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転移先が魔王でも、世界救うのが俺流です。  作者: じゃけのそん
第一章 序章
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4話 城内巡り

「お待たせいたしましたサトゥン様」

「アイーシャ、片付けあり……」


 食事を終えて数分後。

 片付けのために部屋を出ていたアイーシャが、魔王城案内のために俺の元へと戻ってきたのだが……。


「……いやあの……その服何……?」

「勝負服でございます」


 なぜかアイーシャは、先ほどまで着ていた服と違う服に着替えをしていた。

 しかもめちゃくちゃフリフリしていて、どっからどう見ても普通に可愛い女の子だ。


 先ほどまでの服は、闇の力が宿っていそうな、黒くて魔族っぽいローブだったのだが、ここまで一気にイメチェンされると、俺もどう反応していいのかわからない。


「いやあの……何……?」

「勝負服でございます」

「うぅ……ま、まあ、すごく似合ってるよ……」

「ありがとうございます……くふっ」


 俺が褒めてあげると、アイーシャは当然のごとく不吉な笑みを浮かべる。

 もしこれがギャルゲーだったら、すでにデレ度がカンストしているまであるよ本当。

 

「う、うん……えーっと……それじゃアイーシャ、早速案内してもらおうかな」

「はい、かしこまりました」


 そうして俺はずっと座りっぱなしだった椅子から立ち上がった……のだが。

 なぜか思うように足が動かない。


「おっとっと……」

「サトゥン様!」


 おそらくこれはあれだ。

 映画館で映画を観終わった後のあの感覚だ。

 何時間も良い椅子に座りすぎて足がガクガクになってしまっている。


 俺はこれのせいで、しょっちゅう映画館の階段でつまずいた経験がある。

 あるあるだよね、これ。


「ふぅ……危ねぇ」


 魔王になってまで段差でずっこけそうになったが、なんとかもちこたえることができた。

 これこそが今までの俺と、魔王になった俺の違いだ。


「大丈夫でしょうか」

「もちろんだとも」


 俺はあくまでクールを装いつつ、アイーシャの隣に歩み寄った。


「それじゃよろしく頼むぞアイーシャ」

「はい、サトゥン様」


 俺が隣に並んだ瞬間、明らかに彼女の身体がピクリと動いたのがわかった。

 服もそうだが、この人は今の状況をデートか何かと勘違いしているのだろうか。

 そもそも城を見て回るだけで勝負服ってどういうこと?


 色々思うところはあったが、俺は何も口にしなかった。

 何にせよ、この機会にしっかりと魔王城のことを理解しておかないといけない。


 そうして俺はこの世界に来てやっと、初期部屋から抜け出すことに成功した。

 とは言っても、今まであの椅子の座り心地が良すぎて離れられなかっただけなんだけどね。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 初期部屋を後にしてまず案内されたのは、魔王城の1階にある凄く開けた大ホールだった。

