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② スイスの直接民主制を伴った代表民主制

筆者:まずは現在、実際に行われているスイスの政治体制から見ていこうと思います。



質問者:スイスの政治体制と言うのは独特だという話を聞いたことがあるのですが、直接民主制度なんですか?



筆者:これは少し誤解があるのですが、『直接民主制を伴った代表民主制』と言うことができます。


 日本の場合は、憲法改正の時の国民投票と言うものがありますが法案ごとに国民の政治的意思を

問う場面がありません。


 スイスの場合においては、計200人が選出される国家代議員制度でありながら通常の法案だとしても国会で通過したものを国民投票で覆すことができると言うことです。



質問者:それはかなり興味深いですね。具体的にどう言う感じの制度になっているんですか?



筆者:主に国民投票ができる局面としては3つ存在します。

 

 一つ目はいわゆる「任意的レファレンダム」と言われるものです。


この制度は、連邦議会を通過した法律の可否を国民が最終的に判断する権利です。


 連邦議会で新しく採決された法律に反対する有権者は、連邦議会が同法律の承認を公表した後100日以内に5万人分(日本では約70万人分)の有効署名を集め、連邦内閣事務局に提出すると、連邦レベルの国民投票に持ち込めます。

 その署名が有効署名と認められると1年以内に国民投票が行われます。


 という制度です。


 しかし、1874年の制度導入後から現在までで該当法案は2459件に上る中、177件で国民投票成立に必要な数の署名が集められ、国民投票で否決されたのは78件だったということのようです。


 ※スイスの人口は日本の14~15分の1なので鍵括弧の数は大体日本の場合の数字になります



質問者:基本的には国会を通過したほとんどの法案は国民投票にかけられることなく信任されるんですね。



筆者:そうですね。多数派も国民審査を避けるための少数派の歩み寄りをやらざるを得ず、強行採決への抑止力にもつながることが利点として挙げられていると思います。


 やはり“国民が見ているぞ”と言うことを示すことが大事なのだと思いますね。


 次に強制的レファレンダムと言うものがありまして、これはスイスが憲法改正・国際組織の加盟をした際に必ず国民審査をすると言ったモノです。


 1848年の建国以来、強制的レファレンダムにより200件以上の案件が国民投票にかけられた。そのうち可決されたのは4分の3以上だったと言うことらしく、こちらも基本的には承認されると言うことですね。


 ※仮に一度締結した国際法がスイスのレファレンダムで否決された場合の取り扱いについてはその国際法の内容によるようです。



質問者:後は国民発議の憲法案があるのだと聞きましたが……。



筆者:イニシアティブ(国民発議)と呼ばれるものですね。


 18カ月以内に集められた10万人(日本では140万人)の署名により発議されます。

これは連邦の憲法改正を提案できるもので、議案に関わるすべての組織・団体などの意見を諮問プロセスでまとめなければならないとされています。


 過去の事例では、発議から国民投票まで最長7年かかっていたことがありました。

しかし、あまり長過ぎると国民が忘れてしまうため、最近では、最長3年半まで短縮されたという経緯があります。

 イニシアチブが可決されるためには、投票者の過半数および州の過半数の賛成票で改正される。


 というような制度です。



質問者:憲法が国民発議で改正されるだなんてちょっと考えられないですね……。



筆者:ただし、有効署名10万人以上が集まった案件でも200件提案して22件しか成立していないようです。

 つまり約9割はが否決されているようで、ムードに流されて憲法が改正されると言うことは無いようです。


 近年で一番大きかった改正では外国人労働者数の制限を求めた「大量移民反対イニシアチブ」が、2014年2月9日の国民投票で僅差で可決されたケースがあります。投票結果は、賛成50.3%、反対49.7%とかなり僅差だったようですがね。



質問者:移民に関しては各国で色々議論がありますからね……。


 ところで、そんなに国民投票ばかりをしていて飽きたりしないんですか?



筆者:そこは結構問題になりますよね。“投票疲れ”に繋がっていないかと懸念されます。

 

 スイスの国民投票は1848年に始まって以来、回数は620回を超し、世界記録となっているようです。


 国民投票だけで毎年2回以上のペースで行われていまして、国政選挙や地方選挙を含めると年5回や6回も投票を行っているようです。


 これは多過ぎるのではと思ってしまうとおもうのですが、過去20年の国民投票や国政選挙の平均投票率は約40~45%の水準を推移しているようです。



質問者:選挙の回数を考えると中々高いような気がしますけど、民主主義としてはどうなのでしょうか……? 

最低でも投票率55%ぐらいないと民主主義として機能していないと聞いたことがあるのですが……。



筆者:確かにそう思いますよね。ただ、スイスの各種アンケートで非常に自国政府や政治に対する信頼が厚いらしいのです。


 低投票率の背景にあるこうした事実が、「低投票率は問題ではない。選挙に来ないことは、現状への信任だ」とされているんですね。


 一方日本はそれに対してエデルマン・ジャパン株式会社(東京都港区、代表取締役:メイゲン・バーストウ) の世界28カ国、約33,000 人を対象に実施した信頼度調査「2021 エデルマン・トラストバロメーター」によると政府への信頼度は38%となっています。(28か国の中では真ん中の方。スイスは28か国の中に無かった)


 つまりスイスと日本は同じように投票率が低くとも事情は全く違うわけです。

日本の場合は政治へ信頼があるから投票率が低いのではなく、『投票に行ってもどうせ何も変わらない』という諦めというか絶望のようなものが支配しているからだと思います。



質問者:なるほど……国の状況によって全く異なるわけなんですね……。

 そうなると日本では直接民主制度を並列させた場合に、効果が期待できるのでしょうか?



