第82話 隊長との語らい
俺と町衣紋さんが無事に帰還したのは辺りが暗くなったそんな時間帯だった。
農場宿舎を抜けて正面玄関へと入る。そこには優しいゴーレムさんがいた。
「二人ともよく帰ってきたねぇ――。おばさん心配してたんだよ。お腹すいたろう。ご飯と炒飯とおにぎりでも食べるかい?」
「いえ、今日は疲れてるので止めときます。食事は魔界ドライブスルーで済ませてきました。
にこやかな笑顔を優しいゴーレムさんに見せながら俺はそう言う。とりあえずこの後、隊長に会って報告をしなければならない。
「そうかい。おばさん魔界ドライブスルーにとうぶん行ってないよ。羨ましいねぇ」
そう言った後ふわりと見せた優しいゴーレムさんの微笑みがとても印象的だった。
旅装を解いた後、俺は隊長の元へと向かう。町衣紋さんは『先に風呂に入るから報告よろしく』という言葉を残して浴場へと消えていった。
――トトトト……。
隊長執務室のドアをリズミカルにノックする。
「ユキオスです。ただいま戻りました」
「待っていたぞ。入れ」
***
隊長執務室に入ってから四十分近くが経過した。まるで時間が立つのを忘れるかのような気持ちで俺は隊長にドミルセーエフ市で起きた事案を伝えている。隊長は珈琲を飲みながら俺の話に聞き入っている。
「消えたロバート一派と反ドラガゼス派首脳。それにパルメクルか……。無論、勇者迎合派は我々魔王軍共通の敵。ドミルセーエフ市との共闘に異論はない。しかし……」
ここで隊長は一呼吸置く。
「パルメクルは軍事大国であり軍事転用可能な飛翔筒研究にも貪欲に取り組んでいる。現魔王府最高指導部からすればできるだけ波風を立てたくないだろうな。それに現在全作戦統帥を統べるべき魔王軍統合参謀本部参謀総長の任にあるフラシス大将はハト派。だから……。余計にな」
「隊長、パルメクルは飛翔筒を使って何をしようとしているのですか?」
「現時点では確定的なことは言えん。例えば――。の話だが、もしかしたら奴等は月面到達を最終的な目標として視野にいれているのかもしれんな。それほどまでに飛翔筒は魅力的な研究対象物で無限の可能性を秘めているのだ」
隊長は天井を見ながらそう言った。
「えっ……。げ、月面到達!?」
隊長の一言が俺の脳裏を駆け巡る。ほ、本当にパルメクルは飛翔筒で月を目指してるというのか――。いや、待てよ……。ここである疑問が浮かび上がる。
「隊長、そもそもここは魔界ですよね。魔界から月へ行けるのでしょうか?」
「魔界というのは文法上の用法に過ぎない。我々は慣習として『魔界』という用語を使っているのだ」
「あっ……」
たしかに隊長の言い分が分からんでもない。ここ、いやこの国は『魔力をもった王が統治する世界』略して『魔界』そう考え直すと辻褄があう。それによく考えてみると俺達の頭上には太陽が上り夜になると月が見える。
「ユキオス、奴等の目的を俺達は知る必要がある。今、パルメクルの中で何が起きているかを含めて……。な」
「隊長、オーダーミクロガルスとはなんですか?」
「オーダーミクロガルスか……。」
その瞬間、隊長は珈琲を一気に飲み干す。ここに隊長の『揺るぎのない決意』を読み取ることができた。
「今はまだ……。言えん。この計画の全貌は俺を含め魔王府から承認を得た一部の者しか知らん。もちろんこの計画はまだまだ始まったばかりだ。それにオーダーミクロガルスに俺達がどのくらい関わることができるのかもわからん。当面の間は日々の農作業を行いながらキミが話したように消えたロバート一派達の行方を探ることになる。キミにはこれまで以上に活躍してもらわなければならないな」
そう言い終わった後、隊長はニコリと微笑んだ。




