1話 目がさめたら
頭が痛いな。
・・・不意にそんなことを思った。
ガンガンと殴られているような痛みと、
締めつけられているような痛みを感じる。
それまでは気にならなかったはずなのに、
意識しだすと、耐え難い痛みが襲ってくる。
「やめて」と叫ぶけれど、声は出ない。
痛みは、なおも増していく。
「お願いもうやめて。」
「もう分かったから。」
「もういいから。」
誰に向かって叫んでいるか分からないまま、
でも明確な「誰か」に向かって、叫ぶ。
『・・・全てを忘れて、眠れ』
叫びに呼応するように、誰かの声が響いた。
聞き覚えのない声。
でも、深く、優しい声。
その声に抗う術が分からずに、私は操り人形のように目を閉じた。
頭の回線が壊れてしまったのかのように、ぷつりと痛みが途切れる。
続けざまに、強い眠気が襲ってきて、私は意識を手放した。
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「・・・・・・い、おい、いい加減、起きろよ。」
誰かが遠慮なく私の体を揺さぶっている。
うるさいな。いい気持ちで眠っているのに。と思いながら、
体を揺さぶる手を振り払おうとすると、はっと息を呑む音がした。
「おい!気づいてるんだろ!早く起きろ!」
慌てたような声と同時に、揺さぶる力が大きくなる。
・・・うっとうしい。寝かせてほしい。
諦めてされるがままに揺さぶられていると、
声の主は焦れたようにグイッと胸ぐらを掴んできた。
力強く引き寄せられ、さすがに驚きで眠気が遠のく。
「・・・ア、アラン様!」
周りには他にも誰かいたようで、私の胸ぐらを掴む無粋なやつをたしなめている。
が、時すでに遅く、私は諦めて目を開けることにした。
揺さぶってる段階で止めてくれれば、まだ眠っていられたのになぁと
思いながら目を開けると、目の前いっぱいに金髪碧眼の少年の顔が広がる。
・・・声からイメージしていたよりは若い少年だった。
自分で揺さぶり起こしたくせに、私が起きたことに驚いているのか、
ガラス玉のような澄んだ青色の瞳を丸くしている。
続けて、周囲の人が息を呑む声が聞こえた。
でも、目の前にいる少年の存在感が大きすぎて、
私は周りを見渡すことはせず、彼の顔を見つめた。
驚きに歪んでいるのに、整ったきれいな顔をしているな、と思った。
そして、それを意識してしまったら、距離の近さに慌ててしまって、思わず目をそらす。
「・・・カティア・・・だよな?」
そんな私に気づいてから気付かずか、
少年はどこか戸惑ったように私に問いかけてきた。
『カティア』
聞き覚えのない響きに、頭の中を疑問符が飛び交う。
カティアとは誰だろう。
でもとりあえずは否定しておかなくちゃ、と口を開く。
「私はカティアじゃないわ。私は・・・」
・・・続く言葉が見つからなかった。
頭の中が真っ白だ。
私はカティアじゃない。
そんな名前で呼ばれた記憶はない。
なら。それなら。
「・・・私は、誰?」