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転移先が魔王でも、世界救うのが俺流です。  作者: じゃけのそん
第一章 序章
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6話 またまた死んで

 最初の攻撃がされてから数分。

 俺たちは未だ作戦室で、今後の行動を練っていた。


「今や勇者たちが城内に侵入してきてもおかしくない。急ぎ私たちで指揮をとらねば」

「しかしアイーシャよ、状況がわからない。たとえ我らの力が奴らより上だとしても、相手の出方がわからなければ不利になるばかりだ」

「確かにそうね。まずは情報を集めなければ」


 何やらアイーシャとガイオンが、知恵を振り絞って作戦を考えている。

 ここで立派な魔王なら助言の一つや二つしてやるのが普通なんだろうが……。


 あいにく俺はそんな器用なことをできる魔王ではない。

 ごめんね役立たずで。


「レクシーア、交戦している兵たちに現在の状況を確認してきてもらえないか?」

「はい、かしこまりましたアイーシャ様」


 アイーシャに指示を受けたレクシーアは、急ぎ足で作業室を後にした。

 これはこのまま彼女たちに指揮を任せておけば何とかなりそうだ。


「それとレムリー」

「何でありますか?」

「ヴィネを呼んできてもらえない? 現状がつかめない今、サトゥン様のお近くには少しでも多い戦力が必要だわ」

「わかったであります!」

「よろしく頼む」


 そうしてレムリーも作業室を後にした。

 どうやら俺の周りに強い御仁をたくさん用意してくれるらしい。

 それは素直にありがたいことだ。


「それではガイオン、私たちはここに残ってサトゥン様の護衛を努めよう」

「ああ、おそらく今はサヴィルが奴らを抑えてくれているだろう。状況がわかるまではサトゥン様を危険にさらすことはできない」


 先ほどからの話を聞く限り、やはりこの人たちはこういった状況に慣れているらしい。

 おそらく過去にも、幾度となく城を攻められてきたのだろう。


 これはみんなに任せておくのが一番無難だ。

 なんちゃって魔王は黙って護られていよう。


「そろそろレクシーアが戻ってくる頃だと思うが……」

「アイーシャ様」


 アイーシャがそう呟いた直後、現在の状況を掴んできたであろうレクシーアが作業室に戻ってきた。


「ただいま戻ってまいりました」

「それで、現在の状況は?」

「はい、現在は魔王城北側にて、サヴィル様率いる魔王軍と多数の勇者部隊が交戦中です。現在交戦している勇者部隊以外に敵の姿は確認できず、おそらく正面から魔王城を攻略する作戦のようです」

「なるほど、それで戦況は」

「少し劣勢のようです。今は何とか持ちこたえられていますが、この先どうなるかはわかりかねます」

「んんー」


 レクシーアからの話を聞き、アイーシャは難しい顔で喉を鳴らした。


 まあそれも仕方ないことだ。

 どうやら思った以上に勇者軍の攻撃が手厚いらしく、俺たち魔族側が不利らしい。


「押されているからといって、これ以上の戦力を最前線に回すわけにはいかないし……」


 そりゃ悩むよね。

 あまりにも戦力送り込んだら、今度は城を守る人たちがいなくなるもんね。


「んんー……」


 しばらく考え込んでいる様子のアイーシャ。

 魔族でもこんなに悩むことがあるんだな。


「んんー……はっ……」


 おっ、何か思いついたのかな?

 顔を上げて俺の方に視線を向けてきた。


「サトゥン様」

「何か思いついたのか?」

「いえ、そうではないのですが」

「ん?」

「もしよろしければ、ぜひサトゥン様のご意見を頂戴したく存じまして」

「……ふぁ?」


 何を言いだしたかと思えば。

 こんな大事な状況でなんちゃって魔王の俺に指示を仰ぐのか?

 さすがにそれはやばいにもほどがあると思う。


「い、いやでも……やっぱり俺なんかの意見よりもアイーシャの意見の方が……」

「とんでもございません。私はぜひ、サトゥン様の素晴らしきご意見を聞かせていただきたく存じます」

「いや……でも……」


 まさかの余裕かましてた俺に、全てがぶん投げられてきた。


 そうですよね。

 魔王なのに余裕かまして護ってもらおうなんて思ってたのが悪いんですよね。

 反省しますからどうかこの僕を護ってください。


「サトゥン様ぜひ」

「……………………」


 だめだ。

 アイーシャだけじゃなくガイオンやレクシーアまでもが、俺の方に耳を傾けている。

 ここまで頼られちゃ、魔王らしくビシッと素晴らしい案を出さずにはいられない。

 ほんと勘弁してほしい。


「わ、わかった……それじゃ……」

「ありがとうございます」


 確か今の状況は北側で交戦中だったな。

 少し俺たちが押され気味で、増援を送り込みたいところだが、そうしてしまうと城内を守る戦力が手薄になってしまう。


 しかしだ。

 そもそも最前線が敵に落とされれば、城内を守るもクソもなくなってしまうのではないか?

