第1部・第3話 ~力をください!
お待たせしました、ようやくここで主人公が変身します!
「うわっ、ぎりぎりのところだよ!」
そう声をあげたのは、ちょうど汐たちが消えたところに駆けつけた二人のうちの一人、志保でした。
「遅かったか……早く助けないと!」
そう言うポーティに、トリアが顔を向けました。
「変身すれば、この結界に飛び込めるんだったな?」
「うん、そうだよ!」
そのポーティの答えを聞いたトリアは、今度は志保に顔を向けます。
そして二人は視線を合わせると、こくりとうなずきます。
「よし、行くぞ、志保!」
「了解!」
「コネクト・ザ・ワールド!」
トリアがそう言って、首のチョーカーにはめられた宝石に触れると、その宝石から光があふれだし、トリアを包んでいます。トリアのブレザーがはじけ飛んだかと思うと、その体が光に包まれます。
そして光は次々と、衣装のパーツへと変わっていき、トリアの姿はたちまちのうち、以前に異形と戦っていたときのような、騎士のような姿になりました。
そして志保も。
「変身!」
その言葉とともに、志保が持っていた三日月のブローチがまばゆい光を放ち、着ていたブレザーがはじけ飛びます。
そして、光の環が、志保の体を取り囲みます。
志保が目を開くと、光の環は次々と衣装のパーツとなって装着!
かくして志保も、魔法少女の姿に変身したのでした。
「よし、行くぞ!」
「はいな!」
そう言葉を交わすと、二人はまがまがしい色の中に飛び込んでいったのでした。
* * * * *
一方そのころ……。
「う、うーん……?」
気が付いた汐は、体を起こして周囲を見渡します。周囲は、先ほどと同じく、醜悪な色。
そして、ある一点を見て、汐は固まってしまいます。彼女の目に映ったのは……。
「凪!」
「汐ちゃん……!」
先ほどの悪魔のぬいぐるみのような存在、そして、親友を抱きかかえた背中に翼の生えた美女の姿でした。
「凪……!」
汐は凪を助けたい、ただその一心で凪の元に駆け寄ろうとしますが……。
「うききっ! この娘は渡さん!」
小悪魔が汐に突進し、その勢いで彼女は尻もちをついて転んでしまいました。
「そういえば、お前もおいしそうだな、食べさせてもらうぞー!」
そう言って、再び、汐に襲い掛かる小悪魔!
「きゃあーーー!!」
その時!
「無垢な乙女を食べようなんて、ギルティだよ!」
その声とともに、飛んでくる光の矢。
「ビギャアアアアーーー!!」
その矢は狙いあやまたず小悪魔に命中し、貫きました。
小悪魔は、もがき苦しみ、やがて光の粒となって霧散していくのでした。
女性は、憎々しげな表情で、矢の飛んできた先をにらみつけています。
「な、なに……?」
汐もそちらのほうを見ると、こちらに向けて駆けつけてくる影が二つ。
それは二人の少女、否、魔法少女の二人……トリアと志保でした。
「ケガはないか?」
「は、はい……。さっきの矢はあなたたちが?」
聞いてきたトリアに、汐はぼんやりとした、事情が呑み込めてない様子で答えました。
でも、かすかに聞こえてきた凪の苦しそうなうめき声を聴いて、一気に我に返ります。
「そうだ! お願いします。凪を……私の大切な友達を助けてください!」
「わかった、任せて!」
そういうと、志保は、うなずいたトリアとともに女性に向き直り、持っていた大きな弓を構えます。
一方の女性は三人を見据えると、苦虫をかみつぶしたような顔で言います。
「魔法少女が二人か……これをちょっときついわね。餌は手に入ったし、ここは退くとしましょう」
そういうと、女性の体から黒い光が放たれました。その光に目をふさぐ三人。
そして光の消えた後には、女性の姿も、あの醜悪な色もありませんでした。そして……凪の姿も。
* * * * *
「え、凪は? 凪! いたら返事して! 凪!」
命の危険がなくなったことに、安堵する汐ですが、そも安堵はすぐに、凪の姿が消えたという絶望と衝撃に塗りつぶされてしまいました。
絶望と衝撃と混乱で必死に叫ぶ汐。でも返事はありません。
その姿を見て、トリアと志保も悔しそうな顔をしています。
「くっ……取り逃がしたか……!」
そううめくトリア。
その一方、ポーティはあたりをくんくんとかぎまわり、トリアと志保に向き直ります。
「大丈夫。まだあいつの魔力が残ってるから後が追えるよ。あいつは、郊外の森に逃げたみたいだ」
その返事に、志保は嬉しそうな表情で、ポーティにしゃがみこみます。
「よーし、よくやったよ、ポーティ!」
ポーティをわしゃわしゃとなでる志保。気持ちよさそうに目を細めるポーティでしたが、すぐに表情を引き締めます。
「だけど、急がないと、あの娘が魔道少女にされちゃう。急がないと」
魔道少女、それは魔法少女のなれの果て。
敗れた魔法少女や、魔法少女の素質がある者が、魔族の魔力に染められて、闇の使徒となった姿です。
トリアも志保も、罪のない少女が魔道少女にされるのは阻止したいところなのでした。
「ならば急いで後を追わないとな……だが……」
トリアが目を向けたのは、常軌を逸した展開と、親友が連れ去らわれたことに、頭が混乱したのか、茫然としている汐の姿でした。
「そうだよね……。ここで別れても、他の魔族に襲われないとも限らないし……」
そうつぶやく志保。うなずいたポーティも、どうやら同意見みたいです。
「そうだね……。ん、あれ? これは……もしかしたら彼女も……」
そう言ってポーティは汐のほうにてくてくと歩いていきました。ポーティが何をしようとしているかに気付いた志保が、あわてて彼に警告します。
「ちょっと、ポーティ! 押し売りはダメだからね!」
「大丈夫! 無理じいはしないよ!」
そう志保に応えると、彼は汐を見上げて、口を開きました。
「ねぇ、汐と言ったっけ? あの魔族にさらわれた娘を助け出したい?」
ポーティにそう聞かれると、汐は表情を曇らせて、沈んだ声で返しました。
「うん、助け出したい……です。でも、私なんかじゃ、あんな化け物相手には……」
その彼女に、ポーティは、汐を元気づけるよう、明るい声で言いました。
「大丈夫。君にそのための力をあげるよ!」
「力……?」
ポーティが口を開けると、そこには船の形の髪飾りが現れました。彼はそれを汐に手渡します。
「これは……?」
「それは、キミの力となるもの。力がほしければ、その髪飾りを握って、心の中に浮かんだ言葉を言ってみてごらん。そうすれば、力が得られるはずさ」
汐はわけがわからず目を白黒させていましたが、やがて覚悟を決めると、その髪飾りを胸に持っていきました。そして。
「光よ、私に力をください!」
すると、髪飾りから光があふれだしました。
白く染められていく景色の中、汐はどこかから
「契約はなされたよ!」
という声が聞こえた気がしました。
その光の中、いつのまにか汐の服は消え去り、その体を光が包んでいました。
周囲に光の羽が舞い散ります。その光の羽は、次々と彼女の体にまとわりつき、衣装のパーツとなっていきます。
そして光がはじけ飛びます。
そこに立っていたのは、アニメに出てくる魔法少女もののような……トリアや志保と似たような姿となった汐でした。
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