。
「あっ」
沙也加が誤ってティーカップを倒してしまったのだ。
まだたっぷり有った中身が、深い飴色の流れとなって先ほど朝輝が放置した封筒の方へと流れる。
「…!?」
汚しては大変と、沙也加がとっさにテーブルから封筒を持ち上げる。
― その時
ギュバッ!!
という怪音と共に、茶封筒が炸裂し、煌めく何かが沙也加の方に飛んだ。
「美香!!黒江さん!!」
朝輝はとっさに魔術師2人に号令をかけ、自身も臨戦態勢に入る。
その対応の早さは流石と言えよう。
しかし、魔術的にかなり安全なはずのこの家の中で一体なにが有ったと言うのか?
「え…な、何…?」
首元に何かひんやりした感触がある。
沙也加は訳が解らずその場に立ち尽くしていた。
「九条さん、そこを動かないで!!」
「え…?」
「黒江さんは結を〈神聖結界〉の中に閉じ込め下さい!!」
「かしこまりました」
そう言って白雪が部屋から出て行った。
沙也加はまったくもって何が起きているのか解らなかった。
「美香、君は九条さんをお願い」
「わかった」
何時になく真剣な顔で美香が沙也加の前に立った。
「美香…なにが起きたの?」
「説明は後でいくらでも聞いてあげるから今は目を閉じて!!」
「え…でも」
「いいから!!」
沙也加は目を閉じた。
閉じてみると、首元のひんやり感をより一層強く感じた。
目を閉じた沙也加の首には、美しいアクセサリーが付けられていた。
勿論、さっきまでそんなモノはなかった。
それはペンダントであった。
美しいダイヤモンドが沙也加の首と胸の中間辺りで輝いていたが、そのダイヤの中心はまるで病魔に犯された様に黒くなっている。
「(これは…)」
美香は思わず素手で触りかけたが、途中で手を止める。
何かはわからない。
しかし、1つだけわかることがあった。
「(危険だ…私の手に終えるような代物じゃない…)」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝輝は封筒が炸裂した時に、ヒラヒラと舞い落ちて来た手紙を読んでいた。
「(…!!またか、またなのか!?…また僕のせいで魔術と関わりのない人をッ)」
手紙にはこうあった。
『やぁ、元気かね?
コレが届いたってことはやっとゲームに君が参加してくれたってことだね。
嬉しいねぇ!!非常に嬉しい!!
さてさて、本題だ。 君はたった今、このゲームのプレイヤーになった。
プレゼントはちゃんと届いただろうね?
ダイヤのペンダントだよ。
強烈で強力な悪魔の〈カケラ〉入りのね。
それを受け取った人間が君とともにゲームに参加する相棒だ。
そして君の主人でもある。
プレゼントを受け取ったのは一般人の女の子だろう?
何せ、そういう風に仕組んだのだからね。
発動条件は、“真堂朝輝”の家の中で、“年の近い一般人の女の子”があの封筒に触れることだよ。
何せ、魔術師でもない女の子が君の家にいると言うことは…そういうことだろう?
君が青春を楽しんでいるようで何より。
もとより、そうでもなければもっと別の方法を採ったがね。
ではゲームの説明といこうか。
まぁ、簡単だよ。
まずはその娘と“契約”だ。
君の血をそのダイヤに吸わせ、僕になると誓うんだ。
30分以内にしないと、その娘は死ぬ。
ダイヤに命を吸い取られてね。
次からはもっと簡単さ。
戦って戦って戦って生き残る。
それだけさ。
このゲームの参加者は君たちをあわせて4ペア。
それぞれが皆“カケラ”を持っている。
他のペアを倒してその“カケラ”を集めるんだ。
そうすればどんどん強くなって行くからね。
重要なのは最初は君は魔術が使えなくなるということだ。
これは皆同じ条件。
最初の戦いは皆、魔術素人である主人しか戦えない。
あぁ、言い忘れたがどのペアも主人は一般人だ。
従者達はカケラを集めるにつれて力が戻る。ただし、主人が死ぬと従者も死ぬから気を付けたまえ。
後、ミニゲームも用意してあるよ。
まぁ、内容はこちらで適当に決めていくから、楽しみにしていてくれたまえよ。
ミニゲームをこなすことでも君たち従者にも徐々に力が戻る仕組みさ。
PS 勝手ながら君の使える術式は“竜の力”に限らせてもらうよ。
サタンより、崇拝する白き竜へ 』
ギリギリと、朝輝が歯をを噛み締める音がした。
「(ふざけるなッ!!)」
グシャグシャっと手紙を丸めて荒っぽく放り投げた。
「(サタン…か、どんなヤツかしらんが誰にケンカ売った教えてやるよ)」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「九条さん。君はこれから今までのような日常はおくれなくなる」
「美香から…す、少しだけ聞いた…、朝輝君と美香が魔法使いだって…でも…」
朝輝と対面した沙也加の首元には、ダイヤが輝いている。
朝輝はわずかに唇をかんだ。
握った拳も震えている。
「そう簡単に信じるとは思ってないよ…だから」
そう言って朝輝は、握った拳を体の前に持ち上げた。
ほう っと朝輝が少し広げた手のひらの中で、白い炎が穏やかに燃えていた。
思わず息を飲んだ沙也加に、
「口頭での説明には時間がかかるから、九条さんには直接理解してもらうしかない」
と言って、白い炎を握り潰した。
「美香、サポートを。これから九条さんに理解してもらう。九条さんの尊厳を守るために、記憶の逆流を防いで欲しい」
「わかった」
美香はそう言って朝輝の後ろに立った。
「九条さん、目を閉じて」
言われた通りにする。
もう訳がわからない…
沙也加は自分がおかしくなってしまったのかと思い始めてた。
「ごめんね…九条さん…僕のせいで」
朝輝の暖かな指先が、沙也加の白い額にそっと触れる。
― 次の瞬間
暖かかな指先が急に熱くなり、そこからスゴい勢いで朝輝から“情報”が流れ込み、沙也加は全てを知った。
朝輝や美香が本当に魔術師であること、連盟について、魔術について、自分がこれからなにをしなければいけないのか。
強制的に理解させられた。
そっと額から朝輝の指先が離れ、沙也加は目を開けて朝輝の顔を見た。
何時もの、沙也加の大好きな朝輝だが、なんだか今までと違って見えた。
「事情は理解したね」
朝輝が優しい口調で沙也加に尋ねる。
朝輝の中では後悔と罪悪感と怒りとが渦巻いていたが、沙也加は悪くないのだ。
悪いのはサタンと………
「う…うん」
目を伏せて答える。
理解はしたが、まだ気持ちの整理が出来ていなかった。
「これから儀式を行う」
そう言って朝輝が、バームクーヘンを切り分けたナイフを手に取った。
冷えた光を放つ刃を、朝輝は左手の指先に押し当てる。
あまりに痛々しい光景に沙也加が目を閉じていた。
見ていられなかったのだ、朝輝が自分のために体を傷つけるところなど。
自身にナイフを突き立てられるよりもずっと痛かった。
「…ッ」
指先から溢れ出した真っ赤な液体を、沙也加のペンダントに近づける。
「九条さん…ごめんね…」
そして傷口をダイヤの滑らかで硬い表面に押し付けた。
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