 今起きている戦いをこちらの勝ちで収めれば、それ以上敵に進軍されることはないんじゃないか?

 そうなってくると俺の中の作戦は一つしかない。


「今ある戦力を全て最前線にぶつけよう」

「全て……ですか?」

「ああ、城外で起こっている今の戦いさえ抑えてしまえば、それ以上敵に進軍されることはないだろう」

「なるほど、確かに」

「今すぐ城内に残っている戦力を最前線に回せ。俺を護る戦力は最小限でいい」

「かしこまりました、サトゥン様」


 おおー。

 なんか割と様になった意見を言えたんじゃないか?

 意外とポイントも抑えているし、俺にしちゃなかなかのものだ。

 これで戦況がいい方に転がれば文句はない。


「それではガイオン、レクシーア。すまないがサヴィルの援護に加わってくれるか。サトゥン様は私がお護りする」

「了解した」

「承知いたしました」


 そうして2人はその場を後にし、作業室に残ったのは俺とアイーシャだけとなった。

 なんだかこの人と2人きりってちょっと怖いけど、今はそんなこと考えてる暇はないか。


「サトゥン様、私たちは3階の王座に移動いたしましょう」

「あ、ああ、わかった」


 アイーシャに言われるがまま、俺も3階にある初期部屋へと移動した。

 部屋に移動する途中も、部屋に着いてからも、勇者らしき姿はどこにも確認できなかったので、どうやら前線で戦ってくれている人たちがうまくやっているらしい。

 これは俺の作戦勝ちが濃厚になってきた。


「だぁ……やっぱこの椅子最高だぁ」


 俺は部屋に着くなり、虜になっている椅子へと腰掛けた。

 その座り心地はやはり一等品で、もうこれなしでは生きていけないくらいの中毒性がある。

 みんなが必死に戦ってる中、1人だけ椅子でくつろいでいるのは申し訳ない話だが、この椅子が魅力的すぎるのが悪い。


「サトゥン様、私は城内の見回りに行ってまいります」

「おう、よろしく頼んだぞアイーシャ」

「お任せください」


 そうしてアイーシャは、部屋の外の見回りへと向かった。

 初期部屋に1人残された俺だが、今の様子だと敵が城の中に入ってくることもないだろうし、おそらく死ぬことはないだろう。

 もうあんな思いするのはこりごりだ。


「……ちょっと暇だな」


 今どういう状況なのだろう。

 もしかしたらすでに決着がついているんじゃないか?


 あれだけ前線に戦力を送れば、間違いなく俺たちが戦いを優位に進められているはずだ。

 これにりて城を攻めるのをやめてくれれば助かるんだが。


「はぁ……」


 俺は退屈から深いため息をついた。

 その時だった。


「見つけたぞ! 魔王サトゥン!」


 あれ。

 なんだか聞き覚えのある声が聞こえた気がするんだが。


「今日という今日は絶対に貴様を倒す! 魔王サトゥン!」


 やっぱりだ。

 明らかに俺を呼んでいる声が聞こえてくる。


「みんなこれはチャンスだ! 絶対に仕留めるぞ!」


 みんな?

 みんなということは、この声の主の他にも誰かいるってことか。


 しかしおかしい。

 声のする方を見渡してみても、誰の姿も確認できない。

 今はアイーシャたちが城を守ってくれてるだろうから、勇者な訳がないし……。


「あのー、誰かいるんですかー?」

「うるさい! 貴様は黙って首を差し出せ! 行くぞみんな!」

「「おー!」」


 おっとっと。

 今複数の「おー!」が聞こえてきたぞ。


 これはなんだか嫌な予感がする。

 この世界に来たばかりの時に味わった、クソみたいな無限ループの匂いがする。

 これはまさか。そのまさかなのか?


「覚悟!」

「……なっ!」


 心底びっくりした。

 突然何もないところから、数人の武装した女性が現れたんだから。


 しかもその先頭の人。

 彼女は紛れもなく先ほど俺を斬り殺しに来てた勇者だ。


 これはまずい……ってかほぼほぼ回避するのは無理だ。

 全員が一斉に俺に向かって剣を振り下ろして来ている。


 そうとなればこの先の展開は、間違いなくアレだろう。


「うっ……」


 はぁぁ……。

 もうこれで何度目だろうか。

 俺の視界が真っ暗になるのは。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

次回で序章は終わりになり、本編へと入っていきます!

引き続き読んでいただけたら幸いです!

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