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秘めた相談事

ちょっと期間が開きすぎましたけど、投稿です

「うーん、俺が勇者か。なんか実感わかないな」


一通りの説明を受けた直人が腕を組んで、唸る。ちなみに服は着てない。俺がぶん殴ることでタオル一枚を腰に巻いてはいるが、それだけだ。もう少し懲らしめてやろうか?


ちなみに今、俺たちは3人に与えられた個室の一つ――正確には直人に与えられた個室に集まっている。これからのことを相談するためだ。


「だよねえ。スキル言われても、使い方わからないし」


四つん這いになっている真理が首を傾げる。こいつもこいつで、俺が座るための椅子になっているらしい。ちなみに俺は、普通に地面に腰を下ろしている。こっちもこっちでなんとかして懲らしめたいが、ドMである真理の場合、物理攻撃は全てご褒美に変換されてしまう。かといって、放置しても悦ぶ。手に負えない相手である。だからいったん、処置を棚上げした。


「しかも帰れないだと。この世界で生きていくしかない」


俺はため息一つついて愚痴る。正直、これが一番ぐっと心に来る。地球には家族がいるのだ。きっと心配している。


「それは特に問題ないかな。和博が一緒にいるわけだし」


歯の浮く言葉を直人が俺に向けて笑顔で放つ。俺は無言で、用意しておいた手ごろなサイズの石を直人にぶん投げた。


「あぶなっ!?」


こいつに聞くのが間違いだった。そもそもこいつ、親が離婚していて父親しかいないのだ。その父親も忙しく、ほとんど家に帰らない。心配する人がいない状況だ。


「か、和博、なんかこっち来てから容赦なくない………?」


直人が冷や汗をかきながら俺に問うてくる。


「人々を救う勇者様が裸なんてみっともない姿を晒さないよう、きっちり教育するように頼まれてるんだよ。軽く話を聞いたところ、日本と比べたら容易に手を出せるみたいだし」


「和博!私、私にも!」


後ろでなんか声が聞こえたが、無視する。この世界は体罰を下しても、特に問題にならない。だから直人相手に遠慮なく調教という名の、体罰を与えることが出来る。このどうしようもない大馬鹿野郎を物理的に更生させることが出来るのだ。


出来れば真理も更生させたいが。こっちは手を出しにくい。何をしても悦んでしまうから。ドMというのはかなり質が悪い。


「教育って、それ仮にも勇者に対してやることか!?」


直人が怖れ慄いたように叫ぶ。それから何かに気付いたように、考え込む。


「まさか、俺たちは勇者と言われながら、実は戦争の道具として利用されようとしてるんじゃ!?そのための洗脳第一手として和博を利用しているんじゃ!?」


「その可能性は否定しきれないけど、少なくともお前のその露出狂を治そうとするのは間違っていない」


直人の言いたいことはわかる。俺も別に、話をしてきた王女様を信じようとは思っていない。まだその話を信じられる判断材料がない。この二人はおそらく、訓練を受けることになる。その間に、俺は情報収集に徹する予定だ。本当に何が正しいのかを、自分の力で読み解く。もしそれ自体が妨害されるのなら、その時点で見切りをつけた方がいい。


だが、それと直人の露出狂はまったくの無縁である。こっちは確実に矯正させる。出来れば真理も矯正させたいが、こっちは手の出し方がわからないので、現状保留だ。


「となるとまずは情報収集だよね。けど、私たちにそんな時間あるかな?明日から授業とか訓練とか受けるって聞いてるけど。それと、信用のおける人を探さないと。そもそも偽の情報掴まされたら意味ないし」


真理が首を傾げる。真理の言葉に俺は頷く。そういう意味じゃ情報収集は難航する。まずは今日会った王女様だが、こちらはまだ判断不能だ。裏がある気がするし、ない可能性もある。少なくとも直人の裸には困惑していた。こういった方面で揺さぶるのも一つの作戦だろう。


「まずは外に出て情報収集する必要があるな」


俺は顎に手を当てて考える。これが実行できる可能性は、まだ低い。そもそも重要人物に余計な情報を与えないようにしようとするはずだ。


「まず信用できるのはここにいる3人。これは絶対だよ」


直人が3本の指を立てる。それに俺は肩を竦めた。


「信用はするさ。信頼はしないが」


「ひどっ!?」


露出狂のホモが大きく仰け反る。こんな超要注意人物を信頼する人間がいるとは思えない。ちなみに真理も同じである。俺に付き従ってくれるだけ、マシかもしれないが。


「とりあえず今後の方針は、表向きは国の維新に従う。だけど、それを鵜呑みにしない。可能な限り現状の情報収集を行う。まずは期限として1週間を目安にしたいが、どうだ?」


「賛成。それといつまで待ったら座ってくれるの?」


俺のまとめに真理が頷く。直人も異論はないらしく、頷く。


「それじゃ、今日は解散だ。おら、二人とも出てけ!」


俺は一方的にそうまとめ、二人を追い出して部屋の鍵を閉めた。抗議の声と、大量のノックが鳴り響いたが、無視した。しばらくするとそれも鳴りやみ、ドアの外の気配が消える。自分の部屋に戻ったのだろう。それを確認してから、俺はベットの上に体を投げ出す。気絶していたためか、大量の情報をもたらされたためか、あまり眠くなかった。


コンコン


しばらくベットの上で悩んでいると、控えめなノックが響く。俺は嫌な顔をして、そちらを見る。直人か真理が返ってきたのだろう。さっきまでの乱暴なノックではないが、それもあいつらの作戦である。こちらの油断を誘うのだ。俺は無言で枕をむんずと掴み、振り上げた状態で鍵を解除、ドアを開ける。それから一切の躊躇なく、枕を振り下ろした。


