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岡部涼音 朗読シリーズ 涼音色~言の葉 音の葉~

冬の朝

作者: 風音沙矢

冬の朝、壊れた目覚まし時計の音で目が覚めた。

乾いて悲しい音がする。

君がおいていった目覚まし時計。

ずっと捨てられずに、

寝室のサイドテーブルに置いたままになっていた。

「まだ、なるんだね。」

そう言いながら、目覚まし時計を手に取ってベルを止めた。


「ありふれた恋だと小説にもならないわね。」

君はそう言って、この部屋を出ていった。

「あ・り・ふ・れ・た・恋って、なんだよ」

僕にとっては、世界で一つしかない恋だったのに。

あれから、1年たったけど。僕の歯車は狂ったままだ。

毎日、仕事には行っているよ。

同僚とだって、笑って話しているよ。

おふくろにだって、たまに電話してる。

まじめな青年やってます。

やってるけど、モノクロの世界なんだよ。


冬は、いやだね。

さっき着けたストーブの前に居ても、

凍えた体はなかなか温まらない。

ましてや、凍ってしまった心は、融けやしない。

もともと好きではなかった季節だけど、

君が寒いといってベッドにもぐりこんでくるから、

まんざらでもなかった。

少し冷えた君の体をくるむように抱きしめて、キスをする。

あー、あのぬくもりが恋しい。

君がおいていった目覚まし時計が、

鳴らなければ思い出さなかったのに。


鬱々と、桜の花も、夏の太陽も、

お気に入りの銀杏の並木道が、黄金色に輝く季節も、

心弾ませることなく一年が過ぎてしまった。

僕が、こんな失恋も肥しだとうそぶいてしまえば良いのだが、

生身の人間には、きついだけだ。

君が知ったら、女々しいと笑うだろうな。

でも、良いよ。笑ってくれ。

もう少しの間、傷心のままでいいよ。


そんなことを考えていたら、目覚まし時計がまた鳴った。

乾いて悲しい音。

君がおいていった目覚まし時計。

手に取ってベルを止めた。

「もう、鳴るなよ」


最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。

よろしければ、「冬の朝」の朗読をお聞きいただけませんか?

涼音色 ~言ノ葉 音ノ葉~ 第2回 冬の朝 と検索してください。

声優 岡部涼音が朗読しています。

よろしくお願いします。


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