第78話 次への声
警戒灯台を離れ市議会議場に俺様が到着した時、正面玄関には正装したパトリキオスがいた。彼曰く『我々の勝利』とのことだった。親ドラガゼス派の議員団及び親衛法務隊員を連れて議場に突入した時、内部の議員達は皆即座に恭順の意思を示した。警務隊本部の高級幹部幕僚もその場におり今回のガルシアヌスの『反乱』を未然に防げなかったことを心から詫びて誓紙を提出してきたという。
「風見鶏の奴等のことです。もし初動で元首が死亡した時は即座に元首率いる政府に反旗を翻していたでしょう」
「そう言えばガルシアヌスはどうなったのです?」
「彼の身柄は今、憲政守護法務局付きの病院にあります。傷が完治した後、軍事身分を剥奪し法務局特別法廷で裁かれます。反乱に加担した連中もこの法廷で法の裁きを受けることになります」
「そうですか……」
一応、一件落着といったところか。コフブさんや町衣紋さんもとても嬉しそうだ。
「しかし……」
その途端、パトリキオスさんの顔が曇る。
「ど、どうしたのですか?」
「ガルシアヌスを除いた反ドラガゼス派の首脳が姿を消しています。今、武装法務隊員を各自宅へ向かわせてますが恐らく本人はいないでしょう」
「そうですか……。彼らはどこへ……」
「今、情報部を総動員して行方を捜してます。恐らくロバート一派とともにどこかへ逃亡したのでしょう。しかし、ケーニス博士がいないのがとても気になります」
「ケーニス博士?」
「はい、コンスタニウス・フォンケルゲン・ケーニス博士です。彼は古代遺跡から出土した超遺物を元にしてダダスブルゴー航空宇宙技術設計局で飛翔筒の上級研究員をしていました」
「飛翔筒!?」
そんなものがこの場所で研究されてただなんて――。驚きしかない。でも、その彼が姿を消したとなると……。由々しき事態だ。
「飛翔筒研究は我々の最重要機密です。一ヶ月前にようやく模型を使った第一初動発射実験が成功したばかりなのです。ケーニス博士は常日頃、『予算と人員が絶対的に足りたい……』と度々元首府に陳情書を持って訪れてました。もしかしたらそこをロバートさんにつけこまれたのかもしれません」
「それはヤバいですね。飛翔筒は軍事転用も容易……。もし本格運用が可能になったら――」
その時、俺の脳裏に最悪のケースが思い浮かぶ。それだけは阻止しなければならない。しかし、絶対的に情報が不足している。それに農場にも帰らなければならない。
「不幸中の幸運……。と言いますか飛翔筒研究はまだ始まったばかりです。当面は使い物にはならないでしょう」
「時間はたくさんあるということですね?」
「はい。おぉ、すいません。話が長くなりました。元首の元へ案内します。こちらへ」
パトリキオスさんに連れられて俺様は議場内へと向かった。




