⑦ 新しい投票方式を考える
質問者:しかし、そもそも投票したい人がいないという場合にはどうしたら良いのでしょうか?
筆者:これはいずれにしても長期的な戦略が必要になりますね。
国民全体での政治への関心を持つことが立候補者に対する刺激へと繋がりますからね。
それぞれの人間には適正もありますし、立候補にはお金がかかることでもありますから、
分母のパイを大きくしていかなければならないでしょう。
質問者:しかし、選挙制度そのものでどうにか淘汰することは出来ないのでしょうか?
特に、“政治家に相応しくないと思われる有名人”が当選を阻止したいという方は多いと思うのですが……。
私の場合ですと政治経験のないタレント議員などが当選するのはあまり良くないことだと思います……。
〇反対投票/優先順位付き投票方式
筆者:なるほど、その考えは世間的には反対投票やマイナス投票と呼ばれる考え方です。
世界ではまだ導入されていませんが、台湾にて検討がされています。
有権者は1票をもち、特定の候補者への賛成票を投じるか、賛成票の代わりに反対票を投じる権利を持つものです。
アメリカの世論調査会社に依頼して行った調査では、反対投票が実現していたらアメリカ大統領選挙の投票率が4.4%ほど増加し、960万人の有権者が新たに投票に参加することになるとの結果が示されています。
マイナスの票にはなりませんが、ロシアやカナダでは「全ての候補に反対」と言った無効票とは別の意思表示としてカウントされることもあるようです。
質問者:そのような、反対投票は実施されてはいないんですね……。
筆者:反対投票に近い考え方としては「優先順位付き投票方式」というものがあります。
これはオーストラリア、インドで導入されている選挙方式で、
投票をする際に当選して欲しい順番に順位付けをする。
誰かが50%投票率を超えるまで、一番下の順位の人の票を次の選択肢の投票合計に追加します。
※2位以下を書かなかった場合はその人の分の振り分ける得票が無くなるようです。
これは事実上、有権者が「当選させたくない候補」も意思表示できる仕組み、とも言えます。
「絶対に当選させたくない」と思った候補を最下位にしておけば、自分の投票はその候補に回ることはありません。
票が割り振られることにより死票が少なくなると言ったメリットがあるので、
“勝ち馬に投票する”というケースが減るように思えます。
質問者:なるほど、その投票方式は面白そうですね。
筆者:しかし、この選挙方式でも現実には1回目の集計で1位だった候補者が当選することが多いようです。
大きな難点としてはこの制度の難点は複数の候補者について知らなくてはいけないので、
1位の順位のみしか付けない投票ですと、結局現状とあまり変わらなくなってしまいます。
ただ、これにより日本の場合だとタレント議員や知名度があるというだけでは当選しにくくなります。
特に有名ではあるが悪名も同じぐらい轟いている人物などは当選しにくくなるでしょう。
質問者:その効果があるだけでも意義がある投票方法だと言えそうですね。
筆者:次に投票者の属性に応じて1票の重さを変える投票方式について考察していこうと思います。
〇余名投票―125歳から引いていく
筆者:まず最初に見ていくものとして余名投票という考え方があります。
これは、限界余命の「125歳」から自分の年齢を引いた数字が票数になります。
例えば、現在20歳の人は125から20を引いて105票を投票できることになり、60歳の人は65票を持つことになります。
質問者:分かりやすい制度ですね。ただ、お年寄りの方からは不満が出ないのでしょうか?
