第60話 町衣紋、走る!~後編~
――ドギュュュューン!
大型吹き矢の矢が闇夜を切り裂く。ロケット花火のような凄まじい音だ。いったいどんな構造をしているというのだろうか。
「ハッハッハッ――。町衣紋よ隠れても無駄だ。この大型吹き矢ゲネツフライゴスゼスゴスは俺専用にカスタマイズされた代物だ。俺の特技である大きなため息によって高められたその威力は通常吹き矢の約十倍に匹敵する。弓矢のないお前に勝ち目はない!」
かつての宿敵であるニコライズは既に勝ったような笑みを浮かべながらそう言う。たしかに奴の言う通りだ。こういう危機が迫った時に限って弓矢がない。目立つと思ってパロオゴスさんに預けてきたのがとても悔やまれる。
「くっ――!」
絶対絶命である。しかし、ニコライズを何とかしないとこの先には進めそうにない。
「隠れてないで出てこい。どうした、怖いのか!」
やつが叫ぶ。何か現状を打開できないかと思いポケットに手を伸ばす。
――ガサゴソ……。ガサゴソ……。
ポケットの中に何かある。希望を込めて『それ』を出してみる。
「こ、これは――!」
割り箸だ。それも未使用の一品だ。
「チクショウ――!」
無念だ。これでは戦えない。いや、物は使いようだ。もしかすればもしや……。
――ドギュュュューン!
その時、吹き矢の矢が俺が隠れている樽の真横に命中する。奴の狙いは極めて正確だ。このままでは埒が明かない。早く反撃しなければ。
――サッッッッ……。
俺は何とかニコライズの後方へ回り込めないかと速足で樽から躍り出る。手には先ほどの割り箸。この一撃で奴を戦闘不能にさせなければ!
「グッッ……!」
割り箸の少し尖った部分がニコライズの下腹部に命中する。狙撃に集中しすぎた奴の隙を狙った行動だった。しかしその瞬間的な『判断』が功を奏した。
「お前……。俺の弱点を覚えていたのか――」
「当たり前だ。命までは奪わん。しばし眠れ」
「む、無念……」
そう言い残したニコライズはガクッと身を崩した。