 そこはたくさんのテーブルや椅子が並べられており、俗に言うパーティー会場のような成り立ちだ。


「ここは魔王城一の大部屋で、主に催し物などで使われる機会が多い部屋でございます」

「なるほど、魔族でもそういったことをする機会があるのか」


 確かにこれだけ広ければ、盛大にパーティーなり何なりできるだろう。

 しかし、魔族がそういった類のことをするとは少し驚きだ。


「あちらにいますのがこの魔王城の幹部を務めている者でございます」

「魔王城の幹部?」


 何やらこの魔王城には幹部らしき人物がいるらしい。

 アイーシャが指し示した先には、確かに魔族っぽいオーラを放っている男が立っていた。


 その服装はまさに紳士と呼ぶにふさわしいもので、西洋風の紳士服に白い手袋、頭には堀の深いハット、手には黒いステッキのようなものも持っている。

 何だかちょっとかっこいいなあの人。


「サヴィル、こちらへ参れ」


 アイーシャが名前を呼ぶと、立っていた紳士風の男が振り返り、俺たちの元へと歩み寄ってくる。

 振り返ってわかったが、顔もかなりかっこいい人だ。

 おそらく魔族なんだろうけど。


「これはこれはサトゥン様、一体どのようなご用件で?」

「サトゥン様は眷属である私たちのことを気にかけ、わざわざ足を運んでくださったのだ」

「なんと……そのようなお心遣い、誠に嬉しい限りでございます」


 すると男は、俺の前にひざまずいて見せた。

 やはりすごいんだな魔王って。


「ああ、いや……それで、この人は?」

「はい、こちらはサヴィル。先ほども申しました通り、この魔王城を守護する幹部の1人でございます」

わたくしが責任を持って守護させていただいております」

「そ、そうか……それはまっこと大義であるっ」

「ありがたきお言葉」


 なるほど、この人が魔王城を守ってくれている幹部。

 しかし先ほどアイーシャは、『魔王城を守護する幹部の1人』と言ってたから、他にもこの城を守ってくれている人はいるのだろうか。


「なあアイーシャ」

「はい」

「サヴィル以外にもこの城を守る幹部はいるのか?」

「はい、現在幹部に位置づけされている者は、サヴィルの他に3名ほどおります」


 3人もいるのか。

 ならせっかくの機会だから、今日のうちのその人たちの顔と名前を覚えておくことにしよう。

 そのついでに城内を案内してもらえばいい。


「もしよかったらその人たちにも会わせてくれないか?」

「かしこまりました」

「よしっ、ということでサヴィル。邪魔をしてすまなかった」

「とんでもございません。またいつでもお立ち寄りください」

「うむ、それでは失礼するっ」


 おおー、何だか魔王っぽい。

 だんだん俺も魔王の話し方というものがわかってきた気がする。


 ちょっと威厳のありそうな感じで、イケボを意識して低めに声を発する。

 そうすれば何となくだが、魔王っぽく聞こえる気がしないこともない。


 まあそもそも俺はそんなにイケボでもなければ、声が低くもないんですけどね、ははっ。


「サトゥン様、どうかされましたか」

「ああいや……」


 もしかして俺今、顔に何か出てたか。

 つい気をぬくと表情が緩んでしまうのは俺の悪い癖だ。

 魔王であるという自覚を忘れないようにしないと。


「サトゥン様、到着致しました」

「うむ」


 そんなことをしている間に、場所は1階から2階に移動し、俺は大きい扉の部屋の前に案内された。

 この部屋に、2人目の幹部がいるのだろうか。


「アイーシャ、この部屋に2人目の幹部が?」

「はい……そうでございます……」

「ん? アイーシャ?」

「…………」


 おっと、何やらアイーシャの様子がおかしいようだ。

 無表情ながらも顔の上半分には若干の影がかかり、かなり激しい歯ぎしりまでし始めた。

 これは何だかすごく嫌な予感がする。


「ア、アイーシャさん……?」

「……今中の者をお呼びいたしますので少々お待ちください」

「は、はい……」


 するとアイーシャは、ドアについているノックを鳴らした。

 コンコンという音が響いた数秒後、部屋の中からは「どちら様でしょうか?」と女性らしき声が聞こえてきた。


「私です」

「あらあら、アイーシャでしたか。今開けますので少々お待ちになって」


 そう言われしばらく待っていた俺たちだが、その間アイーシャの顔つきがどんどん険しくなっていくし、何だか空気が重たく感じる。

 本当に勘弁してほしい。


「お待たせしました……あらっ? サトゥン様っ!」


 部屋の中から現れた女性は、気品のある美しい赤いドレスに身を包む美少女だった。

 髪は金髪で目鼻立ちは整っており、背はそれほど高くない印象だ。

 こんな美少女が本当に魔族なのだろうか。


「サトゥン様、どうしてわたくしのお部屋に?」

「サトゥン様は私たちのために気を使ってくださっただけのこと。別にあなただけのためにここへ来たわけではない」

「あらあらー、そうでしたかー。ですがサトゥン様がこうして私の部屋に足を運んでくださったのは紛れもない事実。ですわよね? サトゥン様っ」

「ああ……うん」


 するとその美少女はいやらしい顔を浮かべながら、俺との距離をどんどん詰めてくる。

 どエロく突き出された胸元は、アイーシャに引きを取らないくらい立派なもので、スリスリと谷間をこすり合わせる様子がかなり色っぽい。


 またまた自己主張の強そうな美少女キャラが出てきやがった。


「……貴様、サトゥン様から離れろ」

「えぇー? 別にいいじゃないのアイーシャ。サトゥン様だってたまにはこういった刺激を必要としているのよ。そうですわよねサトゥン様っ」

「いやあの……」


 マジでグイグイくるなこの人。

 せっかくのアイーシャの美しい顔も、険しすぎて悪魔みたいになってるし。

 これはこの先が心配だ本当に。


「いい加減にしなさいヴィネ……あまり調子にのると痛い目みるわよ……」

「あらあら、アイーシャは恐ろしいですわぁー」

「グルルルルルル……」


 どうやらこの2人はあまり仲が良くないらしい。

 ただ面と向かって話をしているだけなのに、気づけば睨み合いに発展している。


 しかもアイーシャの威嚇の仕方。

 あなたは猛犬ですか?


「……サトゥン様、こちらの者が魔王城幹部の1人、ヴィネでございます」

「わざわざ足を運んでくださりありがとうございますサトゥン様」


 そう言うとヴィネは俺に向かって上品にお辞儀した。

 普通にしていればただ可愛らしい美少女なのだけれど……。


 良く考えてみれば、純粋に可愛い女の子なんて存在するはずがない。


「ヴィネ、これからも幹部としてこの魔王城をよろしく頼むぞ」

「もちろんでございます。私、全力で務めさせていただきます」

「うむ、それではそろそろ次に行くとしよう。アイーシャ頼む」

「かしこまりましたサトゥン様」


 よし、とにかくいち早くこの場を離れよう。

 今の時間で学んだことは、アイーシャとヴィネを絶対にくっつけてはならないということだ。

 おそらく今後も今みたいな修羅場になることもあるだろうが、その時にはそっとその場を離れることにしよう。


「邪魔をしたなヴィネ」

「とんでもございません。またいつでもいらっしゃってください。今度はお1人で……」

「グルルルルルル……」


 別れ際まで睨み合うのはやめてほしい。

 アイーシャが俺にデレてくれている裏には必ず何かあると思っていたが、こんなお決まり展開が待っていたとは。

 しかも想像していたよりもめんどくさそうだし。


 これは今後この2人には十分に気をつけなければ。


 ということで2人目の幹部、ヴィネとの顔合わせも終え、俺が会っていないのは残り2人となった。


 これから会う人はできるだけ普通の人であってほしい。

 まあ、魔族に普通の人なんていないんだろうけど。

 せめて最初に会ったサヴィルくらいまともそうな人だったら助かる。

 そしてできれば男の人で。

 

 俺は様々な考えを巡らせながらも、アイーシャの隣を平然とした態度で歩く。

 ドキドキハラハラな魔王城案内は、まだまだ終わらない。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

今回の話で序章は中盤になりました。ここから徐々に本編に入っていきます。

次回も読んでいただけたら幸いです!

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