20、インベーダー細菌
しかし、病人は一向に減らない。平本は今まで自分がしてきた治療は本当に患者さんのためになっていたのだろうか?自己満足ではなかったのだろうか?病気の根本を研究し直したい、と思い、院長の反対を振りきってセンチネル病院に辞表を提出し、母校の湘南大学医学部の病理学研究室に入る。
そこで恐るべき病原菌を発見してしまった。それを学会で発表しようとするが、大学の圧力により発表を止められてしまう。
この病原菌は、抗生物質が一切効かないスーパー細菌が突然変異したもので、抗生物質はもちろん、農薬、食品添加物、殺虫剤、合成洗剤など、あらゆる化学物質を栄養源として繁殖するインベーダー細菌である。
この恐怖の細菌が日本中、いや世界中に蔓延し、空気感染するのは時間の問題となっていることを平本はつきとめた。このことが世間に知られると、医療界や産業界はパニックとなり、行政もこれまでのメーカーのための農薬や添加物の安全基準などなんの役にも立たなくなる。
平本は製薬メーカーからも追われるようになった。平本はこのインベーダー細菌の遺伝子配列を全て解析していた。遺伝子配列が分かればインベーダー細菌を殺菌する特効薬を作ることができる。しかし、一時的にインベーダー細菌を殺菌できたとしてもその特効薬をも栄養にしてしまう超インベーダー細菌に突然変異してしまうことは火を見るより明らかだった。
製薬メーカーも近い将来インベーダー細菌が蔓延して社会がパニックになる可能性があることは予想していた。その時特効薬があれば巨万の富を稼ぐことができる。たとえその後超インベーダー細菌が出現しようが儲かりさえすればよいとしか考えていない製薬メーカーは、必死で平本を探していた。
大学病院にも自分の居場所をなくしてしまったばかりか、危険分子として医学界や官僚からも追われる身となってしまった平本。病気の原因の多くは、衣食住の生活環境にあることを研究でつきつめた平本は、医師としての自分の意思を貫くため、『ドクターシェフ』として、本当に必要な治療を実践するため、まずは安全な食材を求めるために全国を放浪する旅に出た。
旅から戻って2000年1月に『おためし屋』を始めた。イベンタリストの4人が最初の客になった。