筆者:日本では地方公共団体においてはスイスのような制度は存在しています。

 条例の制定・改廃       有権者の50分の1以上

議会の解散、議員・首長の解職 有権者の3分の1以上

の有権者が署名を集めることによって直接請求を行うことができます。


 内閣府のサイトで直接請求制度の運用上の課題に関する研究会(第1回)で提示された『直接請求制度の概要・これまでの主な改正内容等について』という資料によりますと、

平成11年4月~平成30年3月31日 直接請求の件数847件 210件が却下または署名の交付のみに終わったものということで、


20年間で全国で約1000件ほど署名が集まり、約850件ほどが条件を満たしたそうです。

 つまり年間50件ほど、47都道府県で年1回ぐらいのペースで署名の要件が合うぐらいの数が揃っていると言うことです。



質問者:なるほど。制度としてあれば中々活用されているわけなんですね。



筆者:まぁ、文化として根付いているスイスと比べちゃうと全然ですけどね(笑)

そして、その中で大きなものとして

市長の解職請求 成立26件 失敗4件(これは戦後78年での合計)

条例の制定改廃 議会において都道府県成功0件 失敗4件 市町村 成功71件 失敗279件 

(平成30年間での件数)


 とこんな感じになっています。



質問者:思ったよりかは全然活用されているんですね。いつ集めているのか分かりませんけど。



筆者:僕もいつ集めているのかよく分かりません(笑)。そんな中でこれだけ活用されているのは大きいですね。

 日本でもスイスのような国への直接請求の諸制度が成立すれば十分活用されると思います。



質問者:直接請求のデメリットみたいなことはあるのでしょうか?



筆者:例えば、議案が一般国民には理解できないほど専門的過ぎる場合には、

投票は真に国民の意見を代表するものではなくなる可能性が指摘されています。


 スイスでも問題となっていることとしては、政治的、社会的な変革の足を引っ張ってもいるとも言われています。

 折角国会を通過したはずの法案が廃止されてしまうケースもありますからね。

 

このことから民主制と効率の良さは、相容れないと言えますね。

政治の効率の良さや迅速さも望むなら、多くの場合、直接民主主義というのは難しいように思えます。


 ただ僕としては、メリットの方が大きいように思います。

 政党が選挙のためだけに美辞麗句を並べ立てたマニフェストだけでの政権が成立し、その後手のひらを返されたら、次の国政選挙までどうすることも出来ないという状況を直接請求により打開することができますからね。


 今の日本の政治への閉塞感を打破できない感じがあるのもこのためだと思います。


 野党が頼りなくとも国民の力で売国法案などを潰せる可能性があるなら打開が可能になりますからね。



質問者:他に課題はありますか?

 


筆者:制度の導入初期の場合において、ちゃんとした制度が整わないと1プロ市民や扇動家らのやりたい放題の介入を招き、それによって結果が大きく左右されてしまう恐れがあることですね。



質問者:確かに情報をしっかり精査できないと声の大きい人によって誤った判断をしてしまう可能性はありますね……。


 ところで現行の憲法では解釈次第で直接請求への対応できないのですか?



筆者:日本国憲法95条では

『一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。』


 とあります。


 ところが、その規定が適用されずに住民投票があまり意味が無かったケースもあります。

 内容そのものについては個人的な意見についてはここでは述べませんが、


 2019年2月には、沖縄県の住民投票条例に則り辺野古への米軍基地移転の是非を問う県民投票が実施され、反対は有効投票中7割を超えました。

 この住民投票の結果について、国は憲法95条に基づく投票ではなく、法的拘束力を有しないという見解を示しており、国に対する反映はなされなかった住民投票もありました。



質問者:なるほど現行憲法だとそう言う扱いになってしまうんですね。

 


筆者:そうですね。憲法改正しないとスイスのようには国に対する直接請求はできないと思います。


 正直なところ、9条もまぁそれなりには大事ですけど、

国に対する直接請求を改正してもっと国民の意思が伝わりやすくなってくれると政府に対する牽制力にもなりますのでかなり良いと思うんですけどね。

 

 しかし、このことについては憲法改正のことが議論に上がってくる際にサッパリ議論される気配がありませんね(笑)。



質問者:国会に対する直接請求については国会に対する抑止力があるかもしれないというお話ですが、まだまだハードルは高そうですね……。



筆者:そうですね。日本ではちょっと根付くのにはまだまだ時間がかかりそうだなという印象があります。


 間接民主主義はある政治学者が指摘しているように、「人類が多くの失敗の歴史の後にようやく悟り得た比較的弊害の少ない制度」とも言えます。


 そのために、今の政治体制において投票率を上げるためにどうしたら良いか、次の項目からは考えていこうと思います。

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