「――!」


するとドアの向こうから息を吐く音と同時に、俺の視界が反転する。え、と思っている間に、強烈に地面に叩きつけられる――瞬間に再度引っ張られた。ぎりぎりで軟着陸し、音は立たなかった。


「――え?」


あまりにも一瞬の出来事に、俺は思考が停止する。直人も真理も、武術は素人だ。こんな綺麗な投げ技などできるはずもない。


「も、申し訳ありません!つい、とっさに!」


すぐに俺を投げた犯人――フィリーナ様が小声で謝ってくる。完全に予想外の人物である。


「お、私こそすいません!あの二人が来たのかと、つい」


フィリーナ様に解放され、俺もとっさに謝る。これは完全に非は俺にある。あの二人ならともかく、王女様を攻撃するなんて、論外だ。いくらなんでもこの展開はまずい。いきなり俺の異世界ライフ、詰んだ。


だがフィリーナ様もここに来たことは秘密にしたいのか、何も文句は言わず、俺を軽く押して中に入り、ドアを閉めてしまう。


「夜分遅くの訪問、失礼いたします」


それから優雅に一礼する。先ほど会ったのと同じドレスを着ている。


「私に何か用ですか?」


何事もなかったかのように振る舞うフィリーナ様に合わせ、俺も何事もなかったように佇まいを正す。すると何故か、フィリーナ様はくすくす笑い出す。


「無理して敬語使わなくて結構ですよ。少なくとも、見張りの目がない時は」


その言葉に、俺は眉を顰める。先ほど会った時と雰囲気が少し異なっている。張り詰めた空気がわずかに弛緩しているのだ。


「王女なんて結局のところ、肩書です。あ、言い忘れていたかもしれませんが、私はここ、ヴェルナリナ王国の第3王女です。王位継承権は第5位で、王位を継ぐことはまずないですね。私も継ぐ気はありません」


くすくすとフィリーナ様が笑う。俺はそれに対して、顔を顰める。あまりにも普通の少女すぎて。初めて会った時のような、凛とした空気でもなく、誤って攻撃してしまった時のような、武術を習っているとも思えない、普通の少女。


「俺に何の用?」


あえてぶっきらぼうな言葉で、俺はフィリーナ様にここに来た目的を尋ねる。これは一種の賭けだ。これで王女が切れるかどうか。下手したら命がけだが、そこまでの事はしない気がする。


「目的はいくつかあります。一つは単純に、見張りの目がない状況でお話をしてみたかったからです。本来ならマリ様の元に行かれるのかベストなのでしょうが、あの人もナオト様同様、癖が強そうでしたので」


否定できなかった。真理は真理で、かなり癖が強い。和博も同様である。消去法的に、俺になったわけだ。


「なんで見張りの目がない時なんだ?」


俺は話し方を変えず、ベットに腰を下ろす。フィリーナ様には備え付けの椅子を勧めた。椅子に腰を下ろし、フィリーナ様も語る。


「王女ですので、外聞を気にしなければなりません。その一環ですね。護衛がいるという状態なら、気にする必要があります」


「………なるほど」


意外と苦労しているようだった。


「一つは忠告です。カズヒロ様は聡明な方と存じますので、余計な忠告かもしれませんが、父や私の兄弟を信用しすぎないでください。無論、私も」


「………」


その言葉に、俺は言葉を失う。その内容は予め、真理と直人と決めていた内容だ。それをまさか、王女様自身の口から聞かされるとは。


「………事情を聞いても?」


「私たち人間側も一枚岩ではない、ということです。水面下では覇権争いを行っています」


やはり単純ではない、ということか。もっとも、この言葉自体がブラフである可能性も否定しきれない。フィリーナ様自身も、かなり秘密が多そうだ。


「よく見極めてください。皆様にとって、何が本当に大切なのか、真実なのかを。そのためのお手伝いなら協力を惜しみません」


「………たとえ、それがこの国を裏切る結果になろうとも、か?」


フィリーナ様の言葉に、俺は思わずそう返してしまう。正直、この言葉は危険すぎた。しかも、王女様に向かって放つ言葉ではない。首を刎ねられても文句は言えなかった。


「はい。たとえ、そのような結果になっても、です」


「………」


俺は無言で、フィリーナ様を要警戒の脳内チェックリストに加えた。目的はわからないが、フィリーナ様は注意する必要がある。わざわざ自国に不利なことを告げてきたのだ。


「図書館の本を読むことは構わないか?」


「もちろんです」


その上で、俺は協力をお願いする。おそらくフィリーナ様は、俺の信用を得るべく、このようなことを言ってきているのだ。俺の考えに沿う様に、と。実際、俺の考えに沿った内容を口にしている。だが、それだとあまりにも、フィリーナ様に利がなさすぎる。そんなもの、とても信用に値しない。だが、その状況を利用することは出来る。


「それと皆様の事が知りたいです。詳細は結構ですから、皆様が過ごしていた世界について」


それから好奇心に目を輝かせ、フィリーナ様が聞いてきた。思わず俺は苦笑し、頭の中で、何を伝えていいのかを考える。あまり科学技術に触れない内容を選び、それを口にした。



――

―――

――――




この時、俺はとんでもないミスをしていた。フィリーナ様が話をしにきたのは本当だ。だが、その話の中で続けなければならない話があったのだ。俺はそれを見落としてしまった。

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