第85話 隊長のお願いと砂糖の入ってない珈琲の味
ある日の日曜日。俺は少し遅い朝ごはんを済ませた後、隊長執務室へ向かっていた。今、若干お腹が痛い。やはり朝ごはんに大盛り炒飯定食を食べたからだろうか――。今日は農場も休み。そして、農場幹部スタッフの町衣紋さんも専門学校の同窓会に出向いてていない。そんな中での隊長執行権限行使による隊長執務室出頭命令。はて、なんの用事だろうか。
――トントントントントントン……。
「ユキオスか。ドアのノックは三回までにしてくれ。別に遠慮はいらん。早く入れ」
「はい――」
隊長の声に促されながら俺は室内へと入った。
***
「ユキオスよ先日は本当にご苦労であった。珈琲と紅茶どっちがいいかな?」
「俺は珈琲しか飲みません」
「ふぅ――。君は本当に珈琲が好きなんだな」
「隊長に言われたくはありません」
「君も言うようになったな。俺は嬉しいよ。まるで砂糖の入ってない珈琲を二杯おかわりしたような気分だ。そうして人は考え、人は前へ前へと進んでいく。まるで大自然ををなでやかにしなやかに飛び回る一匹の鳥のようにな……。すまない、話が長くなったな。ちょっと待ってろ、珈琲豆をトリプルミディアムスタンダードプラスで挽いてくる」
そう言うなり隊長はミニキッチンへと向かった。
***
「……。飲みながら落ち着いて珈琲マナーを守りながら静かに聞いてくれ。ニッキー&ボギャニフニダフニスブラザーズが経営している古書店に外伝オグロ・バンニフニャスタス写本が入荷された」
「――!?」
その時、俺は高まる好奇心と胸踊る鼓動にまるで心の中が夏祭りのようになった。
外伝オグロ・バンニフニャスタス写本というのは今から約四百年に活躍した民俗学者ベグス・ドルマン・オルニャスタンスが超古代の儀式や風習を事細かに書き記したS級書物である。現存するものなんて存在しないと思ってたのにまさか……。
「ニッキー&ボギャニフニダフニスブラザーズとは昔から仲が良くてね。とくにニッキー元上級大尉とは同じ部隊で同じ釜の飯を食べたこともある仲だ。その彼らから魔界電報で入荷情報が来たのだ。『君が欲しがっている物が手に入った』とな。そこでユキオス、君の出番だ。今からラ・ハルヤパスの町へ行き古書店で外伝オグロ・バンニフニャスタス写本を手に入れてもらいたい」
「本は見たいですがたまには隊長自分で行ったらどうですか。なんだか俺ばかりしんどい思いをしてるような……」
「ユキオスよ実は今回は自分の足で出向こうと思ったのだ。しかし、急な用事が入ってな。だから君の出番だなのだよ」
「はぁ――。はいはい。分かりましたよ。俺もその本読みたいですし」
「よし、なら話は早い。すぐにでも出発してくれ」
隊長はとても嬉しそうな表情でそう言った。




