5、スポンサーは居酒屋『旅立ち』
問題はスポンサーであった。社長はコンサルタントをしている居酒屋のチェーン店『旅立ち』の会長である山下静夫に相談した。旅立ちは社長に以前助けられたことがあるのでスポンサーになることになった。
旅立ちは新宿に1号店を開店して以来売り上げも店舗数も順調に伸びていた。旅立ちのメニューの特長は『ご当地コース』だ。これは全国を北海道、東北、関東、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄の11地方に分類し、それぞれの地方の特産品を主にした2000円、3000円、4000円のコースを作った。
例えば、北海道コースは北海道産のカニやホタテなどの魚介類、じゃがいもやとうもろこしなどの農産物を食材にした料理だ。期間限定で1つの県だけのコースも出していた。これが大当たりをした。
地方から都会にやってきた若者にとっては自分の出身地の料理が手頃な値段で食べられるので人気があった。
創業から経営は順調だったが、ご当地コースは他の居酒屋やファミリーレストランまでもがまねをして始めたので、3年後から売り上げは減少し店舗数は伸び悩み閉店する店も出てきた。その頃社長が旅立ちのコンサルタントを始めた。
社長が提案したのは『食べつくしコース』だ。居酒屋に限らずレストランのメニューはたくさんある。全部食べたいと思っても大食い選手権のチャンピオンでもなければ全部食べられるものではない。
旅立ちのメニューは全部で50種類ある。全部のメニューを少しづつ盛られた皿が出てくるのだ。1人の注文では対応できないので定員30人で1組にし1人3000円でイベンタリストのホームページで募集するしくみだ。
日時を限定した『食べつくしコース』の案内を見た人で参加したい人は前日までに申し込むのだが、定員が一杯になり次第締め切る。
この企画は旅立ちのような居酒屋だけではなくフランス料理店、イタリア料理店、鮨店、ラーメン屋など他のレストランとも協定して行っている。これが評判になり、旅立ちの経営は上向いていった。
2月4日の第1回の企画会議には、山下会長も企画部長の本山茂と秘書の佐々木裕美を伴って出席した。社長はドクターシェフにも出席を求めたが、表の場に出たくないとのことで、パソコン電話で参加することになった。
「山下会長、お忙しいところわざわざお越し頂きありがとうございます。今日の企画会議には私たちの他にパソコン電話で参加してアドバイスを頂く人がいるんですが」社長がパソコンをテーブルの上にセットした。
「誰が参加するんだね」山下会長が心配そうに聞いた。
「知り合いの田中医師で、ドクターシェフと言われているんです。この日は忙しいのでパソコン電話でアドバイスをしてもらうことになりました」ドクターシェフの本名は社長も知らないので田中という偽名を使うことを事前にドクターシェフと打ち合わせをしていた。
「では会議を始めましょう。ドクターシェフ聞こえますか」社長が問いかけた。
「よく聞こえますよ」ドクターシェフの声がパソコンのスピーカーから流れた。
「声だけで画面は映らないのかね」山下会長は疑問に思った。
「カメラが故障していて使えないものですから」本当はカメラはあるのだが、こうせざるを得ない社長は言い訳をした。
「それは残念だな。私も歳だし、病院に行くのが嫌いだから一度お会いしたいですな」
「いつかお会いできれば幸いです」会えることはないだろうがドクターシェフは答えた。
「着物クイーンとかメガネクイーンのようなコンテストであれば応募者が多いでしょうが、ノーメイククイーンとなると応募者が少ないんじゃないでしょうか」募集が困難になるのではないかと栄子が心配そうに言った。
「じゃあ、応募者が少しでも多くなるようにノーメイククイーンに賞金1000万円、準ノーメイククイーンに500万円を提供しよう」山下会長は決断し、宣伝にも協力することになった。
「ありがとうございます」社長がお礼を言った。