筆者:基本的にはその人が“若いときには多くの票を持っていた”ということになります。
そうすると、人生で総合計で1人3000〜4000票を持っていることになります。
だから、同じ年に亡くなることを前提にすると、長い目で見れば1人1人が持っている票の数は大体同じということになります。
健康で長生きをすることがより投票できることになります。
ただし、次の選挙で余命投票制度を導入した場合を考えてみると、現在の高齢者の方々は“若い時代には多くの票を持っていなかった”ので、そこは不平等になり、高齢者差別だということになります。
そのため、現在の投票制度から余命投票制度に移行をする際に問題は残ります。
質問者:確かにそれは問題になりそうですね……お金を配ってこれまでの票の分を“買う”というのも何か違うような気がしますし、次の投票でこれまでの票をまとめて投票できるようにするのも何か違うような気がします……。
〇年齢別選挙区―確実に自分の年代から代議士を出す
筆者:次に見ていこうと思うのは年齢別選挙区という考え方です。
年齢別選挙区では、まず最初に青年(18歳~35歳)・中年(36歳~59歳)・高齢(60歳以上)など、世代別に有権者をグループ化します。
それぞれの区分に有権者が何人いるかによって、その比率で議席数も配分されます。
例えば、定数が9の場合、議席数は青年区2人(有権者100)、中年区3人(有権者150)、老年区が4人(有権者200)となり、有権者は自分の世代の選挙区に投票することになります。
質問者:それだと結局のところ“高齢者優遇政策”というのが継続しませんか?
筆者:確かに現状の日本の人口構成を見ても、青年区と老年区の人口を比較すると、大体老年区のほうが1.6倍くらいになっているので、そのままいくと結局若者の声は通りにくいということになります。
しかし、衆議院では1選挙区で1人しか通らないとなると若者の代表となる代議士が選ばれる可能性が低い状況になります。
そのことから自分を代表する代議士が選ばれないとなると選挙に行く若者の数がそもそも減ってしまうという構造が発生するのです。
その状況からは、脱却する可能性があるんですね。
質問者:なるほど……確かに、同じ年代の人に対して投票する可能性が高そうですから、立候補する方もその年代層になる見込みがありますね。
筆者:そういう言うことです。
理想としては青年区で選出された議員が議会にいるそれにふさわしい大臣になることで直接政治に反映させることが望ましいです。
例えば、青年区から選出された代議士は少子化担当大臣になる。中年区から選出された代議士が経済産業大臣、老年区から選出された代議士は厚生労働大臣になると言った感じです。
質問者:確かにそれぞれの選挙区で選出された代議士がほぼ確実に大臣になれるのだとしたら、
更に意義が出そうですね。
筆者:そうですね。内閣を組閣する段階で与党でなくてもそれぞれの年齢別選挙区で最多の党が大臣になれるとしたらかなり意義が出そうです。
ただ、これは僕が前々から言っていることなんですが、
既得権益者が自ら権益を手放す制度をわざわざ作るとは思えないんですよね……。
まず第一段階として中選挙区以上の選挙ではないといけないのでかなりハードルは高そうです。
質問者:確かに、それ以上の権益を得るような状態でない限り今の権益を手放さないですよね……。
既得権益を手放し始めたらそれはそれで怖い状況になっていそうな気もします……。
〇ドメイン投票―全国民に投票権を付与する
筆者:次に、見ていくものとしてはドメイン投票と呼ばれる全国民に対して投票権を付与するというものです。
赤ちゃんからお年寄りまで、年齢に関わらず投票権を与えるということです。
質問者:えっ……。小さな子供まで投票権を持つのですか?
筆者:そうなります。ただし、実際に投票することができるのは親権を持つ者とします。
未成年の票は、親が代理で投票する。例えば、子どもが1人の場合は両親に0.5票ずつ、子供が2人の場合は両親に1票ずつ与えることになります。
親権者が1人で子供が2人の場合では親権者が2票プラスで持つことになります。
これにより、子育て世代が今よりも発言権を事実上増すことになり、
若者がお年寄りより数が少ないという絶望感が薄くなると言った可能性があります。
質問者:確かに、子育て世代が一番大変でこれからを担うのに層としては薄いですからね……。
筆者:問題としては1人が複数の票を持つ基準が小さな子供に依存しているという点ですね。
これまで子育てをして成年に達している場合は2票以上投票する機会がないということです。 これも「余命投票」に似たような状況が訪れているような感じもします。
質問者:なるほど、それぞれ課題があるんですね……。
筆者:さて、次は、“未来の選挙”と題しまして、
『誰も投票に行かなくても政治が決まる』というシステムについて考えていこうと思います。