第79話 帰還
――トットットッ……。
磨かれて輝いている階段を上る。元首は二階の控え室にいるらしいが――。心なしかなんだか緊張する。
「ユキオスはロバート一派の動向をどう思う?」
不意に町衣紋さんが俺に話を振ってきた。
「そうですね……。やはりパルメクルへ行ったのではないでしょうか。そこで何をするかはわかりませんが。しかし我々は農場スタッフであり魔王軍の一員です。上級司令部の命令なしではこれ以上動けません」
「そうだな。一度、農場へ帰って隊長とこれからのことを話し合わなければならんな」
「はい」
そう言い終わった後、俺は元首が待つ扉を開けた。
***
「おぉ、二人ともよく来てくれた。お陰さまで勢力を盛り返すことができた。紫錫司のマントは失われてしまったが形あるものはいつかは消える。別に悔やむことはない。国を護るのはモノではない。人なのだ」
ドラガゼス元首はニコリと微笑みながら俺達にそう言った。
「そう言えば君達と行動を共にしていたコフブは?」
「はい、コフブさんは消えたロバート一派と反乱軍首脳の行方を探るべく元首府情報室へ向かいました」
「そうか。さすが私的情報幕僚は違うのぅ。行動が早い。彼に任せておけばすぐに何かを掴むじゃろう。そして、このあとじゃが……。君達はどうする?」
「はい、一度農場へ帰ろうと思います。隊長や大根にも会いたいですし」
「本当はまだここにいてもらいたいが……。仕方がないな。ユキオスよ隊長にこの手紙を渡してくれ」
そう言うなり元首は一通の手紙を俺に差し出した。
「これにはキミが持ってきた手紙の返答が書かれている。そしてゴルヌス隊長に伝えてくれ。『オーダーミクロガルス作戦に我がドミルセーエフ市も参加する』と」
「オーダーミクロガルス作戦ですか?」
「そうじゃ。しかし私の口からこれ以上のことは言えん。どのみち君達の今後の運命の歯車にも密接に関わってくるじゃろう。消えたロバート一派と反乱軍首脳の件じゃが何かわかり次第、農場へ伝令を送る。その時はまた協力してもらえるかな?」
「はい、もちろんです。元同僚とはいえ勇者迎合派であるロバートさん達は共通の敵。それに消えた飛翔筒研究の第一人者であるケーニス博士のことも気になります」
「うむ、その通りじゃ。その事案を含めてこちらで調べとく。あと、君達にこれを授けよう」
そう言い終わるなりドラガゼス元首は二つの小箱を俺達に渡した。
「これは第一級ドミルセーエフ市憲政守護功労記章及び憲政守護メダル。私からの細やかな感謝の気持ちじゃ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます。謹んで拝受します」
俺と町衣紋さんは記章とメダルが入った小箱を受け取った。




